エアレイダー。
レンジャー、フェンサー、ウイングダイバーとは少々異なる兵科である。
航空支援要請が主な仕事であり、フェンサーが使用する強力なミサイルを着弾地点へレーザー誘導、味方を守る為の電磁トーチカを設置───などなどサポートに回る事が多い。
それと、もう一つ。
ビークルの要請も彼らの仕事だ。
新型のコンバットフレームや強力な攻撃ヘリ、レールガンを装備したタンクから巨大な人型クレーンと彼らが使用するビークルは多岐に渡る。
なので、当然それらを扱う彼らの操作技術は
超一流だ。
例えば。
「イヤァァァァァァァーーーーーーーーーッッホォォォオォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーウ‼‼‼‼‼‼‼‼」
アンドロイドの群れに追われ疾走する軽トラ。
それを運転しているこのエアレイダー、ストーム1も、その技術の持ち主だ。
「ストーム1!!!!!!!!
なぜグレイブを持ってこなかった!!!!!!」
そして助手席でシートベルトに抑えられてもなお吹き飛ばされそうなGに耐え、吠えているのは軍曹、いや、大尉。
「おい大将!!!!もうちょい丁寧に走ってくれよ!!」
「うわあああぁ゙ぁ゙ぁ゙落ちる!!落ちる!!」
「掴まれ!振り落とされるなよ!!」
でもって後部座席────ではなく荷台に乗り、振り落とされそうになりながらブレイザーでアンドロイドの群れと応戦しているのはいつもの愉快な仲間達だ。
「って話だな」
「整備中だと!?!?いや待て!!
それでも他にあっただろう!!!!」
「かもしれないな」
涼しい顔でそう言ってストーム1はハンドルを切り、後方から飛んできたアンドロイドのナイフをスレスレで避けた。
そして一瞬スライドしたリアを強引にアクセルだけでねじ伏せ、再び踏み込む。
「うわあああ!!こ、この軽トラ!!ホントに軽トラなんですか!!?」
「大将の軽トラがッッッ普通な訳ッッッッッッねえだろぉ゙ぉ゙ぉ゙ぉ゙!!!!」
「この車体のどこにこんなパワーがあるんだ!!」
そして荷台で悲鳴を上げながら転がる三人と、白煙を上げる後輪。
軽トラから出ているとは思えない暴力的なエキゾースト音を轟かせ『田んぼのランボルギーニ』こと軽トラは猛加速を見せる。
「す、ストーム1!!!大丈夫なのか!!?」
「問題無い」
後輪から湧き出すように溢れる白煙を見て大尉が問うが、ストーム1はバックミラーをチラッと見て、いつも通り無感情な声で答えた。
そして目にも止まらぬ早さでシフトアップし、目の前に現れた交差点を見据えると車体を一気に右に振り、サイドブレーキを引いた。
「うおおおおっ………!!!!」
大尉は横から凄まじいGに耐えつつ、隣でハンドルを握っている化け物に目を向ける。
何を考えてるのか全く分からない彼は片手でハンドルを操作し、回転する車体をコントロールしている。
長い付き合いだが、やっぱりコイツは頭がおかしい。
そう思っている大尉を知ってか知らずか。
ストーム1は窓から外に何かを投げた。
そして
「はい」
無感情な声と共に、大尉にテレビのリモコンのようなモノを差し出し、ドリフト状態で交差点を曲がった。
大尉が受け取ったそれにはデカデカと【起爆】と書かれた赤いボタンが一つ。
そしてそのボタンの下には
『優しく押してね♥』
とシールが貼られていた。
────このタイミングでコレか。
事故を装って一発ぶん殴ってやろうかと思ったが、まあ、今はやめておこう。
というか荷台で悲鳴を上げて転がり続ける部下達のほうがコイツをぶん殴りたいだろう。
いや、それよりも
「タイミングはどうする!!」
コイツが恐らく投げたであろうC90爆弾。
それの爆破タイミングだ。
それを問うとストーム1はチラッとバックミラーに目を向け一言。
「よし」
刹那、後方で耳をつんざくような轟音と共に大爆発が起きた。
追いかけて来ていたアンドロイドの破片は天高く舞い上がり、言葉通り爆発四散。
爆風は木を薙ぎ倒しビルの窓を砕く、
そして当然ながら軽トラもその爆風の影響を受ける訳で
「笑えるな」
「どこがだ」
走行抵抗の塊であるこの軽トラ。
爆風によるアッパーフォースの影響もしっかり受けたようで、戦闘ヘリの如く宙を舞い、カロン戦術爆撃機もビックリなスピードで空を飛んでいる。
ちなみに。
例えストーム1用にカスタムされた軽トラとはいえど、空を飛ぶとかそういう想定で作られてはいないので、ある程度宙を舞い、ある程度飛行───吹き飛ばされてるだけだが──すれば地球の重力に引かれていく訳で。
まあ、あとは想像通りである。
ただ一つ運が良かったのは。
勢いで落下した先がベース228の敷地内であり。
たまたまそこで曹長が自分の車を洗車していて、その上に軽トラが墜落し、落下の衝撃が緩和されたお陰で全員無傷だった事だろうか。
ちなみにこの後ストーム1は正座させられ大尉と部隊の面々に長い説教を食らうハメになり、更に整備班の面々からも長い長い説教を受ける事になるのだった。