あなたは、この質問にどう答えますか?
「ラクロスにおける"良い選手"とは? 」
おそらく多くの人が、こう答えるかもしれません。
「 "チームを勝たせられる選手"」
もちろん、これは正しいと思います。
ラクロスは勝利を目指すスポーツであり、「勝たせる選手」が評価されるのはごく自然なことです。
しかし、ここでひとつ疑問が残ります。
「では、負けたチームの選手は、"良い選手ではなかった"と言えるのか?」
もちろん、そんなはずはありません。
敗れた試合の中でも、圧倒的な輝きを放つ選手はたくさんいます。
そもそも、ラクロスは相手がいるスポーツであり、どれだけ最高のプレーをしても、それが必ず勝利に直結するわけではない。
そう考えると、私たちが無意識に「良い選手」と感じているのは、
『チームを勝たせる(目的達成の)"可能性を高める"選手』
なのかもしれません。
では、もう一つ踏み込んでみると、
「私たちは何を指標に、"勝たせる可能性を高めた"と判断しているのか?」
『ゴールを決める』『失点を防ぐ』といった、わかりやすい指標だけでなく、
『味方のカバーをする』『相手の選択肢を消す』などの、目立たないけど勝利を支えているプレーもたくさんあります。
『良い選手』を理解する鍵は、"勝利"や"ゴール"といった結果だけでなく、
こうした"プロセスでの貢献"をどう捉えるかにあるのではないかと。
そんな、当たり前のようで意外と整理されていない問いを、あらためて整理してみようと考えました。
なぜなら、自分が"良い選手になりたい"と思うなら、まず「良い選手とは何か?」を理解しておく必要があるからです。
この定義が曖昧なまま"だと、成長の方向も曖昧なまま。
「良い選手」「良いプレー」と言われるものを、「なぜそれが良いのか?」まで理解してこそ、再現性が生まれ、成長スピードも格段に上がる。
そこで、この記事では『資源』をキーワードに深ぼっていきます。
ラクロスにおける『良い選手』を、次のように整理してみました。
【目的達成のために、『資源』を最適に活用できる選手】

少し抽象的に聞こえるかもしれませんが、これは僕のオリジナルの考えではありません。
色々なラクロス関係者が語る『良い選手』の本質を辿っていくと、最終的に行き着くのは “資源の扱い方がうまい選手” という共通点でした。
それを包括的にまとめたのが、この一文です。
では、その「資源」とは、一体何でしょうか?
よく「ヒト・モノ・カネ・情報」という経営資源は聞くと思います。
ラクロスも同じように、試合中には多くの『資源』が存在しています。
例えば以下のようなものです。
-
時間: プレーできる残り時間、判断に使える時間。
-
スペース: 攻撃に使える空きエリア、守備で埋めるべきエリア。
-
技術: ボールコントロール、出せるパスの種類、シュート力。
-
フィジカル: 体力、スプリント力、体の強さ、身長。
-
選択肢: パスコースやランニングルートの多さ、プレーアクションの可能性。
-
人:チームとしてどんな特徴の選手を抱えているか、グラウンドの中で誰がどこにいるか。
-
ボール:今ボールを持っているのか/持っていないのか
-
交代: 試合中に利用できる選手の入れ替えの機会。
-
Q間・タイムアウト:ゲームの流れを完全に断ち切るタイミング。
-
心理: 選手のモチベーション、集中力、自信。
などなど。
このように見てみると、ラクロスの試合中には、様々な"資源"が存在していることがわかると思います。
そして、良い選手とは、その時の状況に合わせて
「いつ・どこで・誰が・どの資源を使うか/使わないか」を見極められる選手
だと言い換えることができます。
■「資源を最適に活用する」とは?
では『資源を最適に活用する』とは、具体的にどのようなプレーを指すのでしょうか?
