『陀吉尼の紡ぐ糸』

探偵・朱雀十五の事件簿１

藤木稟著　角川ホラー文庫

＜探偵・朱雀十五の事件簿＞シリーズの１作目

ブロガーの妖美さん絶賛のシリーズです。

前から興味があり、やっとネットオフに入荷したので、シリーズ１作目『陀吉尼の紡ぐ糸』、２作目『ハーメルンに哭く笛』、５作目『大年神が彷徨う島』を手に入れました。

【内容（「BOOK」データベースより）】

昭和9年、浅草。神隠しの因縁まつわる「触れずの銀杏」の下で発見された男の死体。だがその直後、死体が消えてしまう。神隠しか、それとも…?一方、取材で吉原を訪れた新聞記者の柏木は、自衛組織の頭を務める盲目の青年・朱雀十五と出会う。女と見紛う美貌のエリートだが慇懃無礼な毒舌家の朱雀に振り回される柏木。だが朱雀はやがて、事件に隠された奇怪な真相を鮮やかに解き明かしていく。朱雀十五シリーズ、ついに開幕。

プロローグは明治２９年　浅草

真夜中に浅草花魁弁財天に集まった５人の高等学校の級友たち。

男子学生はそれぞれ怪談話を披露することになった。

その中で最後の語り手である班長の藤原の話は、この花魁弁財天の『神隠し』『妖狐が住む』とか噂されている『触れずの銀杏』にまつわる因縁話だった。

第一章からは時が変わり、昭和９年　浅草

『触れずの銀杏』の下で首が１８０度回転して後ろ向きになった状態で死んだ奇怪な男の死体が噂通り、神隠しの如く消えてしまった。

朝日新聞の三面記者 ”柏木” が取材を始めるとなぜかこの事件は警察ではなく特高の預かりになった。

記事が書けなくなり、それと同時に柏木の担当が三面から花柳界担当になってしまった。

そして柏木は吉原に取材に行く。

吉原はもめごとが起きると、警察は関与できず “車組” と呼ばれる組織が処理をするという特別な区域になっている。

その車組の頭である顧問弁護士が、この小説の主人公 “朱雀十五” その人である。

この小説の一番の魅力は、“朱雀十五” の異色の人物像にある。

ある事故により盲目となった元エリート検察官。

小柄で眉目秀麗、性別不明の色気があり、柏木は男と分かっていても、その優雅な笑顔にドキリとしてしまうほどだ。

彼は多弁であり毒舌で慇懃無礼。彼が話すことは何が真実で何が嘘なのかが判別つかないくらい嘘が巧みという人を食ったような男なのだ。

陀吉尼天とは美しい女に化けて神隠しをしたり、人の肉を食らったりする恐ろしい鬼神のことらしい。

吉原が主な舞台となって様々な奇怪なことが起き、禍々しくおどろおどろしたあやかしの世界が繰り広げられる。

朱雀十五のそばにいつもいる大男は、単なるボディガードかと思いきや、朱雀の目となり足となって情報収集し、なかなかの頭脳派の男であることが分かる。

得体のしれない予知能力のある宗教家で、政治家や軍部とも関わりのある男や、朱雀のかつての職場での知り合いの刑事、柏木の同僚など興味深い登場人物が多い。

登場人物紹介欄がないので、ちょっと困った。

柏木個人にも起きる＜夢か現か＞魔訶不可思議な現象に、読み始めてしばらくは、この本のジャンルはホラーなのではと思っていたが…

結末にかけての朱雀の謎解きで神隠しのトリックやホラー的な怪奇出来事がなんであったのかが鮮やかにも明快に解いてくれると、すべての伏線が回収され、ホラーではないと納得する。

結局、結末は時代の靄の中にうずもれてしまうような終わり方で、珍しい終結の仕方である。

この小説はかなり複雑なストーリーになっているので、人間関係をしっかり頭に入れておかなくてはいけないが複雑な分、読み応えがあり楽しめる。

また、愛新覚羅溥儀（『ラストエンペラー』の映画にもなっている）を皇帝とした日本の傀儡国家である満州国など、昭和９年の時代背景が大事な要素となる。

不穏な時代の中、三枚歯の高下駄を横に滑らせてそろりそろりと歩く花魁道中など、雅な吉原の風情も怪異な現象の中での妖しく耽美な独特の世界にどっぷり浸れるのも興味深い。

“朱雀十五” の魅力が１作目なのでまだまだ開花していないように思うので、２作目の『ハーメルンに哭く笛』を続けて楽しむことにする。

■神隠しは陀吉尼の呪い？『陀吉尼の紡ぐ糸』