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はるか昔、山と人の境がまだ曖昧だった頃、深い霧に包まれた山里があった。
その里には、山道の分かれ目にひとつの石灯籠が立っていた。

誰が建てたのかは分からない。
ただ、夜になるとその灯籠には、火を入れていないはずなのに、ほのかな光が宿るといわれていた。
旅人はその光に導かれ、道を踏み外すことなく里へ辿り着いた。
The Hidden Temple
里に住む老人がいた。
名を問う者はいなかったが、皆が彼を「見守る者」と呼んでいた。
老人は毎夕、霧が山を覆い始める頃になると、灯籠の前に座り、静かに山の気配に耳を澄ませていた。

Dawn and sunset in Japan during the Heian period (794–1185) | by  Mariagrazia Giannella | Medium

ある年、山が荒れた。
獣は里に下り、道に迷う者が増え、霧は昼夜を問わず消えなくなった。
人々は恐れ、灯籠の光も次第に弱まっていった。

ある晩、老人は灯籠に手を触れ、低く語りかけた。
「この里を、まだ導いてくれるか」

その夜、霧はこれまでになく深く、音もなく里を包み込んだ。
しかし夜明けとともに、霧は静かに晴れ、灯籠は再び穏やかな光を放っていた。
山は鎮まり、道に迷う者はいなくなった。

だが、その朝、老人の姿はなかった。
家にも、里にも、どこにも。

人々は言った。
老人は灯籠に残り、山と人の間に立ち続けているのだと。
霧の夜に道を照らす光は、今も変わらずそこにある。

そして山里では今も、
霧の中で見える小さな灯りを、
「誰かがまだ見守っている証」
として大切にしている。