西村雄一郎のブログ アルモニア管弦楽団とリハーサルする池辺晋一郎氏


反戦映画には2種類ある。一つは、日本が被災した東京大空襲や、ヒロシマ、ナガサキを描いた〝被害者〟の立場から描いた映画である。もう一つは、日本が大陸に進出し、侵略していく様を描いた〝加害者〟の立場から描いた映画だ。後者は主に、中国や旧満州を舞台にしている。

  

  戦後初めて〝加害者〟の視点に立った反戦映画は、五味川順平原作の「人間の條件」6部作(59年~61年)だった。旧満州で軍隊に取られ、ソ満国境で戦い、ソ連で抑留される梶上等兵(仲代達矢)のヒューマニスティックな戦いが、重厚に描かれる。

   

  同じ五味川順平原作の「戦争と人間」3部作(70年~73年)は、満州事変からノモンハン事件まで、軍閥と財閥がいかに癒着して、満州に進出していったかを描いた大河ドラマだ。この作品の中に、「731部隊」の話が登場する。人体実験の被害者を〝マルタ〟と称し、細菌兵器を研究していた関東軍の秘密部隊のことである。

 

  私が最初に「731部隊」のことを知ったのは、熊井啓監督の「帝銀事件・死刑囚」(64年)によってであった。昭和23年、銀行員12人を毒殺した犯人は、あまりの手際の良さに、最初、「731部隊」の生き残りだと目されていた。ところがアメリカの圧力によって、いつの間にか、平沢貞通(信欣二)が犯人に仕立て上げられていく。部隊の隊員と研究資料を取引したために、アメリカ軍は部隊自体の存在を知られたくなかったからだと噂された。

  

  その仲介をとったとされる日本人は、薬害エイズの製薬会社「旧ミドリ十字」の創設者だといわれている。つまり「731」の影は、現代にも深く及んでいるということなのだ。「731」は、決して過去のことではない。

 

  昨年、私はハルビンに行った。その南、約20㌔の地点に、その「731部隊」本部跡が、現在展示館として残されていた。目の当たりにすると、背筋が寒くなるような歴史の真実だ。


この「731部隊」の全貌を描いたのが、「悪魔の飽食」である。森村誠一氏のノンフィクション作品で、1981年の発表当時、騒然たる話題を呼んだ。「戦争と人間」の巨匠・山本薩夫監督が、その映画化に邁進したが、撮影する寸前に死去して、映画化には至らなかった。

  

  しかし、音楽化はされた。合唱とオーケストラによるカンタータの作詞は、森村氏自身、作曲、指揮は池辺晋一郎氏だ。明日9月4日午後2時から、この因縁の曲が佐賀市文化会館で公演される。オーケストラは地元のアルモニア管弦楽団、合唱は地元と全国から集まった合同特別合唱団だ。演奏の前に、森村氏と池辺氏の対談があるが、私が間を取り持つ司会を担当する。

 

  「731部隊」は、日本人としては、目をつぶりたくなるようなおぞましい過去の問題だ。しかし目をつぶってはならない未来への問題である。お二人から、その創作過程、創作意図をじっくり聞きたいと思う。