無題 八月十五日 夏目漱石
双鬢「銀髪」に糸有りて無限の情
春秋幾度か読んで還た耕す「晴耕雨読」
風は弱柳を吹いて枝枝動き
雨は高桐を打って葉葉鳴る
遥かに見る半峰 月を吐く色「杜甫の句に 四更山は月を吐く」
長えに聴く一水「一すじの滝」 雲より落つる声
幽居 道「自然」を楽みて狐裘(こきゅう)「ちゃんちゃんこ」古りたり
褞袍(おんぽう)「綿いれ」を買わんと欲して時に城「城下」に入る
早いものだ もう頭は真っ白になった
日々 晴耕雨読をしているうちに
風は 柳の枝々をふるわせ
雨は 桐の木の大きな葉を打っている
遠い所に見える峰には 月がかかっている
そこにはひとすじの滝があって いつも雲から落ちるような轟音がする
静かな一人住まいをして 自然を楽しんでいるが 狐裘も古くなり
どてらも買いにたまには城下にも行っている
幽居の生活を楽しんでいる、、、、、人生、、、、、