だいたい、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準に沿っていないと、どういう血迷ったことか労働基準監督署は、「是正勧告書」という法律違反を指摘するとされている書式を使って、まるで違法であるかのように指摘してくる。決して、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準に反しても違法ではない。このやり方は、ほとんどだましているようなものだ。

 そもそも、法律違反でない指導には、「指導票」という書式が用意されている。それなのにあえて法律違反でない事項を「是正勧告書」で指摘するのは、どうみても会社側の混同を狙っていると言われても仕方がないことだろう。

 「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」を指摘されたら、法律違反ではないので「指導票」で書け、と主張してもおかしくない。指導を「是正勧告書」に書くのはどう考えてもおかしい。実際に、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」以外の指導を「是正勧告書」には書かないくせに。

 この「基準」は、大変ひどいもので、「基準」なので違反をしても罰則は当然ない。

 しかしながら、運送業界を強く規制している現状がある。

 問題なのは、この「基準」を守っていても、労働基準法違反となることがあり、「基準」を守っていても送検されることがあるということだ。それは、労働時間の考え方が「基準」と労働基準法で異なっているからである。

 また、時間外労働・休日労働に関する協定を行う場合には、「基準」を超えても一般的には労働基準法違反にならないわけだが、労働基準法違反となるような条項を時間外労働・休日労働に関する協定のサンプルにあざとく挿入している。これを知らない事業者は、労働基準監督署のサンプルをそのまま使用して、「基準」を超えたことが労働基準法違反となって送検されるという事態に追い込まれている。ほとんどだましているような状況がある。

 こういう二枚舌のような規制は、あまりにもひどい。

 こういう場合にどうすり抜けるのかという、社会保険労務士が活躍する場があるのだが、社会保険労務士でもこの問題に詳しい人は少ない。

 「通達」は、行政機関内部における指揮監督関係に基づき、下級機関に対する命令としての効果を持ちうるに過ぎない。このため、そこで示される法令の解釈は司法の判断を拘束しない。

 なので、労働基準監督署が法令を通達を持って解釈している部分は、裁判では否定されることもある。労働基準監督署が是正勧告書で指摘する根拠は通達であったりするので、是正勧告をしても裁判上負けると思っている是正勧告した事項は、会社が是正勧告に従わない場合でも検察庁に送致を行わない。というか送致できない。通達が裁判所で相手にしてもらえないような内容であると、検察庁で送致できないと言われることもあるからである。

 「ガイドライン」とか「基準」は通達以下の扱いなので、通達よりさらに根拠が怪しく、行政機関の「こうあってほしい。」という願望に過ぎないような内容のものもある。

 労働基準法第101条で。「労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。」とされているが、この帳簿には、法令で作成を義務付けられている賃金台帳や労働者名簿は含まれるが、タイムカードや日報などはガイドラインにおいて義務があるように書かれているだけで、法的な根拠が十分にあるわけではない。ガイドラインは裁判では全く考慮されないため、裁判上、タイムカードや日報などは提出義務がないと判事される可能性が十分にある。

 会社の事務所の警備記録などは、まったく提出が義務付けられていない書類で、提出を拒んでも法違反に問われない。これは労働基準監督署に面と向かって問い合わせれば、提出義務がないとしぶしぶに回答はしてくれる。

 退職時の未消化分の年次有給休暇については、退職日までに全て取得が可能であるが、年次有給休暇は労働者と使用者間に労働関係が存在していることを前提としている制度であるため、労働者の退職日を越える時季変更は行えない(昭和49年1月11日基収第5554号)とされている。したがって、退職する労働者につき年次有給休暇の未消化日数が存在し、未消化分の年次有給休暇の一部あるいは全ての消化を請求し退職日までの間に1日も出勤せず退職日を迎える状態になった場合、時季変更による代替日の指定が不可能となるため、使用者は行使要件を満たしていても時季変更権を行使できなくなるとされている。年度途中で労働者が退職することとなったとしても、年度当初から退職日までの日数で按分した休暇日数を付与することはできないし、計画的付与日が退職後の日に設定されているからという理由で、請求を拒否することもできないと通達では示されているが、判例などの根拠はない。それどころか、労使それぞれの状況を総合して、退職時の有給一括消化があまりにも背信的な場合は、労働者側の権利の濫用として、会社に時季変更権が認められるという通達を否定する判決さえある(ライドウェーブコンサルティングほか事件、東京高等裁判所判決平成21年10月21日)。このため、退職時であっても会社側が時季変更権を行使したと主張すれば、退職時であっても年次有給休暇の取得には民事的要素が大きく影響するため、労働基準監督署では通達に基づき年次有給休暇を与えていないという違反を記載した是正勧告書が出されるものの、実際には労働基準監督署の是正勧告書が否定されかねない裁判の状況になっている。

