その人に会うために、僕は毎週週末になると、その店に通うようになった。
その人は昼働いている為なのか、毎週その店にアルバイトに来るわけではなかった。おかげで、会えないこともあった。この頃から、僕は予定が変更になっても、適当にその場で別のことを楽しむ癖をつけるようにしていた。目的の人に会えないからといって、がっかりした顔をするのは、格好悪いし、店の人に失礼な感じを与えるような気がしたのだ。
本当に気まぐれだった。けど、不思議と僕の気持ちは腹が立たなかったのだ。
その店で同じくバイトで来るコがいた。聞くと、18歳で高校生らしい。すらりとしたスタイル、幼い面影があり、無理して夜の世界に来ている感じだった。高校を卒業したら、整形して、ニューハーフの世界に入るらしい、母親も応援してくれているとママのポロリとした話でそのコの事が理解できた。そんな親も出てきているのだな・・と僕は少し感慨深かった。
どちらが誘ったのか定かではないが、一緒に食事に行く約束をした。その人が店に出る前に早めに会って、食事に行くことにしたのだ。時間はほんの2,3時間の事だった。不思議な事に僕はそれでも満足だったのだ。
その人とは色々なマニアックな話、哲学、政治等々話をした。その人がどんな気持ちで話を聞いてくれていたかは分からない。僕は、その人の顔と声に見惚れ、聞き惚れていた。食事や食事が一通り終わると、僕たちは一緒に店を出た。その人は店へ、僕はとりあえず繁華街を1時間ほどぶらぶらしてその人の店に顔を出した。
僕は知らなかったが、その人の名前は結構当時有名で、誰にとっても一種高嶺の花だったらしく、誰も二人きりで食事に行く男はいなかったからだ。
僕は、その人に惹かれていた。そして、なんとなく続いているD子さんとの関係もはっきりさせなければいけないと思い始めていた。