クレイジートラベラー!!~ロードレーサーで行く変態旅行記~ -83ページ目
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静岡のチベットへ!!

「まっちゃん!・・ワサビを買ってきてくれ!!

ある日、会社のボスが唐突にそんなことを言い出した。

彼は、俺が旅人であるという事をよく知っているので、これは「近所の100円ショップで買ってこい」と言っているわけではないな・・と瞬時に察知した。

『場所は何県なので?』

と、俺は「はい。」という返答の代わりに、次回の旅の目的地になるであろう場所を訊ねた。
場所は、静岡県と山梨県の境で、東京からの直線距離は200kmくらいだそうである。

「どうだ?お前なら、楽勝だろう・・?」と、ボスが挑発的にニヤリと笑う。

『ええ・・物足りませんね。』と俺も余裕の表情でニヤリと笑った。

有東木(うとうぎ)!?」・・聞いたこともない地名である。鼻歌交じりに、さっそくパソコンで地図を開いて確かめてみる。


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フン♪フン♪・・え!?

地図上に表示された場所は、市街地から遠く離れた孤立無援の山中だった。人が住んでいるのかすら疑わしい。
こ、これは・・俺は金魚みたいに口をパクパクさせた。背中を冷たい汗が伝って行く。

・・面白い!やってやろうじゃん!!

数日後・・

俺のロードレーサーが、冷たい雨の降りしきる箱根の山を越えていた。このところ他の峠と浮気をしていたので、箱根の山は不機嫌のようだ。
久しぶりにお前に会いに来たんだぞ!!なのにこの手ひどい歓迎ぶりはなんだ!?
静岡県の富士宮で名物の焼きそばを満喫し、野宿場所を求めて、俺は闇夜に消えていくのであった・・。

早朝の静岡駅前。仕事へ向かう人々が次々と駅へと吸い込まれていくが、なぜかこのベンチの周りだけが異空間のように時間の流れが違う。

「ぷはー!!朝だぜ!!晴れ


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巨大な繭のような寝袋から誕生したのは、七色に輝く羽を持つ美しい蝶・・ではなく、毒蛾のように小汚い旅人であった。

うん。みんなの冷たい視線が痛くて気持良い。

愛機『クレイジィ・エンジェル号』発進!!バスロータリーをぐるりと一周し、俺が見たこともない世界へと旅立って行く。
一瞬で市街地を抜けて安部川という、取り囲む山々が絞り出した汗と涙のような川を眺めながら、どんどん奥地へと進んでいく。


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険しい山々に睨まれながら、俺のロードレーサーが行く。ここはチベットの奥地なのだろうか。
薄暗い山道に、山の隙間から洩れてきた陽の光線が帯のように降り注ぎ、山の斜面を焼いている。


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走ってくる車は、農具をつんだ軽トラばかりで、農家のおばちゃんに道を聞くと、にっこりと微笑みながら教えてくれる。
きっとここでは時計の針が幾分ゆっくりと進んでいるのだろう。



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いよいよ、秘境「有東木」へと向かう分かれ道が現れた。
いきなり、脚がキリキリする厳しい登り坂である。俺は早くもへたばりそうだ。

この勾配、感じ・・上官とよく行っていた「和田峠」に似ている。

俺の前に突如、ロードレーサーに乗った上官の姿が現れた。
上官は、いつも鬼神のような疾さで、俺を真っ暗な峠道に置き去りにする。

「・・待って、待って下さい!上官・・!あせる

俺は必死に上官の後を追う。追いついたぞ!
上官が振り向いて爽やかに笑い、これが幻影だという事に気がつくと、そこはもう「有東木」だった。

目がくらくらする急斜面にはお茶畑が広がり、眼下の小川にあるワサビ畑では、黄緑色のワサビのかわいい葉が眩しく揺れている。


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俺は、400年続く日本最古のワサビ農家「門前」にお邪魔した。


ワサビ、ゲットグッド!!!


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俺は元気に茎を伸ばすワサビを高らかに掲げた。
さらに手摘みのお茶っぱも手に入れて、東京へと帰って行く。



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高く透き通る空に、霊峰・富士山がどっしりと構えて、俺を見送っていた。
こんなに大きな山でも、天気が悪いと全く眺めることが出来ない。
まるで、人の心そのものだな。普段はいい人でも心が荒んでいる時は、その時は悪いところしか見えないが、
穏やかなる時は、寛大な心で他人を受け入れる。

俺も、いつも晴れ渡る日に見える富士山のようになりたいな、と思った。

再び、箱根の山と対峙した。
昨日は容赦ない極寒攻撃にさらされてしまったが・・今日の機嫌はどうだろうか。

俺は、「おっす!!お前に会いたくてさ、また来ちまったよ!!」と照れたように笑いかける。

すると・・

長い登り坂が続く山々が、陽の光を浴びて燦然と輝き始めた。

(ようこそ・・!!o(^▽^)o)

箱根の山が、まるで子供のような無邪気な顔で笑っていた。


今回のデータ!!