 そもそも、通達は行政が行政機関の都合により、行政機関が主張するもので、法的根拠があるというより行政がこう解釈して仕事をしたいという意志を書いてあるだけのもので、裁判所は通達を見て判決を出すわけではなく、むしろ通達を無視して法条文だけを読み取り、判決を出すものである。このため、通達を否定する裁判例はいくらでもある。そして、その裁判例により、通達を出し直さなくならなければならないこともしばしばある。(このため、労働基準監督署が出す是正勧告書は、必ずしも裁判に耐えうる内容で書かれているとは限らず、是正勧告の内容を無視して応じなくても、刑事責任が問えない場合も相当多くなっている。この程度の是正勧告書に社会的に意味があるのかどうか、という問題もある。)
 また、解雇予告した労働者が年次有給休暇の権利を有する場合、年次有給休暇の権利は解雇予告期間中に行使しなければ消滅する(昭和23年4月26日基発651号)。休暇を消化するのが退職日以降になってしまう場合は、退職日まで有効とし、それ以降は当然に無効となる。ただし、法律で付与されるべき分を超える休暇に相当する分の買取、あるいは残日数に応じた金銭の調整的給付を事後に行うことは、在職時の年次有給休暇の取得を抑制することになるために行政は消極的な見解ではあるが、否定まではしておらず、行政指導も行われていない。

 割増賃金と最低賃金を考えるうえで、その基礎となる対象賃金は異なる。それは住宅手当だ。

 最低賃金は住宅手当を含んで考える。割増賃金は住宅手当を除いて考える。このため、住宅手当が多ければ多いほど、最低賃金を満たすのは容易になる。しかし、割増賃金の単価には影響しない。

 極端な例では、住宅手当を高額にすれば、1時間の単価が最低賃金を下回ることさえある。例えば、1か月の住宅手当が15万円、1か月の基本給が1万円の場合、基本給の1万円が割増賃金の算定の基礎となるので、1時間の単価は、1万円を1月の法定労働時間の173時間程度で割ればよい。このため、1時間の単価は58円程度でよく、2割5分の割り増しをしても1時間当たり73円を払えば適法となる。また、最低賃金は住宅手当15万円と基本給が1万円を足した16万円を基準に考えるので、最低賃金額も問題なくなる。

 割増賃金が最低賃金を下回ることは少ないとしても、賃金のうち住宅手当の比率が高ければ高いほど、割増賃金の単価が下がるという関係になってくる。

 割増賃金は、法定労働時間を超えた労働時間に対して、通常の時間帯の賃金の1.25倍で払うように労働基準法第37条で定められているが、時間帯ごとに時間給が異なる場合は、就業規則等に特段の定めがなければ、その超えた時間帯における時間給が通常の時間帯の賃金となるので、その時間帯の賃金に対して割増しを行えば良い。例えば業務の繁閑により8時〜17時(休憩1時間)の時間給が1,000円で、17時〜22時は時間給800円である場合、所定労働時間が8時〜17時の者については17時以降は原則として1日8時間超えの時間外労働となり、800円を25%割増した1,000円を支払う必要がある。結果、事実上の割り増しがないことも可能である。

特別条項の限度時間を超える期間の回数

 

 法文上「臨時的なもの」というのの解釈を1年の半分を超えないようにと厚生労働省が通達以下の文書で主張はしている。そして、通常、三六協定は有効期間1年として定め、1月を単位に考えることから、限度時間を超える期間の回数を6回と言われている。

 しかし、1年の半分を超えないように定めるとは法文上は記載されておらず、「臨時的なもの」というのの解釈を1年の半分を超えないようにと厚生労働省が通達でさえないもので主張しているだけである。 そして、例えば1ヶ月単位の場合は6回以内、3ヶ月単位の場合は2回以内で定める、などと厚生労働省は指導しているが、その法的な根拠はほとんどない。

 また、三六協定はいつでも破棄できるため、通常の残業の上限を超えて特別条項の時間数に6回目となった場合には、その協定を破棄して、再度特別条項6回の協定をすれば、通常の残業の上限を超えて特別条項に入る回数はリセットされ、事実上、年間を通じて特別条項の時間数の残業を行わせることが労働基準法上は適法に可能になる。

 ただし、当然、民事的な問題は別である。