キャリアカウンセリングを行う際に、クライアントが冒頭からいきなり現在の心配事を持ち出すことはよくあります。例えば、最も典型的なのは「転職したいがどうすればいいか?」のような質問です。カウンセラーも、そのように言われたら、すぐに「職探しのためのツール」「ハローワークなどの相談場所」など具体的な提案をすることも多いのではないでしょうか。このように相手の悩みに焦点を当ててその具体的な解決案を出すことは一見効率的に思えるかもしれません。しかし、これがかえって問題解決を遠ざける結果になる場合があります。その理由は、クライアントの背景や状況を把握しないまま話を進めると、カウンセラーとクライアントの間で認識のズレが生じる危険性があるからです。

クライアントと同じ景色を見ることの重要性

カウンセリングでの目標の一つは、クライアントと同じ景色を見ることです。背景を理解せずに悩みを聞くと、カウンセラーは自分の知識や経験に基づいて問題を捉えがちです。しかし、クライアントが見ている「景色」と一致していなければ、その捉え方は的外れになりかねません。
たとえば、上記のように「転職したい」という言葉だけで解決策を提示しようとするのは危険です。転職したい理由は、職場の人間関係、スキル不足、会社の文化とのミスマッチなど、多岐にわたる可能性があります。そのため、背景を聞き取り、状況を深く理解することで初めて、適切なサポートが可能になるのです。

背景の聞き取りがもたらすもの

しかし背景といってもどこからどこまでを知る必要があるのでしょうか。クライアントに自由に話してもらうことで、ある程度の背景はわかるかもしれませんが、以下の項目はクライアントの全体像を把握するために必須の項目なので、もし出てこなかった場合にはこちらから聞いてみるのがいいでしょう(あくまでも自然に)。

1. 会社の規模

会社の規模によって、クライアントが抱える課題が異なります。たとえば、大企業では明確な役割分担がある一方、中小企業では多岐にわたる業務をこなすことが求められる場合があります。クライアントの現状を理解するためには、どのような規模の会社で働いているかを知ることが大切です。

2. 上司の性格

上司の性格や指導スタイルは、クライアントの職場での経験に大きく影響します。「上司とうまくいかない」という悩みがある場合、その背景には上司の具体的な特徴やコミュニケーション方法が関係している可能性があります。ごくたまにですが、「パワハラ」「モラハラ」などを受けていることもあります。

3. 同僚の協力

職場の人間関係は仕事の満足度やストレスに直結します。同僚が協力的であるかどうか、孤立していないかを確認することは、クライアントの心の負担を理解する手助けになります。

4. 仕事外の趣味

仕事以外での活動が、クライアントのメンタルヘルスやエネルギーの回復に役立っているかを把握することも重要です。趣味に打ち込む時間があるかどうかは、仕事とプライベートのバランスを見る指標にもなります。

5. 家族の有無や協力

家庭環境も仕事に大きな影響を与えます。特に育児や介護といった家族のサポートが必要な状況では、クライアントが感じる負担や優先順位が変わってきます。家族は日本にいる家族について聞くことはもちろん大事ですが、国にいる家族も精神的な支えとしてかかわっていることもありますので、相談者の状況や、相談内容によってはそこに触れる必要もあるかもしれません。

6. 職場の雰囲気

職場の雰囲気がオープンで協力的なのか、競争的でストレスが多いのかを知ることは、クライアントの悩みを理解する鍵になります。

聞き取りの姿勢が信頼を築く

背景を聞き取る際には、以下のような姿勢を心がけると良いでしょう。

  • オープンな質問をする
    クライアントが自由に答えられるように、「職場の雰囲気について教えてください」といったオープンな質問を投げかけます。

  • 共感を示す
    クライアントの話に耳を傾け、「それは大変でしたね」と共感を示すことで、安心感を与えます。

  • 焦らない
    背景を全て聞き取るのに時間がかかる場合もあります。一度のセッションですべてを把握しようとせず、徐々に信頼関係を築きながら進めることが大切です。中には5~6回目のセッションで初めて出てくるような情報もたまにあります。

まとめ

キャリアカウンセリングにおいて、クライアントと同じ景色を見ることは、問題解決を加速させる鍵となります。そのためには、背景を理解するための聞き取りを丁寧に行い、クライアントの視点を共有することが重要です。同じ景色が見えると、問題の本質や将来的に起こりうる課題が見えてきます。カウンセラーとして、まずはクライアントの全体像を捉える努力を忘れずに行いましょう。