純一は、慌てて、ナースコールボタンを押し、看護師と医者を呼んだ。
そして、そのまま緊急手術となり、純一は後を追うように手術室の前まで、必死に、木村愛を励まし続けた。そして、手術室の前で純一は叫んだ。
「愛・・・俺・・・せっかく、戻ってきたのに・・・いなくなるなんて、絶対イヤだからな・・・。3ヶ月前に俺が助かったように・・・助けてくれ!」
純一は、手術室近くのソファに腰掛けた。落ち着かないのか、貧乏ゆすりが止まらない。
ボクらは、手術室の中へ入って様子を伺い、ボクは、木村愛の祖父、木村智久を携帯電話で呼んだ。一大事だから、来て欲しいと・・・。
少なからず、3ヶ月前に出ていた99.9%のシュミレーションでは、『純一の記憶が戻らず、自責により心臓手術を拒み生涯を終える』といった内容だった。
だが、純一の記憶が戻ったことにより、99.9%のシュミレーション結果は、もう当てにはならない・・・しかも、シュミレーション死亡予定日よりも2週間近く早い。何が起きてもおかしくないのだ。
長く過酷な手術・・・。
5時間が経過した頃、心拍数は危険な状態まで下がり、警告音が手術室に鳴り響き、そして木村愛の体から、霊体が抜け出る・・・。
ボクは、霊体となった木村愛へ話しかけた。
「今なら間に合う。元の体へ戻れ。」
「え?」
愛は、状況が呑み込めないようだ。
「まだ死ぬには早すぎるから、元に戻れと。あー、立ち上がるな。ダメダメ。せめて座ったままでいてくれる?」
完全に体から霊体が離れてしまうと完全に手遅れになるので、ボクは、木村愛を諭してその場に座らせ、体とリンクしている状態でキープした。
「ショックかもしれないけど、ボクは、"元人間"だ。そして、今キミは死に掛けている。その場から動くと、そのまま"コッチ"側の人間だ。」
「じゃー、私はこのまま死んじゃうの?」
木村愛は混乱しているようだ。まあ、無理も無いが・・・。
「いや、死んでもらっては困る。3ヶ月前に佐々木純一と約束したからなー。」
「3ヶ月前・・・。純一・・・ホントはあの時死んでいたの?」
「まあ、そういうシナリオだった・・・。けど、ボクが『もう一度チャンスを』って霊体を体へ戻そうとしたけど、自分よりもキミを助けてやってくれって聞かなくてね。こっちも一応仕事だからってことでね、強引に現世に返した。互いに約束をして・・・。」
「純一と・・・約束?」
「そうだ。彼は、キミが倒れる3ヶ月以内で消した記憶を取り戻し、キミをこれからも支える事。ボクは、キミが"コッチ"側に来てしまったら、純一同様にキミを現世へ追い返して長生きさせる事。純一は、そんな約束した事なんて忘れているはずなんだけども、見事に3ヶ月以内で記憶を取り戻したからな。今度はボクの番と言うわけ。」
「え?え?じゃー、記憶を消したのって・・・もしかして、あなた?」
「ああ、そうだ。記憶が消されるのはデフォルトなんで、仕方が無いんだよ。そもそもキミが責任感を感じる理由なんて何も無いんだ。事故にあったのは、純一の不注意だし、記憶喪失になったのは、ボクが強引に生き返らせた結果だし。」
「・・・。じゃー、私も元の世界へ戻ったら・・・しばらくの間、記憶喪失状態になっちゃうの?」
「いいや、記憶喪失にはさせない。すれ違いのトレンディドラマのようなのはいい加減、勘弁してくれ。この3ヶ月間ずっと近くで様子を見てたけど、イライラしてたまらない。だから、そのためにも自らの力で戻って欲しい。」
木村愛は、唖然として聞いていた。
「純一のためにも、私・・・生きたい。でも、どうやって戻るの?」
「心臓が止まる前に、そのままゆっくりと横になって、自分の体に合わせろ・・・そして、強く願うんだ『生きたい』と」
「こう?」
愛は、ゆっくりと、自分の体へ・・・しかし、霊体が元の体へ戻っては再び霊体が浮き上がり、戻っては浮き上がりを4回繰り返した。
ピーーーーーーーーーーッ
