サッカーのワールドカップの放送を観ながらある生徒の事を思い出しています。
 姉は5歳、弟は3歳、二人で私の英語教室に通ってきていた姉弟がいました。お母様が昼も夜もお仕事をして、女手ひとつで二人を育てていらっしゃいました。もの心が付いた頃から、弟はサッカー選手になることを夢見ていました。教室では落ち着かない生徒で、良く眠そうにしていましたが、注意する度に「Jリーガーになったら、英語も話せなくてはならないから頑張る…」と言って私を喜ばせたり、笑わせたりしていました。
 彼は小学校の頃からクラブ活動以外にも地域のサッカークラブに入って頑張っていました。中学生になって、益々忙しくなって疲れて眠くても、休まず通ってきていました。そんな彼は早いうちにサッカーの強い高校に推薦で入学が決まり、練習でお教室には来れなくなってしまいました。それでも試合の時は必ずお母様から連絡がありました。彼は高校でのポジションはゴールキーパーで活躍していました。
 全国高校サッカーの優勝決定戦の時にオウンゴールで負けてしまって、男泣きに泣く姿を見て、母親の気持ちになって一緒に泣いてしまった事もありました。才能があったのでしょう。Jリーグからもスカウトが来て、TVの報道番組でも将来有望という事で取り上げられました。
 そんな時に彼は病に冒され、Jリーガーの夢は絶たれました。絶望した彼をどう慰めていいのかわからない…とお母様も心配していらっしゃいました。それでも彼はサッカーを諦めずに、自分の体力の許す限りでサッカーを続けていました。そんな姿を見ていてくださった方がいらして、ある大学のサッカー部に誘ってくださったそうです。
 今、彼は病気も殆ど良くなり、大学のグラウンドで頑張っています。Jリーガーにはなれなかったけれど、病を乗り越えて彼が頑張って得たものは大きかったと思います。彼が今どんな気持ちでワールドカップの放送を見ているのだろう…とお母様が送ってくださった年賀状の中の、ユニフォーム姿の逞しく成長した彼の写真を見ながら懐かしく思い出しました。★