走行距離:485km
走行時間:21時間16分
平均速度:22.8km/h
最高速度:58.1km/h

クレイジートラベラー!!

江の島の灯台が、一定の周期でぐるりと巡り、闇夜に一筋の光を投げ掛ける。
国道の明かりが、防風林越しに、仄かに暗い茅ヶ崎の海岸を照らしていた。

俺は暖かい寝袋に包まれながら、遠い水平線を走る船の明かりを眺めている。
真っ暗な夜の海に響く、白波が砕ける音。他には何も聞こえない。

その遥か昔から続いてきた優しいメロディーを聞きながら、俺は静かに目を閉じた。

「チクショー!!みんな俺をバカにしやがって!!

ゲッ!何だ!いきなり怒鳴り声が聞こえて来たぞ!!
波打際に一人、荒れ狂う人影が見える。

恐いよ~眠れない…よ…ぐぅぐぅでも爆睡!!

おばちゃん達が何かを嘲り笑う声が聞こえてきて、俺は目が覚めた。
ムクリと起き上がると、おばちゃん達はあわてて逃亡した。

…朝か。俺のような変態にも、朝が来たぞ。



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野宿セットをバカでかいリュックにしまい、はあ…っと白い息を吐きだしてロードレーサーに乗り込んだ。

ふっ…寒いぜ!全てが!!ショック!

小田原でエネルギーをチャージすると、いよいよ箱根であった。
箱根の山とは、ママチャリ時代から今までに幾度と戦いの刃を重ね、次第に友情のようなものが芽生えてきた。
俺のロードレーサーは、国道から折れて、箱根旧道へと吸い込まれて行った。
旅館から沸き上がる湯煙に包まれた登り坂が、グイグイと天高くそびえ立ち、俺がやって来るのを待ち構えている。

(よっ!半年ぶりだね!寂しかった?せいぜい、楽しませてもらうぜ!!)

ビュゥゥゥ~…


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滴る汗が一瞬で凍り付くような、冷たさのこもった風が吹きおろしてきた。
さらに、雨まで降り出す雨
今回は晴れの予報だったので、雨対策は全くないあせる

(あれぇ…箱根の山よ。ちょっと他の峠と浮気してたから…スネてるのか?)

他のロードレーサーに挨拶しながら追い抜き、芦ノ湖まで上がってきた。



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寒々とした灰色の湖面の上を海賊船が滑って行く。
びしょ濡れの服が重たく、冷たい。

本当の恐怖は、これからやって来る。
真っ白な霧に覆われて、下り坂の下は見えない…が、確実に15km続くダウンヒルダウン

もう行くしか無いんだ!!

テイク・オフ!!

俺のロードレーサー『クレイジィ・エンジェル号』!死ぬ時は一緒だぞっ!!

地獄の底まで続くような、白い闇。まるで氷の板をピタッと押し付けられたような、冷たさを通り越した痛さ。
そしてそれすらも感じなくなった。

沼津の街に降り立った俺の顔には、表情が無かった。ただ、歯をカチカチと鳴らし、かろうじて眼を開いているだけの人形だ。
持って行かれたのは、生命エネルギーそのものだった。

飯…食う…本能によって無意識に沼津港にやって来た!!



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どんぶりに目一杯盛られた海鮮丼を食い漁り、お茶が入ってる缶みたいな形で直立した巨大なかき揚げを平らげた。

あ…あ…パワーが戻って来る!!

ようやく雨がやんだ東海道を走り始めた。
ずぶ濡れの服は、走りながら乾かすしかない。
寒かったが、耐えた。
何故か耐えられた。

夕方頃、静岡県の富士宮に到着した。

見知らぬ街に陽が沈み、ガクンガクンと気温が下がる。しかし俺は冷静に目的の場所に辿り着いた。

富士宮焼きそばの名店「うるおいてい」!!

食うぞ!コノヤロー!!メラメラ



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ホクホク、トロッとしたお好み焼き!
程よい歯ごたえの麺の中に、半熟卵がとろける、焼きそば!!

うん。満足だ!
その後、温泉で疲れを癒す。パーフェクトだ!!



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そろそろ、温泉も閉館の時間かな。
さて、野宿はどこでするか…

寒波がやって来て、トゥナイトはかなりヤバいとの事である。

でもきっと耐えられる!!大丈夫さ。

俺は最強の旅人…『クレイジートラベラー』メラメラ

なのだから。

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