この記事は,上智大学 言語科学研究科 言語学専攻 言語聴覚研究コースに通う者の受験体験記の前編(前日までの勉強編)である。タイトルどおり!
なぜわざわざ受験体験記を書こうと思ったかと言うと,私が受験するときに情報がなさすぎて苦労したからである。なお,ここではコースについて詳しい説明はしない。大学の公式HPなどから得られる情報は一通り得た上で,勉強法などに悩んでいる受験生を念頭に置いて書いている。
この体験記を読む前に留意してほしいことがいくつかある。
- これはあくまで「私の」「体験記」に過ぎない。……と言うと当たり前のように思われるかもしれないが,これが意味するところは大きい。私はこうやって勉強したら合格できたというだけの話であって,誰もが同じ勉強法をしたら合格できるとは一切思っていないし,そんな保証もない。なので,参考程度にと言ってしまうとそれまでなのだが,「ここは私の勉強にも取り入れられそうだな」とか「ここは僕と状況が違うからあんまり参考にならないな」とか,自分の勉強法を振り返るきっかけくらいのつもりで読んでほしい。
- そして何より,出願方法や入試科目・日程・時間,問題の傾向など,受験制度に関するあらゆる要素が,私が受けた年度から変わっている可能性がある。なので,そうした部分については必ず,説明会や入試要項,過去問などをもとに最新情報を参照すること。
- また,個人情報特定を防ぐため,受験年度は伏せさせていただきたい(ただ,このブログの執筆日からそんなに離れてはいないであろう,とは小声で申し添えておきたい)。また,私自身のプロフィールに関わってくる部分も,大意を損ねない範囲でぼかして書く可能性がある。
- 要は,あなたがこの体験記を読むにあたって,この体験記の信憑性は極めて低いと言わざるを得ないということである。それでも,私が受験生だったときに,1つでもこういう情報リソースがあったらだいぶ救われたと思うので,似たような境遇に置かれている未来の後輩のためにこれを書くまでである。
- そして,もしこれを読んでいるのが在学生・卒業生なら,ぜひご自分の受験体験記も何らかの形で綴っていただきたい。サンプル数は多ければ多いほどよいのである。
以上。ではまずは前日までの勉強から。当日のことが知りたい人は後編へGO。
説明の仕方が少し悩ましいのだが,まず時系列順に説明して,その後,科目ごとにどういう勉強をしたかを説明しようと思う。
全体外観
前提として,大学院を受験した当時,私は大学生ではなく,半社会人というか,半フリーターというか,そんな感じであった。そのため,しっかり大学生の方や,がっつりお仕事をされている方と比べると時間的な余裕はかなりあった方だと思われる。
まず,私が受験を決意したのは7月~8月頃であったと思う。そのため,9月入試の出願期間はすでに終わっており,2月入試しか選択肢が残っていなかった。
入試説明会には7月頃に参加した……はずである。言語聴覚士資格取得を目指す場合は在学期間が2年半であることなど,説明会に参加しないと教えてもらえない重要な情報がかなりあるので,必ず参加した方がよい。
その後,過去問を取り寄せ,とりあえず1科目ずつ順番に解いていった。最初は時間を気にせず解いたため,90分の専門科目を解くのに余裕で3~4時間くらいかかっていた。そんなわけで,1周目はほぼ1日1科目しか解けない状態だった。とはいえ,3科目×2回分(9月・2月)×3ヶ年分で,1日1科目しか解けなくても3週間足らずで終わる算段である。私は仕事の都合などでできない日もあったのでもう少しかかった。
問題を解いた全体的な感触として,とにかく時間との勝負だなと思った。何を書けば全く思いつかないという感じではないのだが,思いついたことをダラダラと書いてしまうと,際限がなくなってきていつまでたっても書き終わらないし,そもそも読みづらい文章になってしまい,後から修正するとなったらまた時間がかかる。必要なことを端的に,時間内に書き切る訓練というのが,私の場合は必要だなと思った。科目ごとの具体的な問題分析については後述する。
その後の勉強法としては,まずはとにかく過去問を繰り返し解いた。というか,過去問くらいしかやる教材がなかった。大学受験や資格試験みたいに,一定の知識をインプットするという感じでもないし,参考書や問題集などがあるわけでもない。とにかく過去問を繰り返し解いて,設問をどういう順番で解いたらよいのかとか,この設問に解答するにあたって最低限書かなければならない要素は何かとか,限られた時間内でより高得点を得られる解答を書くために必要なことを研究していった。その甲斐あって,徐々に時間内にそこそこの解答を書けるようになってきた。3周目くらいからは,1日に2~3科目解けるくらいになってきて,その分勉強のペースも上がってきた。
