『この人を見よ』 切り抜き ③ 作ニーチェ訳西尾幹二
_____例えば 私は断じて張子のお化けの類いではない 断じて”道徳の怪物”ではない
それどころか 私はこれまで有徳の士として崇められてきた種類の人間とは
生まれつき正反対の人間でさえある
打ち明けて言うが ほかならぬこのことが どうやら私の誇りの一つになっているらしい
私は哲学者ディオニソスの弟子である
聖者になるくらいなら いっそ半人半獣神(サティロス)になる方がましという人間だ
が それはそうとして ひとまずこの本をお読み頂きたい
多分 成功を収めた書物と言ってよいであろう
この本は思うに 今述べた対立(有徳の士かその正反対か また聖者か半人半獣神かの対立)を
明朗闊達な しかも人情の機微を心得た書き方で表現したという以外に
さしたる意味のない一書ではある
この本の中に私はこんなことを書いてはいない と今一番お約束できることといえば
人類を”改善”することであろう