すでに、心拍装置は0を示しており、無常な音が手術室を響き渡らせている。
ボクらはただただ、祈る事しかできなかった。
そして失敗を繰り返して、木村愛の魂は7回目でようやく元の体へ戻っていった。魂が戻った直後から心拍数が回復していき、その後、無事に手術が成功した。
医者から木村愛の家族、そして、佐々木純一へ無事手術が成功した事を告げると、泣いて喜んだ。その場には木村愛の祖父、智久もおり、
「ホントにありがとうございます」
と、ボクらに握手を求めてきた。
「いえ、ボクは何も・・・。結局、ボクにできたのは、本人の『生きたい』という強い思いに報われて欲しいと願う事だけでした。そもそも、謹慎中で・・・商売道具没収されちゃいましたし・・・。」
「そんな事はありません。何よりも、赤の他人であるアナタ様が危険を冒してまで、純一君のため、そして孫のため・・・必死になっていてくれた事には変わりありません。ありがとうございました。」
「いえ、こちらこそありがとうございました。・・・いろいろと学ばせてもらいました。」
そう言って、ボクらは現世をあとにした・・・。
木村愛が無事に生還したのも、彼女自身が起こした奇跡と運の良さ、そして何よりも『生きたい』という気持ちだった。
所詮、"死人"が"寿命"を操作することはできない。最終的には、自らが『生きたい』という気持ちと、自ら困難を乗り越えられる強い気持ち。そして、それを支えてくれる周りの環境なのだ。
ボクは、"特別転生師"と言えども、結局は"元人間"で、神様でもなんでもない。そう、何も特別な存在ではないのだ。
一ヶ月半後・・・
佐々木純一と木村愛は無事に退院をし、それは周りが羨むくらい仲良くやっているらしい。
ヤッさんになぜ装置が爆発を起こしたのか聞いた。彼曰く、スイッチBOX内がショートして爆発まで引き起こしたらしいが、なぜショートしたのか原因はよく分からないとの事だ。
だた純一と脳に同期した際に、小屋に閉じこもっていた純一がオリジナルの人格ではないかと。そしてボクが爆発を起こしたときに、衝撃が伝わってオリジナルが目覚め始めて、ポツ、ポツと記憶の断片が浮き上がり、ペンダントが引き金となって一気に記憶が繋がったんだろうと。
おそらくペンダントに強い思い出でもあったんじゃないか?ということだが、あくまでもヤッさんの推測で、真実は純一の中に・・・。
美香ちゃんは・・・
完全にボクの部屋に引っ越してきて24時間体制でボクを監視している。
そして、ボクは・・・
委員会のお偉いさんたちの運転手として、1ヶ月間パシられていた。まあ、重罪と言うよりは、戒めとしての見世物といったところだろう・・・。
この程度で済んでいるのも、伊藤さんがいろいろとフォローしてくれたおかげだ。また今日からは、転生師としての仕事が待っている・・・。
「アナタはたった今、生涯を終えました。ですが、もう少し現世で生きてもらいます。」
第1章 完
翌日。まだ全身痛みが残っているが、体が全く動かせ無いわけじゃない。ボクらは、監視されていないかキョロキョロと辺りを見渡してから、事務所を出た。
そして、"コッチ"の世界と現世の境目にある関所。ボクは、パスポート(小刀)を掲げ、全身チェックを受ける。内心はビクビクしていたが、なんてことなく、パスすることができた。
ボクはと美香ちゃんは、関所審査員へヤ○ザシネマスマイルをして、現世へと降り立った。
ボクらは、まず佐々木純一の病室へ向かった。というのは、ボクが爆発を起こした事で、脳障害等に問題が生じていないか真っ先に確認したかったが、病室に純一の姿はない。
「いませんねー。」
「大丈夫だったのかなー?それとも、リハビリ中?じゃー、木村愛の病室に行ってみるか?」
ボクらは、木村愛の病室へ向かうことにした。その途中、佐々木純一を発見した。ゆっくりではあるが、徐々に歩けるようになっていた。ボクらと同じ方向に向かっているということは、木村愛の病室へ行く気なのだろうか?
