
今日のアジフライVol.91
浅草「徳仙」
アジフライ定食750円(税込)
2017年
正月行ったら、まだ漁が出てないと言われ、そのまま遠のいていたお店。これでも、次もだめだったらどうしようと思うとすぐには出直せない性分。今日、ここに向かう決心をしたのも、別のところに向かっていた電車の中。思い出し、ホームから思い切って電話したら、あった。行き先変更だ。
出直しの唯一のいいところは、店までの道が頭に入っているところ。ちょうど今日は三社祭というのをやっていて、いつも以上に人が多く道に出ていた。そして照りつける日差しが暑い。人にぶつからないよう気をつけながら、一直線に向かう。
目指す店は、浅草の定食屋で有名な「水口」の隣にあります。ですが、水口の明るく、誰でも入れるような店構えに比べ、「徳仙」はお世辞にもきれいとは言えない。メニューケースに並ぶサンプルは、埃をかぶり、転んでいるものもある。既に畳んだ店といっても疑わない。この店を知らなければ、わざわざここで食べようとは思わないだろう。逆に言えば、そういう客を相手にしなくても、常連さんで十分回っているということかもしれない。
店の前まで来て、引き戸を開ける前に一呼吸ついていると、先に中から戸が開き、祭り姿の子どもと父親らしき人が出てきた。子どもが出てきたのを見たら気が和らぎ、その戸に手をかけてそのまま入る。狭いスペースに、左にテーブル席2つと右にカウンター7席。テーブル席の客は皆祭姿だったが、カウンター席で隣となった男性一人客はスマホをいじる一般客だった。また少し落ち着いた。カウンターの高さに椅子が合っておらず、膝と荷物の収まり具合が悪い。座り定まるまで多少時間がかかった。
外とは打って変わり、店内は活気がある。黄色い短冊メニューがずらっと貼られている。そしてアジフライはサービスメニューとして、生姜焼き、スタミナ定食、キスフライ定食と共に書かれていた。ちょっと料亭を匂わすような値段のものもあるけれど、概ね普通に手が出せる定食や丼物が並び、誰でも入れる店だった。
カウンターの中にはアニキが二人。
外の通りに面する右側に、天ぷら、フライ担当のアニキ。細身に眼鏡と顎髭で、祭姿の客が入るたびに話しかける。男も女も関係なく、○○ちゃん、○っちゃんだ。
中央、私の前に、生姜焼きの焼きや、カツ丼の煮るを扱うアニキ。額にかかる黒髪が美しく、艶があり、腕がたくましい。客とは話さない。どちらもアジのある俳優にいそうな感じで魅力がある。店の活気の理由はこのアニキ二人の若さかもあるだろう。
そして、左奥の方で、親父が出たり入ったりしている。お会計と配膳は、強い江戸っ子感を感じさせず、誰でも呼べばすぐ振り向いてくれそうな優しい笑顔のお姉さんが行っていた。
店が雑誌で見開き紹介された記事がカウンターに張ってあった。それによると、奥で見え隠れするあの親父は四代目兄弟の片方のようだ。
1889年創業。今は四代目の兄弟が、右から入る定食屋と、左から入る寿司屋(店は中で繋がっている)をそれぞれ切り盛りしているとある。(そうすると、様子からして、今天ぷらを扱うアニキが五代目だろうか。)
欽ちゃんこと萩本欽一が、修行時代によくここを訪れ、唯一の贅沢としてアジフライを楽しんでいたともある。
さて、前置きが長くなりましたが、アジフライ。
たまに見る貧弱でフニフニなアジフライ。薄く、箸で持ち上げるとしなりそうで、簡単に割れる。色、口当たり、共に優しく、薄味。醤油がよく合う。しっかり三角形でザクザク食べるフライも好きだけど、こういう、歯が強くない人が見ても身構えないような、ふにふに優しいフライもおいしい。しっぽのザクッと感がアクセントとなる。
付け合せのポテトサラダが業務用ビニール袋から搾り出されるところを見てしまったけれど、それは付け合せだからいい。それに無いより嬉しい。
この店ならカツ丼を食べにまた来てみたいと思った。歴史のある店は大切にしたい。100を迎える前に戻ってきてよかった。
写真。皿の上で衣が散らかっているのは、食べ始めてから箸袋に店名が入っていることに気が付き撮り直したから。下に隠れる鯵、かじられています。