ここで1個疑問が生じる。同じ問題を繰り返し解いていると,問題や解答を覚えてしまうのではないか。これに関しては,大丈夫である,と答えておきたい。まず,模範解答がついていないので,覚えるべき解答というのは存在しない。その上で,以前の解答に盛り込んだ要素を覚えているということはあったが,一字一句覚えているわけではないので,文章の構成や表現は結局その場で考えていかなければならない。元々私の勉強の主眼は「解答作成のスピードアップ」にあったので,これだけでもだいぶトレーニングになった。
また,前述の通り模範解答はついておらず,何か定まった答えがあるというよりは自分の考えをしっかり論理的に述べられるかというような試験内容であるため,自分の解答でとれくらい得点できるのか全く検討がつかない。また,他の受験生がどれくらいの解答を書いているのかも想像がつかない。試験対策としては絶望的な状況ではあるのだが,私はこれを「論理的に筋の通っている解答だったら何でもOK」ということだと肯定的に解釈し,論理の不備を補うようにして自分の解答をブラッシュアップすることに集中した。本当は,他の人に客観的に自分の解答を読んでもらってアドバイスなどをもらった方がよいと思う(私は周りにそういう人がいなかったので不利だなぁと感じていた)。
最終的に,過去問を全科目フルで周回したのは4周で,間に小論文だけ2周した期間が挟まっている。というのも,専門科目と英語は徐々に時間配分のペースを掴めてきたのだが,小論文だけはなかなか時間内に書き終わらず,集中特訓の必要性を感じたからである。周回数に関しては,半年ほど勉強時間があったにしてはやや少ないような気もするが,仕事もあったし,あまり根詰めすぎるとすぐ病んでしまう体質のため,自分の心身とも相談しながら勉強を進めた結果だった。
過去問演習の他には,英語の対策は行っていた。これについては後述する。また,過去問に載っている文章には出典が明記されているため,どうしても何を書いたらよいのか分からず,かつ出典にあたればある程度解答の道筋が見えてきそうな問題に関しては,出典の書籍を買うなり図書館で借りるなりして読むということもしていた。あとは,関心のある分野(大学院で研究したい分野)について書かれた本を,息抜き半分,志望理由書や口述試験への対策が半分のつもりで読んでいた。口述試験対策についても後述しようと思う。
まとめると,
- 過去問周回をベースとして,
- 英語の勉強や,
- 読書(過去問の出典や関心のある分野の本),
- 口述試験対策
……などを合間に挟み込む形で勉強を進めていたことになる。
人によって勉強にあてられる時間が全然違うと思うのでこればっかりは何とも評しようがないが,私個人の感覚としては,もう少し時間を有効活用すれば量をこなすことができたんじゃないかと思っている。仕事があったとは言え,かなりのんびりペースで進めた方である。その分,自分に足りない部分を明確にして,その部分にジャストフィットする勉強を計画することで,勉強の効率を上げることはできたのではないかと思っている。
また,これ以上勉強しても実力は大して伸びなかったのではないかとも思っている。というのも,そもそも「解答のスピードを上げる」ということに関しては,勉強すればするほど速くなるというものではなく,一定程度勉強した時点で上限が来るものだと思う。私の場合は,この上限に達するまで勉強することができたため,これ以上勉強しても解答スピードは上がらなかったのではないかと思うのである。
では,過去問を見ても何を解答したらいいのか皆目見当がつかない人,こういうタイプの問題への耐性がない人,解答の質を上げたい人はどうしたらよいのか。私はそういうタイプではなかったので分からん,というのが正直なところではあるのだが,あえてアドバイスするとしたら,問題文の出典などを片っ端から読んでみたらどうだろうか。問題を解くにあたっての基本的な知識や考え方はそれに身につくような気がする。あとは,心理学や医療・介護・福祉などの分野の基本的な教科書や,倫理・実務などを解説している本を読んでみるのもよいと思う(実を言うと私は大学では臨床心理学を学んでいたため,こうした分野の基本的な知識・考え方は予め身についている状態であった)。ただ,近所の図書館にそうした本が十分にない場合もあるし,全部買うとなったら予算が大変なことになるので,その辺は自分のキャパシティやお財布,利用できるリソースなどと相談してほしい。また,何回も言うようだがこの勉強法に確証はない。
科目ごとの勉強法
では次に,科目ごとの勉強法解説に移る。
専門科目
