自動車教習所。
教官からの質問攻め。
「今日は、これで終わり?」
「今から帰って何すんの?」
「就職活動とかしてんの?」
「なるほど」と思いました。
「喋りながら走る練習だ」と。
なるほどね。裏課題、みたいな。自然な感じを装いつつも、実際には「喋りながらでも正確にドライビングできるか」という、カリキュラムだ。
おそらく、全員に課されているのだろう。課されているのに、誰も気付かないんだ。ただの世間話だと思ってる。僕が初めて気付いた生徒なんじゃないのか?バレてますよ、それ。僕を甘く見ないでください。よっしゃ、ガンガン喋ったろやないかい。踊るダルマ御殿や!
…と思いきや、そうでもなさそう。まぁ普通に考えたらそうだけど。
ただの喋りたがり。
最近、右肩上がりでコミュニケーション能力を高めている自負もあったりして、教官との会話を広げてみた。
なんだかんだあって、趣味の話に。
「へ~ラジオかぁ。結構珍しいね。」
「聴いてる友達全然居ないですね。」
定番の会話を終えたところで、まさかのラジオネームの話。
「やっぱり変なラジオネームの人とかいるの?」
突然の質問に、頭をフル回転。
バスケットカウントさん、いぶし銀太郎さん、2012さん辺りが頭に浮かぶが、別に変じゃない。まぁ今思えば、僕が慣れちゃってるだけで、初めて聞いたら「え、いぶし銀?銀太郎?」みたいになりそうな気もするけど。
かといって「玉金ピロリロ」なんて、口が裂けても言えないし。
あっ、と思い咄嗟に
「ベネットは静かに暮らしたい、って人がいますね。」と。
ベネットさんを売る。
「長っ!暮らしたい、まで名前なんだ。へ~」
みたいな感じで。とりあえず乗り切りました。
すると教官が突然
「俺もメールとか送ってみようかな~」
と。
「いいっすね」と僕が返すと、突然遠くを見つめながら彼が力無く笑って
「そうだなぁ、ラジオネームは【○○自動車学校教官、最近お疲れです】にしようかな…笑」
なんて言うじゃないですか。
僕は驚きました。
教習生の僕に対して弱音を吐き、悩み相談をしているんですよ、これ。ベネットさんの「長いラジオネーム」という流れもしっかり汲みつつ。
僕も
「何かあったんですか?」
「やっぱり大変ですよね」
と言わざるを得ません。
少し自信がつきましたね。
ほぼ初対面の人間、しかも教官と教習生という関係性である大人から悩み相談を引き出せたんですから。
「態度が酷い生徒がいてさー」
「あなたの教習は受けたくないです、みたいなことも言われたりするしさ」
「毎日毎日同じ仕事の繰り返しで」
たまに進路を伝えつつも、助手席でどんどんデトックスする教官。共感と慰めの相槌を打つ僕。
運転よりも気を遣う。
最初は怖い人だと思っていたけれど、いざ話してみると、とても人間らしい人だった。
運転終了。
「負けずに頑張ってください」と「そのラジオネームはダサいしやめた方がいいです」をグッと飲み込み、帰宅。
サドルが雨でびしょびしょだ。