時代劇『必殺!主水死す』(1996)と『必殺仕事人2007』に矛盾はあるか

ライターmonogatarino_rekishi2012sep19さん(最終更新日時:1時間以内)投稿日:2016/03/2914:45:17  
 
映画『必殺!主水死す』では葛飾北斎の死去が描かれ、中村主水が水野忠邦を暗殺した。
葛飾北斎は1849年没、水野忠邦は1851年没。主水が小屋の爆発で「行方不明」になったのがこの時期とすると1853年の黒船来航の2年前だ。
 
一方、テレビドラマSP『必殺仕事人2007』では冒頭の字幕で文政3年(1820年)の話だとわかる。
続く『仕事人2009』では立て札や人相書きなどから文政4年(1821年)の設定だとわかる。
 
つまり『主水死す』から『2007』まで、劇中の時間が30年さかのぼっているわけで、『主水死す』でカギとなった「20年前」より前の話だ。
 
葛飾北斎は『必殺からくり人 富嶽百景殺し旅』(1978)に登場し、最終話で他界。
これは当然、設定上、1849年の話だ。
しかし北斎は1990年放送の仕事人SP『春雨じゃ、悪人退治』に再登場(俳優は恐らく別)いている。劇中の時代はシーボルト事件のあった1828年で、北斎の没年から21年さかのぼっている。
『主水死す』における「20年前」は正にこのシーボルト事件の前後の時期である。
 
『からくり人』で「死んだ」はずの北斎が「仕事人」に現れたのは時間が逆戻りしたからである。
『主水死す』と『2007』も同様だ。
 
時代は違うが『水戸黄門』では藤井紋太夫は3回登場し、そのうち1回目と2回目は主人公・光圀によって手討ちにされている(1694年没)。紋太夫を演じた俳優は3回とも違っていた。佐藤慶(東野黄門)、大出俊(石坂黄門)、小倉一郎(里見黄門)であった。必殺シリーズに馴染みの深い俳優が多い。
 
また、『主水死す』の主水と『2007』の主水を別人と解釈してもいい。
丁度、山田朝右衛門の6代目と7代目のように。
 
あるいは滝田栄が演じた複数の剣客・清河八郎、平手 造酒(ひらてみき)、千葉周作、朝右衛門のような姦計かも知れないし、山田五十鈴が演じた複数の三味線弾き・仇吉・お艶・おとわ・おりくも同様。
 
『横浜異人屋敷』(1990)で滝田栄が演じた清河八郎は主水によって刺されて息絶えたが、次のSP『春雨』では滝田栄が演じたのは千葉周作なので、登場して当然であった。
例えば『仕事人アヘン戦争へ行く』(1983)にあった「1780年に他界したはずの平賀源内は、なんと1842年のアヘン戦争終結の時まで生きていた!」というような没年の脚色ではない(これは高野長英にすべきだった)。
 
『オール江戸警察』(1990)で滝田栄は平手 造酒(ひらて みき)を演じたが、この剣客は『仕事人意外伝』(1985)で樋口隆則が、『必殺まっしぐら!』(1986)で内藤剛志が演じており、樋口隆則が演じた時は主水によって暗殺された。滝田栄が演じた平手造酒は『意外伝』で「死んでいなかった」のでなく「死ぬ前の姿だった」というだけに過ぎない。
 
山田五十鈴の場合、旧からくり人の仇吉は敵と刺し違えたが、次に登場したお艶、おとわ、おりくは別人であろう(おとわとおりくはどちらも鹿蔵の女房を名乗っており、おりくが「記憶を失ったおとわ」と考えれば納得するが)。
 
なお、『主水死す』の主水が黒船来航の数年前に殉職したとすれば、矛盾するのはその前に放送されながら時代が黒船以降であったテレビ『暗闇仕留人』(1974)、映画『ブラウン館の怪物たち』(1985)、テレビ『大老殺し』(1987)、『横浜異人屋敷』である。
 
『仕留人』は1853年と54年の黒船来航、『ブラウン館』は徳川慶喜の時代なので1866年ごろ、『大老殺し』は安政の大獄~桜田門外の変の時代で、1858~1860年、『横浜』は1863年の清河八郎の浪士隊結成、1868年に鳥羽伏見で主水が佐々木唯三郎(只三郎)を暗殺したという話のオマケつきである。
 
これらの幕末の主水は他の作品の主水とは別の主水であるろう。
江戸時代の主水と現代版の主水(の「子孫」)が別人であるように。
 
例えば『必殺忠臣蔵』の主水は『仕留人』の主水とは別人であろう。
黒船来航は元禄赤穂事件から150年後である。
『必殺忠臣蔵』で藤田まことは「いつの時代にも中村主水的人物がいたということで」と説明していた。
『主水死す』の主水は江戸時代にたくさん出現した「中村主水」の中の1人に過ぎないといことだ。
 
『主水死す』の時代設定が黒船の前の1850年前後という中途半端な時代になったのが問題だったか。
もし主水の最期が『血風編』と同じ慶應4年、1868年の改元前だったら、問題なかった。しかし、その場合、江戸時代の主水の話は全て「生前のエピソード」としていくらでも増産できただろう。
 
劇中の時代による年表
1820 文政3年、中村主水が書庫番に異動(『仕事人2007』)
1820~ 主水、加代が秀と再会、壱、参、竜が殉職(『必殺!III裏か表か』1986)
1821 文政4年 主水は自身番(『仕事人2009』)
└→主水が西へ移住?(『仕事人2010』)
└→主水が江戸に戻ったか?(『仕事人2018』)
1828~29 文政11~12年 シーボルト事件(『春雨じゃ、悪人退治』1990)
1829~31 『主水死す』(1996)の劇中の時代から20年前
1832 鼠小僧処刑される(『からくり人』1977)
└→28年後に妻が仕事人に仇討を依頼(『仕事人・激突!』1991)
1833 秀が出張仕事(『必殺まっしぐら!』1986)
1839 蛮社の獄(『からくり人』)
1841 大御所・家斉没(『仕事人V風雲竜虎編』第2話「将軍の初恋騒動!」1987)
1841 鳥居耀蔵が南町奉行就任(『仕置屋』1975、『江戸警察』1990)
1842 主水、勇次、秀、加代、順之助が香港で仕事(『アヘン戦争』1983年放送)
1843~44 主水、加代、おりくが政、竜と組む(『意外伝』1985) 
1844 高野長英脱獄(『新からくり人』1977)
1844 鳥居耀蔵失脚(『江戸警察』)
1844 主水がかつての仲間・平手造酒(ひらて みき)を暗殺(『意外伝』)
1849 葛飾北斎没(『富嶽百景』1978、『主水死す』1996
1851 水野忠邦没(『主水死す』)
└→主水の入った小屋が爆発
1853 黒船来航(『仕留人』1974)
1858 安政の大獄(『大老殺し』1987)
1860 桜田門外の変(『大老殺し』)
1860 鼠小僧の妻が仕事人に仇討を依頼(『仕事人・激突!』1991)
└→1832年の鼠小僧処刑から28年後
1863 清河八郎浪士隊結成(『横浜異人屋敷』1990)
1866~67 慶喜が将軍(『ブラウン館』1985)
1868 鳥羽・伏見の戦い、主水が佐々木只三郎を暗殺(『横浜異人屋敷』)
1868 官軍が江戸に近づく(『からくり人・血風編』1977)
20世紀 主水の「子孫」が出現(『現代版』)
 
前後一覧
弐〇壱六年参月(Y!Blog)
平成弐拾八年参月〕(AmebaBlog)
 
関連語句
主水死す(Y!Blog)

参照