『屍人荘の殺人』
今村 昌弘 著 創元推理文庫
映画にもなっているみたいですね。後で知りました。
映画はあまり評価高くないようですが、さて小説はどうでしょうね。
ミステリランキング驚異の4冠!
シリーズ累計50万部! 映画化!
デビュー作にして5冠達成!
待望の文庫化!
21世紀最高の大型新人による
前代未聞のクローズド・サークル
【内容(「BOOK」データベースより)】
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と明智恭介は、曰くつきの映研の夏合宿に参加するため、同じ大学の探偵少女、剣崎比留子とペンション紫湛荘を訪れる。しかし想像だにしなかった事態に見舞われ、一同は籠城を余儀なくされた。緊張と混乱の夜が明け、部員の一人が密室で惨殺死体となって発見される。それは連続殺人の幕開けだった!奇想と謎解きの驚異の融合。衝撃のデビュー作!
葉村譲、神紅大学経済学部1回生。
この葉村譲の「俺」という一人称で物語が語られる。
この小説は<全員が死ぬか生きるかの極限状況下で起きる密室殺人>というかなりの衝撃度作品。
冒頭に、剣崎比留子 宛てに届いた書簡が3ページ記載されている。
そこには、ある研究機関の調査を剣崎が依頼したその報告書である。
その内容は、その機関で得体のしれない実験をしていたこと、そしてその首謀者が誰であるかが記されている。
そして、物語の第一章が幕を開ける。
ミステリ好きの 葉村譲 と同大学理学部三回生でミステリ愛好会会長の 明智恭介 がある合宿に参加する。
明智は「神紅のホームズ」と自称するくらい謎解き好き人間。
それにしても、明智恭介というネーミング、作者は意図してつけた名前だわね。
明智小五郎と神津恭介、そして金田一耕助は日本三大探偵だもん。
金田一さんは外されたね。(; ^ -^)
その合宿に誘ったのが 剣崎比留子。同大文学部二回生で、警察にも協力して数々の事件を解決に導いた探偵少女といわれている。
その合宿所は、S県の婆可安古湖(さべあこ)近くにある同大OBが所有するペンション。
二泊三日の予定で、そのペンションは貸し切り状態。
この合宿前、映画研究部に「今年の生贄は誰だ」と書かれた脅迫状が届いていたり、去年の合宿の後、自殺者が出たり、なんともいわくつきの合宿らしい。
そのため、今年の合宿参加者は半減していた。
しかし明智恭介は興味津々、だが葉村はあまり乗り気ではない。
この合宿は同大映画研究部が短編作品を撮影するためのもので、あの物議を醸した映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のようにホームビデオで、どうやら心霊映像を撮るらしい。
葉村、明智、剣崎の3人を除いてはほとんどが映画製作や演劇にかかわる学生やOBたち。
このペンションのオーナーの息子は同映画研究部のOBで今回も参加している。
ちなみにこのペンションの名前は『紫湛荘(しじんそう)』という。
この小説のタイトルは『屍人荘(しじんそう)』である。何やら伏線めいている。
ペンションには、所有者の趣味で槍や剣、ハンマーなどの武器、中世ヨーロッパの9偉人ブロンズ像などが多く飾られている。
物騒だし嫌な予感。
この学生たちの合宿のシチュエーションは、ちょいと似たようなのがあったなーと思い出した。
そうそう『方舟』(11月21日ブログアップしている)に似た出だしだ。
あれは、すごい強烈な結末だったから、これも期待できそうなんて思いながら読み進める。
合宿に参加したのは、学生が10人、OBが3人の 計13名。そのうち女子は6人。
そのほか、ペンションの管理人が1人。
参加者の女子は全員美人。それは、どうやらOB達の要望だったらしい。
この中で、食いちぎられたむごたらしい連続殺人事件が起きるのだが、あまりに奇想天外になっていくので、その後の展開は伏せておくことにする。
映画にもなっているので、これから観る人もいるでしょうから。
映画と小説では、だいぶ違っているところがあるらしい。
映画でいえばB級映画。小説ではB級小説と言っていいのか分からないが、雰囲気としてはそんな感じの作品。
決して悪い意味ではない。
ドタバタ的な面白さが凄惨な殺人事件という中で、コミカルさを出している。
この小説を読むにあたって、てっきり密室殺人の純粋なる 本格推理小説 だと思って読み始めた。
確かに、間違いなく、それも二重密室殺人事件と念の入った本格推理小説だが、それに輪をかけて、もっと現実離れしたことが絡み合ってくるから面白さが倍増する。
すでに前半で、ホラーサスペンス・SF・スリラー・アクション・パニック小説 が混在した様相で、いったいこの小説はなんやねん、と相成った。
ふーん。これはあまりに展開の意外さに驚くとともに、どうなっていくのか興味が募る。
ちょっと想像だにしないストーリーでエンターテインメント性は高く、むごたらしい殺人ではあるけれど、ユーモラスな作風がおぞましさを軽減してくれている。
彼らは、ペンションに 籠城 せざるを得ないクローズド・サークルにしたのが何なのか?
そこがこの小説の一番のポイント。
そして、ペンションの 内部と外部と両方 から身を守らなくてはならなくなる。
ある人物が言う『まるで屍人荘だな』と…この言葉、すごい意味を持つ。
犯人が分かって解決するのだが、すっきりしない。
それは、冒頭のある研究機関の話が解決していないからだ。
ということで、どうやらこの小説は<屍人荘の殺人>シリーズとなって続いていくらしい。
2作目は『魔眼の匣の殺人』、3作目は『兇人邸の殺人』で、これはまだ文庫化されていない。
わたしは、とりあえず『魔眼の匣の殺人』は購入したので、続けて読みたいところだが、なんともこの残酷な殺人現場が頭から離れないので、少し間を空けて全く違うジャンルの本で頭を冷やしてから読むつもり。
少し、気になる部分もあったので、ここに記しておく。
これはあくまで私個人の記憶を書き残しておきたいためのものなので無視してください。
● P36の7行目に書かれていた、ある一文。
この中のある<一文字>。これが妙に気にかかる。なぜ、そんな一文が必要なのか?
普通、それは伏線であろうと判断する。ところが最後まで、それは何の意味を持たない言葉であった。
● ある人物の独白めいた文章が、何か所かに出てくる。
それが、あとになってもう一度確認しても、なんとなくちぐはぐであまり的を射ていない。
読者を混乱させるためと、ミスリードさせるためのものなのだとしても、内容がいまいちピンとこない。
独白部分を挿入する手法は、よく使われるが、今回はあまり必要もなく。それがあるために構成上まとまりが悪いような気がした。
● 犯人の動機が、いまいち希薄 な感じがした。
こういう動機はミステリでよく使われるが、今回はあれだけトリックを駆使して殺すだけの理由になるのか、ちょっと違和感。
でも、内容に関しては練られていて読者を楽しませてくれているので、そこはあまり気にしなくてもいいのかも…
● ある人物の嘘の証言。これも違和感。
嘘をついた理由の説明があり、一応は理解したものの、後付け理由のようで何となくすっきりせず、その人物の人格的なものが問われているようで、ちょっと残念。
でも、その嘘の証言が犯人特定を困難にしたという設定が必要だったので、仕方ないんだろうなと解釈したのだが…