ここからは、
・味方や自チームの"資源を増やす"プレー
・相手の資源を"減らす"プレー
に分けて整理してみます。
✔︎良い選手ほど、味方や自チームの資源を「増やせる」。
●スペースを作り出す:
自分が囮の動き(「デコイラン」)をして相手をひきつけ、味方が使える"スペース"や"選択肢を作り出す。
●味方の負担を減らす:
守備の局面で、無理に奪いに行く必要がないと判断した時。「行くな!止まれ!」と声をかけて、味方の"体力"の無駄な消耗を防ぐ。
●時間を作り出す:
相手を引きつけてからパスを出すことで、パスの受け手に"時間"と"スペース"をプレゼントする。
などなど
こうしたプレーは、目立たないかもしれませんが、確実にチームを助けるプレーになっています。
✔︎良い選手ほど、相手(チーム)の資源を「減らせる」
●相手の強みを消す:
守備時にマッチアップしている選手がスピードを武器にしている選手だった場合。
その強みを発揮させないように、相手がキャッチする前にはできる限り距離を詰めて、"スピードに乗る時間"や"助走スペース"を奪う。
●相手の選択肢を減らす:
守備時に逆サイドに簡単に展開されないポジショニングを取り、相手のパスコースを限定しサイドに誘導する。そして、相手の"選択肢"を狭める。
●相手の時間を奪う:
試合終盤で自分たちが1-0でリードしている状況なら、意図的にポゼッションに時間をかけることで、相手の"プレー時間"や"心理的な余裕"を削ってく。
などなど
このように、
-
味方の資源を増やす
-
相手の資源を減らす
という2つの観点でプレーを見てみると、『良い選手』が何をしているのかが、かなりクリアになってきます。
▍『目的』に対して、資源を活用しているか?
とはいえ、何でもかんでも資源を「増やせばいい」「減らせばいい」、という単純な話ではありません。
例えば、自分がフリーでボールを受けるために、空いているスペースに動き出し、パスを要求したとします。
この局面だけを切り取れば、「スペースという資源をうまく活用している」ように見えます。
しかし、もし同じ場面で「ゴールを決める」ことを基準にした場合。
実は自分が囮になって、味方にそのスペースを使わせた方がチャンスに繋がる可能性が高いとしたらどうでしょうか?
その場合は資源の使い方が適切ではないと言えると思います。
つまり、
▍『良い選手』ほど、大局的な視点でプレーしている。

この図はラクロスの試合の目的を大きく3つの階層に分けたものです。
良い選手ほど、常に
「大局的な目的=相手チームに勝利すること」
を基準に判断している印象を持ちます。
例えば、先ほどと同じよう局面でも、
-
1Q 5分、0-0の場面
-
4Q 残り5分、1-0でリードしている場面
では、「最適な資源の使い方」は全く変わります。
残り5分で勝っているなら、無理にリスクを冒して縦に急ぐよりも、
一度下がってボールを受けて、チームを落ち着かせることが最良の選択かもしれません。
結局のところ、
「そのプレーが、目的達成(=勝利)に最も近づく選択だったかどうか」
これが、資源を最適に扱えたかどうかの基準です。
局面を切り取るのではなく、
スコア、時間帯、試合の流れ、相手や味方の状態
こうした"文脈"を踏まえて判断ができるかどうかが、良い選手との差になるのかなと。
■ラクロスは常に"限られた資源"の中で戦うスポーツ
では、なぜここまで資源にこだわるのか。
それは、ラクロスは、達成したい目的(=勝利)に対して、資源が常に限られているからです。
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15分×4Qという"時間"
-
限られた"体力"
-
"交代”の自由
-
その時の"メンバー構成"
-
自分の得意、不得意という"技術の幅"
-
"タイムアウト"の回数
そして、さらにラクロスが複雑なのは、
-
スペース
-
パスコース
-
選択肢
など、状況によって"増えたり、減ったりする資源"が存在すること。
これらを無視してプレーすると、例えば、
・無駄走りが多くて、肝心な場面で体力が残っていない
・味方が不得意な状況に陥るようなパスを出す
といったことが起きやすくなります。
だからこそ、大切なのは、
-
今の戦況と、どんな資源がどれだけあるのかを把握し、
-
それを「いつ・どこ・だれが・何のために使うか(戦略)」を見極め、
-
それを具体的なプレー(戦術)に落とすこと
これが重要になります。
この一連の思考プロセスが『戦略的思考』と呼ばれるものであり、
「"ラクロスIQ"の本質」だと考えています。
▍資源の多さ"だけ"で評価しがちな日本ラクロス界
日本のラクロス界、特にの育成環境のトレセンやセレクションでは、
-
足元の技術がある
-
足が速い
-
体が強い
といった、"目に見える資源の量"にどうしてもフォーカスして評価する傾向があります。
また、特定スキルに特化したスクールも増えていますが、これも基本的には「資源の使い方」ではなく、「資源を増やす」アプローチだといえます。