とりあえず、佐々木純一の後をついて行った。
そして、佐々木純一は木村愛の病室で立ち止まり、ノックをし、病室へ入る。
「こんちはー。調子どう?」
純一が声をかけた。
「うん、まあまあ。純一君もリハビリどう?」
ベッドに腰掛けている愛が聞き返す。
「まだ、本調子じゃない。歩くのさえもいっぱいいっぱい。ココまで来るのに、車椅子のときの倍くらい時間がかかったよ。」
と、純一が答える。まだどこかで、けん制し合っているような感じがするが、ボクは純一の脳は"今まで"と変わってなくて一先ず安心した。
そして、純一は何かに気づく。純一はベッドの脇にあるテーブルの上に置いてあったネックレスに手を伸ばした。
「コレ・・・見覚えがある・・・。チョット見せて?」
愛は、OKを出すと、純一は手にとって見る。なんて事はない直径30mm程度の金属円盤のついたシンプルなペンダント。
純一は、ネックレス部のチェーンを掴んでペンダント部分を目の高さまで掲げて見ている。クルクルとペンダント部が回っている・・・。そして、ちょうど西日がペンダントに反射し、純一の瞼へ光が入り込んだ。
その瞬間純一は、意外な事を口にした。
「コレ・・・俺が、去年のクリスマスにプレゼントしたペンダント・・・。病室に置いてくれてたんだ・・・。」
「え?・・・うん・・・。」
愛はキョトンとした表情をしている。
ボクと美香ちゃんは顔を見合した。何、この空気は?ボクらはどういうことだかサッパリ分からなかった。
「私・・・去年のクリスマスの話なんてしたっけ?」
「え?・・・初めて二人で過ごしたクリスマスの事、忘れるわけ無いじゃん。」
「え?え?え?・・・じゃー、一つだけ聞いてもいい?」
「何?いいけど、なに?」
「私の誕生日は?」
「今更・・・1月20日だろ?」
木村愛は、興奮のあまり純一に抱きついた。そう、純一の記憶が戻ったのだ。そして、ボクらも手を取り喜んだ。だが、そんな喜びも長くは続かなかった。
そう、木村愛が急に胸を押さえて苦しみだし、意識を失ったのだ・・・。
そして、"コッチ"の世界と現世の境目にある関所。ボクは、パスポート(小刀)を掲げ、全身チェックを受ける。内心はビクビクしていたが、なんてことなく、パスすることができた。
ボクはと美香ちゃんは、関所審査員へヤ○ザシネマスマイルをして、現世へと降り立った。
ボクらは、まず佐々木純一の病室へ向かった。というのは、ボクが爆発を起こした事で、脳障害等に問題が生じていないか真っ先に確認したかったが、病室に純一の姿はない。
「いませんねー。」
「大丈夫だったのかなー?それとも、リハビリ中?じゃー、木村愛の病室に行ってみるか?」
ボクらは、木村愛の病室へ向かうことにした。その途中、佐々木純一を発見した。ゆっくりではあるが、徐々に歩けるようになっていた。ボクらと同じ方向に向かっているということは、木村愛の病室へ行く気なのだろうか?
