狂乱の貴婦人の日記
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3度目の葬儀ではもう一滴の涙も流れなかった。

 

目の前で椅子から崩れ落ちて泣き叫ぶ親戚たちの様子は、

見覚えのあるテレビドラマのワンシーンのようだ。

 

ふと視線を感じて目だけを動かすと、

式を進行している葬儀社の後醍醐さんがじっとこちらを見ている。

 

1度目の葬儀から続けて担当してもらっていることを考えると

彼とはかれこれ6年くらいの付き合いだろうか。

 

彼が何を思っているかは分かる。

でもどうしようもないじゃないか、もう何も感じないんだ。

涙なんて流れるわけがない。

 

そう思いながらも、何だかこの場には自分の居場所がない気がして

自分の首元で冷たく横たわるパールのネックレスを触った。

 

 

 

 

 

 

それでは皆さま、30分後に1階へお集まりください。

 

 

 

 

 

 

 

息が詰まるような式が終わり、火葬場へ向かう前に

私はトイレで大きく息を吐いた。

 

アイメイクなんてドロドロに崩れるだろうと思い

いつもより薄めのメイクにしてきたが、

そんな心配いらなかったな、と

鏡に映った自分につぶやいた。

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、あなた。あの子のこと見てた?

泣きもしなければ 顔色ひとつ変わらないのよ。

強いっていうか、なんていうか。

冷たいっていうのとはまた違うのよね。

あの人たちに似て美人さんだから

余計怖く感じたわ。」

 

 

「うーん、まぁ仕方がないだろう。

いろんな事があったんだ。

今さら人の一人や二人、死んだところであの子は何も感じないんだろ。」

 

 

トイレから1階に向かうため階段を降りていたら

叔父さんと叔母さんの会話が聞こえてきた。

 

名前こそ出なかったものの、誰のことを話しているのかはすぐに分かった。

 

別に今さら何を言われても構わないが、

聞いていたのを気付かれたら向こうが気まずい思いをするだろうと思い

用事のない途中の階で少し時間を潰すことにした。