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野球漫画は「野球の学習漫画」なのかI、〃II〃III


『巨人の星』が野球少年を育てたことについて 

伊集院光は『球漫』で何人かの漫画家にインタビューしており、『アストロ球団』を書いた中島徳博が「野球を知らなかった」ことを引き出している。しかし、伊集院は川崎のぼるにインタビューしていないし、梶原一騎についてもどこまで知っているのか言っていないようだ。
最初、梶原一騎・原作、川崎のぼる・作画で野球漫画をやるという企画が『週刊少年マガジン』で持ち上がった時、川崎のぼるは野球を知らないということで、最初は断った。そのことは『巨人の星』の文庫の巻末解説にもあるし、最近もNHKでドラマで再現された。

水島新司は『ドカベン』を書き始めたときに『巨人の星』を強く意識したと伊集院に語っているが、『ちかいの魔球』『黒い秘密兵器』でもなく、『侍ジャイアンツ』でもなく、『巨人の星』だけを取り上げるのは、それだけ『巨人の星』にパワーがあったことを認めていることになる。それに伊集院が評価していた『アストロ球団』について水島氏はどう評価するのかわからない。

『巨人の星』が野球をつらいものだとして描いているなら、『アストロ球団』などは試合中に死者まで出しているので、水島氏は『アストロ』を批判すべきであるが、それには触れていないようで、伊集院は『アストロ』については漫画ならではの荒唐無稽さとして評価しているようだ。

『男どアホウ甲子園』に登場した剛球仮面はジャンプしたり、回轉したりして投げた。これは梶原一騎が創った『侍ジャイアンツ』の番場蛮の魔球と同じであり、のちに『ドカベン』でスーパースターズの殿馬が使っている。
水島新司は『侍ジャイアンツ』をどう評価しているのだろうか。野球に武士道を持ち込むのは水島氏も『一球さん』でやっているし、番場蛮がサムライ精神を持つ選手であるのに対し、真田一球は忍者の子孫であり、この「忍者の末裔がやる野球」は『黒い秘密兵器』にさかのぼる。

むしろ、水島新司の作品は『黒い秘密兵器』や『巨人の星』『侍ジャイアンツ』といった他の作者の過去の作品を受け継いで、發展させたものであろう。
そして、『巨人の星』の終了と前後して『男どアホウ甲子園』と『ドカベン』が出ているように、『巨人の星』の大ヒットがあったからこそ『ドカベン』がスタートすることもできたのである。

それに『男どアホウ甲子園』は野球選手が学生運動に参加したり、野球版の辻切りをして歩くなど、梶原作品よりもはるかに1970年前後の世相(学園紛争や高倉健の映画など)反映させた作品であり、野球漫画の荒唐無稽さでは梶原以前といい勝負であった。

野球漫画は「野球の学習漫画」とは違う。
「野球の学習漫画」は例えば『学研まんがひみつシリーズ・野球のひみつ』のようなもので、絵解きの野球入門書のようなものだ。
70年代の終わり、この学研の『野球のひみつ』が『一発貫太くん』を採用し、貫太くんと仲間の犬が野球を解説するという展開であった。

そこで、『巨人の星』などで「常識」とされていた「球質の重さ、軽さ」が迷信であることが指摘されていたが、水島新司も『ドカベン・プロ野球編』で「重い球」という表現を使っている。

また、『ドカベン』で「カーブを曲がる前に叩く」という技術が紹介されているが、『一発貫太くん野球のひみつ』ではカーブのコースがストレートからずれるのはバッテリー間の中間地点であることを述べていた。

のちに『野球のひみつ』では貫太くんのキャラクターは取り除かれた。
しかも、『一発貫太くん野球のひみつ』は『一発貫太くん』本編とは別の作品である。ドラえもんを使った子供用の教材のようなものだ。

要するに「野球の学習漫画」は「野球漫画」とは別物であり、「野球の学習漫画」の観点から観れば、梶原一騎の作品だけでなく、水島新司の作品も漫画的な考えにとらわれているようだ。