専門科目という名前がついているが,本当に専門的な知識が求められるというよりは,人間観や研究力,論理的思考力といった,言語聴覚士として,そして研究者として求められる基礎的な資質を見るような問題がほとんどである(ちなみにこれは私が過去問を見て感じたことでもあるが,説明会で専任教員の方が直接説明されたことでもある)。もし,過去問を見てもちんぷんかんぷんだというのであれば,勉強すべき分野としては,まずは心理学ではないかと思う。心理学と言っても,よくある「なんちゃって心理学」みたいなやつではなく,ちゃんとアカデミックな心理学で,研究法などの解説がしっかり載っている本を参照するとよい。あとは,医療・介護・福祉といった分野における基礎的な倫理やコミュニケーションについて分かる本があれば読んでみた方がよいかもしれない。また,言語発達や失語症,高次脳機能障害,聴覚障害などについて全く知識がないという人は,そうした分野の入門書や教科書みたいなやつをパラパラっと読んでみてもよいかもしれない。そういう意味ではやっぱり,心理・医療・介護・福祉・教育などの分野を大学で学んだり,そうした領域で働いていたりしたことのある人たちの方が,受験においては有利と言わざるを得ないのかもしれない(もちろん,他分野から来てはいけないなんてことはない。扉は誰にでもオープンに開かれている)。
あとは,時系列の章でも散々書いた通り,とにかく時間との勝負である。大問5つで90分ということは,1問にかけられる時間は平均18分,どんなに長くても20~25分が限度なのだが,何も考えずつらつら書き連ねていると普通に1問に30~40分くらいかかりうる。とにかく必要なポイントだけを端的に書く,という練習をした方がよい。あとは,可能ならば誰か他の人に自分の解答を読んでもらってアドバイスをもらえるとよい。
英語
実は,過去には問題形式が変わったこともあるようなのだが,私の入手できた範囲の過去問を見る限りでは,第1問は英文を和文で要約する問題,第2問は英作文が出題される。
英作文のテーマ・ワード数にはパターンがあるので,事前に準備していくことが可能である。というか,そうしないと当日,時間内に書き切れない。テーマについてはぜひご自分で過去問を見て確認していただきたい。
要約については,練習あるのみである。まずは英文を読んで意味が分からなければお話にならないので,読解の練習。その上で,指定字数に従って日本語でまとめる練習。ポイントは,パラグラフ(段落)ごとのトピック・センテンス(一番大事な文)を見つけることと,その間の論理関係を掴むということである。「和訳しろ」ではなくて「要約しろ」という問題なので,正確に訳すというよりは,文章の骨組みだけをシンプルな言葉で抽出することが求められる。すると,英文の内容はかなりの部分が削ぎ落とされることになる。この感覚に慣れるのに,私は時間がかかった。
具体的な勉強法としては,まずは過去問をやる。すると大体のレベル感が分かるであろう。その上で,過去問と同じくらいの語数の英文が読めるリソースを確保して,それをガシガシ日本語に要約していく。読解に難がある人はまず読解の練習から。おすすめは,大学受験用の英文読解の参考書・問題集である。高校時代に使っていたものがある人はそれでもよい。初歩レベルよりは,中堅~難関レベルの方が求められているレベルには近いと思うが,あまり難しすぎても心が折れるだけである。自分に合ったレベルのものから始めるのがよい。あとは,Psychology Today(https://www.psychologytoday.com/intl)というサイトの記事が,語数・難易度ともにちょうどよく,また最新の心理学研究に関するホットトピックを扱っており,素材としてはかなりよい。要約しなくても,気が向いたときに読むだけでも勉強になる(実際私はそういうふうに使っていた)。また,要約に関しては,大学受験などでも出題されることがあるらしいので,ひょっとしたら受験対策本やインターネットサイトなどを漁ればノウハウが転がっているかもしれない。
あと,専門科目で専門知識が問われない代わりに,英語ではけっこう言語学・心理学・脳科学などに関する専門知識・専門用語が求められる印象がある。そうした知識が薄い人は,基礎的な教科書などだと専門用語に英語が付記されていることがあるため,そうした本をもとに英単語を覚えるのも有効だと思う。
小論文
私の感覚では,筆記試験3科目の中で小論文が一番,時間との戦いである。専門科目同様,専門的な知識はほとんどいらず,文章や図表をどのように読み取るか,それをもとにどのように自分の意見を論理立てて書けるかが求められている(ただ,内容は心理・教育・医療・福祉などに偏っているため,そうした分野を学んだことのある人の方が有利であることには変わりない)。だからこそ,その場で考えなければならないことのウエイトが大きく,それを時間内にこなすにはかなりの鍛錬がいる。しかも指定字数もかなり多い。前半の小問は手早く終わらせて,最後の800字論述にいかに時間を回せるかが鍵となってくる。
