○『巨人の星』
『巨人の星』は同じ原作者・梶原一騎の『侍ジャイアンツ』(原作『少年ジャンプ』71~74年、アニメ73~74年)と並んで、王、長嶋が現役だった川上V9時代を舞台とし、魔球を投げる巨人の投手を主人公にした漫画として一般的には認識されている。
確かにそういう要素が強いが、巨人V9時代の魔球漫画は福本和也原作の『ちかいの魔球』、『黒い秘密兵器』でほぼ、完成していた。

 

 

『巨人の星』の場合、主人公・星飛雄馬の少年野球時代、高校野球時代に多くの回数が使われ、練習、予選、甲子園での対戦を綿密に描いている。
これにより、星飛雄馬が1966年春に高校に入りながら、高校1年2学期にあたる時期に67年秋になってしまった。

 

 

 

プロ入り後の星飛雄馬の最初の魔球は打者のバットに当てて凡打に打ち取るという現実的なものであった。
それが後半になって、過去の『ちかいの魔球』にあったような消える魔球を編み出していく展開の意外性は、すでにこの作品の設定が行き渡った時点では、なかなか想像しにくい。
また、主人公は星飛雄馬だが、話の始まりは巨人から追放された星一徹による巨人への復讐であり、星飛雄馬の巨人入団も川上監督への挑戦であり、一徹が川上からのコーチ就任要請を蹴り、中日コーチとなって飛雄馬と対戦したのも、その復讐を考えれば納得できる。

 

 

 

本編で扱っている歴史は1958年の長嶋茂雄入団からだが、回想などを含めると終戦前から始まる。場合によっては戦国時代の武将や江戸時代の宮本武蔵、国定忠治、坂本竜馬(=~龍馬)の話も出てくる。

 

 

 

最終的に1978年のヤクルト優勝(アニメでは巨人優勝)まで続き、巨人が江川卓を迎えた79年に星飛雄馬が現役を引退、二軍コーチになるところまでが『巨人のサムライ炎』で描かれている。

 

 

 

『巨人の星』は父親と息子の葛藤がメインであったが、古きよき日本、西洋化への反撥を訴えるためにたびたび、引き合いに出された「武士道」を中心にすえたのが『侍ジャイアンツ』である。
ここでは巨人嫌いが巨人に入って大暴れする話で、現実の巨人へのアンチテーゼでもある。
それは70年代になって巨人が最強でなくなりかけたことも意味していた。

 

 

 

『男どアホウ甲子園』のような阪神の選手を主役にして長嶋との闘いを描いた漫画、あるいは初期『ドカベン』、『プレイボール』、『キャプテン』、『ナイン』、『タッチ』のような高校野球漫画のヒットも『巨人の星』と『侍ジャイアンツ』なくしては実現しえなかった。

 

 

 

『ドカベン』の作者・水島新司からファンに至るまで、『ドカベン』を語る人はそのスタートの話として『巨人の星』を取り上げ、それを「『ドカベン』以前の巨人漫画、魔球漫画」の代表として扱っている。しかし、『黒い秘密兵器』や『侍ジャイアンツ』、『アストロ球団』ではなく『巨人の星』が名前に上がるところは、この『巨人の星』のパワーを証明している。
そして、『巨人の星』を語る人は、『ドカベン』を引き合いに出すことは滅多にない。『巨人の星』と比較対照されるのは『あしたのジョー』である。

 

 

 

つまり、水島新司が「野球漫画における巨人中心および投手中心」を排除しようとしていたのに対し、梶原一騎は「スポーツ漫画の野球中心主義」を最初から排除していたのである。

 

 

 

そして、70年代の初めと前後して連載がスタートし、いまだに多くの支持者に支えられている『ドラえもん』と『ドカベン』も、その誕生は『巨人の星』またはそれが作った時代の壁をどう乗り越え、どう打ち破るかという闘いであった。

 

 

 

補足
井上コオ・作画の『新巨人の星』(1978年『テレビマガジン』)と秋月研二・作画の『新巨人の星II』(1979年『月刊少年マガジン』)もある。

 

 

 

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