ゆっくり本を読むことだけに日を費やす



気がつけば西陽がさしている



立ち上がって猫にエサをやる



ついでにがま口持ってサンダルつっかけて魚屋に行く



確か19の私はそんな風であった



都会の



私鉄各駅停車駅の



国道に向かって10分ほど歩いたアパートで



本屋と参考書の下請け出版社と和風スナックの皿洗い



学校に通う電車の



窓の外の看板を全部読んで



前の席に座る高校生の



多分指定の靴なんだろう



黒光りしたコッペパンみたいな爪先から何か書けないかと



鬼子母神の売店のばあさんから何か



銭湯から出てきた若い男の自転車



本屋の前のパチンコ屋の店員



保険屋を定年退職したばあさんがやってた和風スナックの名前は



名前は



たしか『はまゆう』



しみったれたサラリーマンの顏ぶれ



田舎が四国だという若い寂しい男が



ある日送ってくれた



「いい匂いがする」と言われた



「彼氏と住んでいるからここでいい」と嘘をついた


「台風がきそうだ」と言った



「さらば!さらば芳香の少女よ!」と言って後ろ向きに去っていった



そして間もなく、世間はバブルに浮いた




その頃のワタクシの愛読書は『風呂上りの夜空に』ですよ



はい、えどてん*





*穢土転生ね