分身魔球
すでに、『ちかいの魔球』ではボールが5つに見える魔球があったらしい。『黒い秘密兵器』でも椿林太郎が、ボールが分身して、上下2列になって飛んでくる秘球を開發(1960年代)。

 

原作漫画の『侍ジャイアンツ』で番場蛮が投げた大回転魔球はボールが分身していた。
アニメ版『侍ジャイアンツ』で番場蛮が空手の自然借力法(じねんしゃくりきはふ→~ほう)でボールを握りつぶし、投げて分身させる魔球を開發(73年、74年)。これは実戦で雨になるとボールがすっぽ抜けるか、途中で一つに戻る弱点があったが、番場も練習では雨の中で平気で「分身魔球」を投げていた。

 

『野球狂の詩』の水原勇気の「ドリーム・ボール」(76年ごろ)も、アニメではボールが揺れるところが分身したように見える。
『新巨人の星』で星飛雄馬が開發した蜃気楼の魔球(78年)はボールが3つに見えるもので、原理不明。
『ミラクルジャイアンツ・童夢くん』の「レインボー・スパーク・ボール」は分身して光る魔球。

 

『アタックNo.1』の鮎原こずえが最終回で開發した魔球もボールが四つになった。
現実の野球界で「分身魔球」を投げる投手がいないのは、投球の技術的な問題のほか、捕手にとっても捕りづらく、捕手の目が慣れて捕れるようになったら、打者も目が慣れれば打てることになり、実践的でないからだろう。

 

『侍ジャイアンツ』で八幡太郎平は飛ぶ蛾を見て視力を鍛え、包丁を刺したボールを捕球する命がけの訓練で克服したが、これを打ったウルフ・チーフもスピンしながら飛んでくる斧の柄をつかむ視力を持っていた。

 

『新巨人の星』の「蜃気楼の魔球」の場合、捕手の山倉は地面に影の映るボールを捕球していたが、花形と左門はその原理に気づいて魔球を打った。なお、花形は横一列に飛んでくる3つのボールを打つ訓練をし、真ん中だけ、黒く塗ってあった。『黒い秘密兵器』のライバル打者も椿投手の秘球を打つため、似た訓練をしていた。

 

『巨人の星』左腕編ではアームストロング・オズマが「見えないスイング」を会得するため、続けざまに来る3つのボールを打つ特訓をしていた。A・オズマであれば蜃気楼の魔球を打てたが、飛雄馬が右腕投手として復活したのは、オズマがベトナム戦争での負傷がもとで死んでから8年後であった。

 

分身魔球を打つ方法は「本物を見極める」と「本物と幻を全部、打つ」の二種がある。ウルフは横分身の本物を見極め、横分身の方向に合わせてスイング。ジャックスは縱分身の全てを打った。ジャックスは横分身をフィルムで見たとき、「バットを振る方向と同じなので打てないことはない」とコメント。

 

また、八幡太郎平は番場蛮の魔球を捕れる捕手として、番場とコンビで出場していたが、1991年に番場蛮の甥が登板したとき、甥の番場が投げた「ハイ・ジャンプ魔球」、「大回転魔球」、「分身魔球」を捕った捕手は八幡ではなかった。つまり、特定の選手でなくても分身魔球の実体を見切ることはできるわけだ。

 

これは野球以外にも応用できる。『魁!!男塾』で男塾一号生のボクサー・Jが男塾死天王(四天王でなくて死天王)の一人・卍丸(まんじまる)と対戦したとき、卍丸の分身に対してJは高速かつ連続のフラッシュ・ピストン・マッハパンチで分身の全てを打った。一方、Jが元世界チャンピオンのボクサーと対戦したとき、やはり元チャンプが分身の術を使い、Jは相手の影の濃さを見て本物を見切った。
 
『侍ジャイアンツ』で、眉月光は「大回転魔球」を打つために工場で特訓したが、分身魔球を打つためにボールをプレス機でつぶして、飛ばして打つ特訓はしなかった。

 

ネットの情報によると、2007年上半期に広島のフェルナンデスがキャンプで投げた変化球が、打者には分身魔球に見えたらしい。
www.sponichi.co.jp/baseball/special/2007npb/camp0208/KFullNormal20070209031.html

 

 

『野球狂の詩』以外でも、水島新司の作品ではボールの揺れが分身のように描かれることがある。『ドカベン・プロ野球編』でナックルが分身魔球のように描かれた。1998年のオールスターで不知火(当時・日ハム)と山田(同・西武)のバッテリーが微笑(同・巨人)と対戦したとき、不知火がノーサインでナックルを投げた。山田は犬飼知三郎(当時・西武)のナックルを捕り慣れていたので、ノーサインで捕れると不知火は判断した。