無題 同前 夏目漱石
五十年来所士(しょし)「自由人」の分「自分に与えられた分」
豈(あ)に高踏「世俗からの超越」を期せんや 自のずと群を離る
畢門(ひつもん)「むしろを垂らした扉」杜(と)ざさず貧しきは道なるが如く
茅屋(ぼうおく)偶(たま)たま空しくして交わりは雲に似たり
天日 蒼氓 誰か賦(ふ)「漢時代の優れた長編の韻文」有る
太虚 寥廓 我れに文無し「文章書かずに沈黙している」
慇懃に語を寄す寒山子「漱石の愛する寒山子に静かに期待する言葉を寄せる」
饒舌の松風 独り君を待つ「松風は賑やかにあなたに駆け寄っているが」
この時漱石は午前中に 連載している『明暗』を書き 午後に漢詩を書いていた
『明暗』で俗世間の混沌を書いている漱石にとって午後に漢詩を書くことは一服
の清涼剤になっていたし ほとんど絶対といっていいほどに必要なことだった
天日に蒼氓 太虚に寥廓 慇懃に饒舌、、、、、、、
そしてもちろん 全体の調子 前半から後半への転調 リズム テンポ、、、、