とりあえず、佐々木純一の後をついて行った。
そして、佐々木純一は木村愛の病室で立ち止まり、ノックをし、病室へ入る。
「こんちはー。調子どう?」
純一が声をかけた。
「うん、まあまあ。純一君もリハビリどう?」
ベッドに腰掛けている愛が聞き返す。
「まだ、本調子じゃない。歩くのさえもいっぱいいっぱい。ココまで来るのに、車椅子のときの倍くらい時間がかかったよ。」
と、純一が答える。まだどこかで、けん制し合っているような感じがするが、ボクは純一の脳は"今まで"と変わってなくて一先ず安心した。
そして、純一は何かに気づく。純一はベッドの脇にあるテーブルの上に置いてあったネックレスに手を伸ばした。
「コレ・・・見覚えがある・・・。チョット見せて?」
愛は、OKを出すと、純一は手にとって見る。なんて事はない直径30mm程度の金属円盤のついたシンプルなペンダント。
純一は、ネックレス部のチェーンを掴んでペンダント部分を目の高さまで掲げて見ている。クルクルとペンダント部が回っている・・・。そして、ちょうど西日がペンダントに反射し、純一の瞼へ光が入り込んだ。
その瞬間純一は、意外な事を口にした。
「コレ・・・俺が、去年のクリスマスにプレゼントしたペンダント・・・。病室に置いてくれてたんだ・・・。」
「え?・・・うん・・・。」
愛はキョトンとした表情をしている。
ボクと美香ちゃんは顔を見合した。何、この空気は?ボクらはどういうことだかサッパリ分からなかった。
「私・・・去年のクリスマスの話なんてしたっけ?」
「え?・・・初めて二人で過ごしたクリスマスの事、忘れるわけ無いじゃん。」
「え?え?え?・・・じゃー、一つだけ聞いてもいい?」
「何?いいけど、なに?」
「私の誕生日は?」
「今更・・・1月20日だろ?」
木村愛は、興奮のあまり純一に抱きついた。そう、純一の記憶が戻ったのだ。そして、ボクらも手を取り喜んだ。だが、そんな喜びも長くは続かなかった。
そう、木村愛が急に胸を押さえて苦しみだし、意識を失ったのだ・・・。
美香ちゃんは、"救われた"と言っているが、ホントはボクは、彼女を"救えなかった"んだ。
あの頃のボクは、そこそこの大きい組織の一員で、ただお役所のように淡々と仕事をこなしていた。次から次へと入ってくる仕事をただただこなしていた。仕事に慣れるのに必死と言うのもあったが、そんなものは言い訳に過ぎない。本人はもちろん覚えていないだろうが、実は、一度美香ちゃんをボクが転生させているのだ。
だが、転生させてから3ヶ月程たった時、再び美香ちゃんの転生依頼が入ってきた。自分で言うのもなんだが、視覚で入ってくる記憶力には、そこそこ自信がある。一目見て、以前にも仕事を請けたとすぐに分かった。なぜ・・・再び・・・。
ボクは、なぜ人生のピリオドを打つことになったのかなんて、特に考えずに転生を行っていた。というか、そもそも考える必要なんて無かった。大概の人間は、喜んで現世の世界へ戻っていく。ボクは、その事に何も疑問に持たなかった。若くして亡くなった者は、まだ、遣り残したものが多く、現世に未練がある物があるという人間が非常に多かったからだ。
だが、美香ちゃんは現世に見切りをつけて、自ら命を絶った。それも2度も。ボクは、ただ生きることが苦痛である人間もリアルに存在するんだと肌で感じた。それと同時に、ボクは今までの工場ラインのような流れ作業ではダメだと感じた。中には一時的に現世へ戻しても、根本的な原因を解決しなければ、失った記憶を取り戻したときに、再び、生の灯火が消える事もある。
そして、ボクは正直な気持ちを師匠でもある伊藤さんへ打ち明け、自分のやり方でやりたいと伝えた。
伊藤さんは、ただ、「そうか」と言った。
おそらく、人の人生を左右させてしまう特別転生師の仕事は、各個人または各団体の倫理に委ねられている部分が多い。委員会はボクらを監視している割には、丸投げなのだ。