前半の小問は,もちろん回によって異なるのだが,文章や図表から実験の結果を読み取ったり,それをもとに考察したりといった設問が多い。ここでもやはり,心理学的な研究法をしっかり勉強していると有利であると言わざるを得ない。ただ,それだけでもだめで,微妙な結果が出ていてどこまで詳しく書くべきか迷ったり,直観に反するような結果が出ていて背景要因の推測がつかなかったりといったことも少なくない。私は最後までこうした問題に悩まされ続けたため,あまり有用なアドバイスはできないのだが,心理学の専門書などを読んで「研究の見方」を身につけること,そして,あとはやはり繰り返し過去問を解いて慣れていくことしかないのではないかと思っている。
後半(最後)の800字論述は,課題文を踏まえて,自分自身の経験と紐付けて考察しろみたいな問題や,言語聴覚士としての臨床や日常生活の中でこの研究知見がどのように活かせるかといったような問題が多い。つまりはもう本当にただの小論文なので,世に出回っている小論文のテクニックを活用できると思う。人によって合う書き方が違うというのは前提とした上で,私の書き方を説明すると,まず文章の骨組みをつくる。設問で問われていることにまず答え,それをどういうふうに繋ぎ合わせて,どういうふうに論を展開させていくのかを,余白に簡単にメモしておく(現実には,時間の都合で論の展開については決めきれないまま書き出すことも多かった)。書き直している時間はないので,誤字脱字や文法の誤り等ミスのないように慎重に書き進める。必要なことをとりあえず書いたら,あとは補足事項みたいなもので字数を埋めていく。ただし論理性が損なわれない範囲で。
口述試験
口述試験は,どんなことが聞かれるか本当に想像がつかず,めちゃめちゃ不安だった。とりあえず聞かれそうな質問を洗い出し,それに対する回答を準備するというような対策しか基本的にはできなかった。具体的には,入学志望理由をはじめ,言語聴覚士になりたい理由,どんな研究をしたいか,自分の適性やこれまで頑張ってきたこと,挫折したことなどを予想問答リストに挙げた気がする。また,上智の言語聴覚研究コースは,入学前に研究計画をしっかり立てるというよりは,入学後に教員と話し合って徐々に研究計画を決めていくというスタンスのため,研究計画について細かく聞かれる可能性は低いと考えたが,とはいえ,どんな分野に関心があってどんな感じの研究をしたいと思っているかというイメージは最低限語れるようにした。結果的にどんな質問をされたかについては後編(当日編)を参照のこと。
そうして予想問答を立てた上で,実際の面接場面をシミュレーションして話すという練習をした。というのも,私は話し言葉で自分の思いや意見を表現することに苦手意識があり,ただ内容を考えていくだけではなく,実際に話す練習をした方がよいと考えたためである。その際,相手の目を見て話すことに慣れるよう,クマの人形を正面において,クマさんの目を見ながら,クマさんに伝えかけるように話すという練習も行った。ぼっち受験生の涙ぐましい努力である(当たり前だが言い添えておくと,面接練習の相手になってくれる人が身近にいるならそうした人にお願いした方がよっぽどよい)。
まとめ
以上,前日までの勉強法であった。こうして書き出すとけっこういろんなことをやっているように見えるかもしれないが,それは1つには,勉強にあてられた期間が半年間と比較的長い方であったと思われるということがある。また,がむしゃらに何でもやったというよりは,今の自分の実力と合格するのに必要と思われるレベルとの差を埋めるのに最低限必要なことを見極めてそれだけをやったという感覚が強い。実際,同じ勉強期間で,もっとがっつり勉強している人はいると思う。
私にとって大学院受験は,とにかく孤独な戦いであった。頼れる先輩や先生もいなければ,励まし合える友だちもおらず,情報リソースも限られていた。落ちたら後がないにもかかわらず,今の自分のレベルがどれくらいで合格に必要なレベルからどの程度離れていて,他の受験生は何人くらいいてどれくらいのレベルなのか,何も分からず,常に不安なままであった。それでも,目の前の問題に対してできる限りのパフォーマンス(解答)を発揮できるようにすることで,合格の可能性を上げることができる。逆に言うと,それ以外に合格可能性を上げる方法がない。そう割り切って,不安な分とにかく目の前の問題に集中するというのが,私の受験勉強のスタイルであった。
というわけで,この受験記が,あなたが活用できる情報リソースの多少の足しにでもなれば幸いである。それでは後編,試験当日編に続く。