東京都下、カラオケ店の一室。
猿のような顔をした長身の男が、いかにもご機嫌で歌っている。
「しィい~んじゅくゥ~はァ~ごおォうゥ~」
他の男女は寝ている。ちょうどいい具合に酔いがまわり、疲れたのだろう。
午前二時をまわったところである。
「いいかブラザー共ォ!ああ?おチャイニーズだがなんだか知らねえがよォ、調子こいてる奴ァ全員ブッ殺せェェ!全員だ!殺せ殺せ殺せ!」
もう若くないだろうに傷みきった金髪を逆立てた男は、下っ端の組員の整列した前をうろつきながら気違いじみた調子で叫ぶ。興奮しきって目が血走り、鼻息も荒い。しかしふと立ち止まり、最前列の組員に向き直る。
「にしてもよォ」
「はい!」
「お、おゥ声でけェなお前…しかしよ」
「はい!」
金髪が、地面を向いて一拍おいた。
「なァんなんだよこの雨ァよおおおお!!」
男が見上げた空には、高層ビルも震わすような雷が轟いていた。
“ご承知のように、飛び道具の使える天候ではない。つまり君たちは”
腰までの丈の中華服が、この集団のユニフォームらしい。円を描いて膝立ちをする男たちは黒を、真ん中で話している男は燕脂を着ている。
“刀か拳で闘うことになる”
“不足はございません”
燕脂の男は流暢なマンダリンをだが、応えた黒服は訛りが強かった。
“そうだ。私も、諸君ならばその方が心強いと思う程だよ”
“有り難いお言葉です”
“さあ行くのだ。一匹残らず始末してこい。”
“御意”
燕脂の男は、流暢な話ぶりには似つかわしくない下卑た笑みを浮かべた。