それならと伊藤さんは、
「何が正解で何が間違いなのか、正直分からないが、"ココ"には、現世の人間の気持ちなんて事を考えるような人間はいない。ロボットのように命令されたことをただ実行に移す者ばかりだ。そんな中で自分の信念を貫こうとするなら、同僚と衝突することも多々あるだろうし、何よりも息苦しくなるんじゃないかな・・・。そうだ。個人事務所を構えたらどうだ?ほら、ムツオからのルートで仕事には困らないだろうし、何かあれば、俺からもアドバイスするし。」
と、ボクの背中を押してくれた。そして、ボクはこの日から自分のやり方で、やることにした。
そしてボクは、美香ちゃんの死亡予定日に、迎えに行った。ボクは、美香ちゃんに
「一度"死"を選ぶと、どこにも逃げることはできなくなるが、それでも、"死"を選ぶか?」
と確認し、美香ちゃんは、"死"を選んだ。自ら命を絶っているのだから、確認するまでもなかったが・・・。
そして、ボクは"コッチ"の世界につれてきた。
美香ちゃんは、"コッチ"の世界も現世も、大して変わらない事を感じると、すぐに塞ぎこんでしまった。そもそも、"死"を選んだのも"人間関係"に疲れてしまったのが原因だった。
ボクは、生前に転生させたことで、"生き殺し"状態にさせてしまった罪悪感から、長い間"コッチ"の世界で生活する以上、楽しく過ごして欲しいと、強引に外へ連れまわしたり、無理やり事務員として開いたばかりの事務所に入れたり。せっかくの『2nd life』なのだから・・・。
そのとき何を話したかなんて全く覚えてないけど、美香ちゃんが言った様に"中身の薄い話"だったんだと思う。ほとんど、シカトされてたし。
「美香ちゃん・・・ホントは、ボクは、生前のキミを"救えなかった"んだ・・・」
と、ボクは涙声で告白した。すると、
「そんなことない。ほら、和人さんが言ったでしょ?『過去を変えるのは不可能だけど、未来は自分次第でどうにでもなる。だから、今を楽しめ』って。私は、その言葉に救われたよ。よく考えてみたら、昔の私のこと知ってる人"コッチ"にいないもんね。おかげで今、すごく楽しいし。」
と、美香ちゃんは言った。確かにそんな事を言ったっけ。
「ねえ、和人さん。体動かせるようになったら、もう一度一緒にあの2人の様子見に行こ?委員会の人、『謹慎してろ』って言ってた割には、パスポートまで没収していかなかったし。」
ボクは、ハッとした。そういえば、パスポート(小刀)までは、没収されていない。ボクのようなアウトローというか、悪名高い人物に対して現世で何もできないように、パスポートさえも没収させて縛り付けておくのが普通だろう。
だが、"あえて"パスポートは没収しなかった。それは、もう一度行って来いってサインとしか、考えられない。だって、ボクはいつも自分の都合のいい方にしか考えられない楽観主義者。
「わかった・・・。ありがとう、美香ちゃん。明日、もう一度行こう」
と、ボクは言うと、もう一度自分らしさを取り戻したのだった。
あの頃のボクは、そこそこの大きい組織の一員で、ただお役所のように淡々と仕事をこなしていた。次から次へと入ってくる仕事をただただこなしていた。仕事に慣れるのに必死と言うのもあったが、そんなものは言い訳に過ぎない。本人はもちろん覚えていないだろうが、実は、一度美香ちゃんをボクが転生させているのだ。
だが、転生させてから3ヶ月程たった時、再び美香ちゃんの転生依頼が入ってきた。自分で言うのもなんだが、視覚で入ってくる記憶力には、そこそこ自信がある。一目見て、以前にも仕事を請けたとすぐに分かった。なぜ・・・再び・・・。
ボクは、なぜ人生のピリオドを打つことになったのかなんて、特に考えずに転生を行っていた。というか、そもそも考える必要なんて無かった。大概の人間は、喜んで現世の世界へ戻っていく。ボクは、その事に何も疑問に持たなかった。若くして亡くなった者は、まだ、遣り残したものが多く、現世に未練がある物があるという人間が非常に多かったからだ。
