今日、彼はネタ収録の為に江戸に赴く。

テレビ局に着き、楽屋に向かう彼。

が、楽屋の前に佇む彼。何故入らないのか…?

ふと楽屋の扉に目をやると…。

 

【よ~い!久馬様】の文字。

 

彼は悩む。

果たして此処は自分の楽屋なのか、と。

自分とは別に【よ~い!久馬】なる人物が存在するのか、と。

どちらが先に名付けたのだろう、と。

 

そう言えば、彼はよく名前を間違えられる。

一番多いのは【九馬】。これは一見【鳩】に見える。

次に多いのは【久間】。

偶にファンレター等で《私は久間さんの大ファンです!》と書かれているのを目にする。

信じられない…。

そして何故か【弓馬】も意外と多い。流鏑馬でもさせたいのか。

読みの間違いも多い。

【くま】、【ひさま】、【ひさうま】、【くば】、【きゅうば】、何故か【ひゅうま】。

 

苗字とは、御先祖さんの住んでいた集落や、土地に因んでいるのだとか。

果たして【久馬】とは?

 ○久しぶりに馬に乗った人なのか。

 ○久しぶりに馬乗りで殴った人なのか。

 ○久しぶりに馬の耳に念仏を唱えた人なのか。

 ○久しぶりの馬鹿なのか。

 ○久保さんチの馬を盗んだ人なのか。

 

そんなコトを考えながら、ふと彼に目をやる。

まだ佇んでいた…。

 

 

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