もちろん、資源は絶対に多いに越したことはないです。
-
「足が遅い」より、「足が速い」方がいい
-
「パスしかできない」より、「パスもドリブルもシュートもうまい」方がいい
世界のトップレベルになるほど、持っている資源そのものが"化け物クラス"だと思います。
ただ一方で、日本では
「それらの資源を、何を目的に、いつどこで使うのか」
という、使い方(戦略)の部分が"相対的に軽視されている"ように感じます。
本来、選手の価値は
-
資源の「量」
-
資源の「使い方」
この両方が揃ってこそ、成立するはずです。
▍「資源の量だけ」で勝負してきた選手がつまずく瞬間
「日本人は技術はあるけど、ラクロスは下手」
私はこう考えてます。
その背景には、この"資源の評価の偏り"も関係していると思います。
育成年代でよく見られるのは、
-
早熟でフィジカルの強さだけで勝ててきた選手
-
スピードだけで抜けてきた選手
が、周囲の成長とともに苦労するパターンです。
また、これは学生から社会人や選抜チームに選ばれるときも一緒です。
ゲームのように、能力値だけで見たらレベルが高い選手なのに、
-
「今、ドリブルではなく、パスの方が良かった」
-
「今、ボールを奪いにいくと、かえってチームの穴を空けてしまう」
といった、「状況判断の質=資源の使い方」でつまずく選手が少なくない印象です。
結果として、
・本来の力を最大限発揮できない。
・「俺の方が上手いのに、なぜあいつが出れているんだ。」と迷う
といった状態に陥ることもあります。
日本全体で見れば、世界で活躍することのできる選手も増え、
個のレベル(「量」と「使い方」)は、確実にレベルアップしていると思います。
しかし、
「目的に対して、"チーム"として資源をどう活用するか」
という視点では、まだ大きな伸び代があると感じています。
その結果、せっかく"質の高い個"が揃っていても、あまり活きていないと感じることが、カテゴリー問わず、まだまだ多いように感じます。
僕はここに、
日本が世界一を達成するポテンシャルがあると本気で感じています。
「資源」という視点でサッカーを見ると、プレーの見え方も評価はまったく別物になります。
たとえば、試合中に“止まっている選手”がいたとします。
あなたなら、その選手をどう評価をするでしょうか?
その局面だけを切り取ると、
-
ボールを受ける気がない
-
サボっている
-
積極性がない
と感じる人もいるかもしれません。
しかし、『資源』というレンズを通すと、全く違う解釈が生まれます。
|オフザボールの価値:「止まる」という“戦略的な貢献”
例えば、
「あえて動かずその場に留まり、相手をひきつけることで、味方が使えるスペース(資源)を作っている」
といった見方もできます。
逆を言えば、たくさんボールに触っているけど、むしろ味方のスペースを潰し、チームの攻撃を停滞させている原因になっている場合もあります。
|『声かけ』の重要性:見えない資源を操るコミュニケーション
ラクロス現場では、
「コミケしよう」
という声かけをよく耳にします。
では、そもそもなぜ声かけが重要なのでしょうか?
その理由の一つが、声が『資源』を増やすからです。
声による指示によって、
-
チーム全体の狙い共有し、方向性を揃える
-
味方の視界に入らない情報を補う
-
選択肢を増やす
といったように、声かけは味方の「情報」や「選択肢」が増やす行為です。
また、ポジティブな声かけは、心理的な資源(自信や集中力)を高めますし、
さらに、ボディランゲージやアイコンタクトも、言葉を使わずとも味方に意図を共有する、“非言語の資源操作”です。
こうした「見えない貢献」は、今後データが発達するほど、逆に過小評価される可能性が高まると考えています。
しかし、「資源」の視点を取り入れると、これらのプレーがいかに大きな価値を持っているかが、はっきりと見えてくるものです。
まとめ:資源の最適化が「良い選手」の真髄
「良い選手」は、単にスキルやフィジカルを多く持つ選手ではありません。
本質は、それらの資源を
「“いつ・どこで・何のために使うか”」を見極め、
目的達成のために最適化している選手です。
卓越した技術も、豊富な運動量も、それ自体は"ただの手段"でしかありません。
極端ですが、どれだけ足が速くでも、走るタイミングや場所が悪くて、全部オフサイドになっていたら意味がないわけで。
大切なのは、
「その時に持っている資源を、チームの勝利のためにどう機能させるか」
という視点です。
この“資源最適化力”こそが、これからのサッカーで問われる「良さ」だと考えました。
僕たちは、単なる表面的なプレーの成功に一喜応するのではなく、そのプレーがチーム全体にどのような「資源」の増減をもたらし、貢献しているのか。
この本質的な視点からラクロスを理解し、楽しむことで、この素晴らしいスポーツの奥深さを、さらに深く味わうことができるのかもしれません。