だが、美香ちゃんは現世に見切りをつけて、自ら命を絶った。それも2度も。ボクは、ただ生きることが苦痛である人間もリアルに存在するんだと肌で感じた。それと同時に、ボクは今までの工場ラインのような流れ作業ではダメだと感じた。中には一時的に現世へ戻しても、根本的な原因を解決しなければ、失った記憶を取り戻したときに、再び、生の灯火が消える事もある。
そして、ボクは正直な気持ちを師匠でもある伊藤さんへ打ち明け、自分のやり方でやりたいと伝えた。
伊藤さんは、ただ、「そうか」と言った。
おそらく、人の人生を左右させてしまう特別転生師の仕事は、各個人または各団体の倫理に委ねられている部分が多い。委員会はボクらを監視している割には、丸投げなのだ。
それならと伊藤さんは、
「何が正解で何が間違いなのか、正直分からないが、"ココ"には、現世の人間の気持ちなんて事を考えるような人間はいない。ロボットのように命令されたことをただ実行に移す者ばかりだ。そんな中で自分の信念を貫こうとするなら、同僚と衝突することも多々あるだろうし、何よりも息苦しくなるんじゃないかな・・・。そうだ。個人事務所を構えたらどうだ?ほら、ムツオからのルートで仕事には困らないだろうし、何かあれば、俺からもアドバイスするし。」
と、ボクの背中を押してくれた。そして、ボクはこの日から自分のやり方で、やることにした。
そしてボクは、美香ちゃんの死亡予定日に、迎えに行った。ボクは、美香ちゃんに
「一度"死"を選ぶと、どこにも逃げることはできなくなるが、それでも、"死"を選ぶか?」
と確認し、美香ちゃんは、"死"を選んだ。自ら命を絶っているのだから、確認するまでもなかったが・・・。
そして、ボクは"コッチ"の世界につれてきた。
美香ちゃんは、"コッチ"の世界も現世も、大して変わらない事を感じると、すぐに塞ぎこんでしまった。そもそも、"死"を選んだのも"人間関係"に疲れてしまったのが原因だった。
ボクは、生前に転生させたことで、"生き殺し"状態にさせてしまった罪悪感から、長い間"コッチ"の世界で生活する以上、楽しく過ごして欲しいと、強引に外へ連れまわしたり、無理やり事務員として開いたばかりの事務所に入れたり。せっかくの『2nd life』なのだから・・・。
そのとき何を話したかなんて全く覚えてないけど、美香ちゃんが言った様に"中身の薄い話"だったんだと思う。ほとんど、シカトされてたし。
「美香ちゃん・・・ホントは、ボクは、生前のキミを"救えなかった"んだ・・・」
と、ボクは涙声で告白した。すると、
「そんなことない。ほら、和人さんが言ったでしょ?『過去を変えるのは不可能だけど、未来は自分次第でどうにでもなる。だから、今を楽しめ』って。私は、その言葉に救われたよ。よく考えてみたら、昔の私のこと知ってる人"コッチ"にいないもんね。おかげで今、すごく楽しいし。」
と、美香ちゃんは言った。確かにそんな事を言ったっけ。
「ねえ、和人さん。体動かせるようになったら、もう一度一緒にあの2人の様子見に行こ?委員会の人、『謹慎してろ』って言ってた割には、パスポートまで没収していかなかったし。」
ボクは、ハッとした。そういえば、パスポート(小刀)までは、没収されていない。ボクのようなアウトローというか、悪名高い人物に対して現世で何もできないように、パスポートさえも没収させて縛り付けておくのが普通だろう。
だが、"あえて"パスポートは没収しなかった。それは、もう一度行って来いってサインとしか、考えられない。だって、ボクはいつも自分の都合のいい方にしか考えられない楽観主義者。
「わかった・・・。ありがとう、美香ちゃん。明日、もう一度行こう」
と、ボクは言うと、もう一度自分らしさを取り戻したのだった。