一回目の化学療法が終わり、効果を期待して待っている時




でもKの様子は、記憶力の低下、トイレに間に合わない、性格の変化(退行)、強い眠気、体の麻痺の悪化、感情表現が乏しいなど、少しずつ気になり始めた不安が日を追うごとにはっきりとしていくようだった




お友だちがお見舞に来てくれることになっていたが、私は不安で断ろうかと思った




当時の私は、こんな状態のKをお友だちに見せてはいけないような気がしてしまっていた




でも、みんなKに会いたがってくれている




Kも会いたそう




お友だちもママたちもとても心配してくれている




私は、Kの様子を事前にメールで知らせておくことにした




以下は私がお友だちのママに送ったメール




「Kは今、強い薬の影響もあって、いつも眠そうだったり、時々記憶が曖昧になってしまい、話のつじつまが会わなかったりするけど、問い詰めると本人も不安になってしまうから、そんな時はいつも適当に聞き流してます。もしそうと気付いても大丈夫だから心配しないでね。」




でも、私自身、本当は心配と恐怖で気が狂いそうだった




お見舞い当日、はるばる日高の山奥のこの病院まで、お友だち三人とママがやって来てくれた




若者たちの声で、わいわい賑やかになった病室




Kとみんなはゲームやカードで遊ぶ準備




私はお友だちママと病院内のカフェに行った




この時初めて、実は医者からKの病気がとても厳しいもので、この治療が効かなければ長くは生きられないと言われているということを打ち明けた




お友だちのママは何も言えずに黙ってしまった




私が「でもこの診断、本当は違うんじゃないかと思う。MRIでも腫瘍が造影されなかったり、この病気特有の症状が出なかったり、何かもっと違う種類のものなんじゃないかと思う。」と言うと




「こういうときの母親の勘は、どんなものよりも正確だよ。」と言ってくれた




しばらくカフェで過ごしてから病室に戻ると、Kは頭が痛くなってしまったらしく看護師さんから氷枕を借りてベッドに横になっていた




お友だちはすることもなく、居心地悪そうに、それぞれが違う方向を向いて椅子に座っていた




みんなはKの変化に戸惑っている様子だった




遊びにかけては、誰よりもやるき満々だったK




今はみんながシーンとしてしまうことも気に掛けず、一人ベッドに横になり黙って目を閉じている




おちゃらけ屋ではあっても、空気を察したり、お友だちにも思いやりを持って、さりげなく気を遣える子だった




せっかくはるばる遠くから来てくれたのに、私はみんなに少し申し訳なく感じてしまった




でも、みんなは今はそれだけKの具合が悪いのだということを理解してくれ、Kにとても優しく接してくれていた




みんなが帰る時間になり、私は車で最寄り駅までみんなを送りに部屋を出た




Kにはちゃんと話したので分かっているはずなのに、そのたった15分くらいの間にも私に同じ内容のメールを何回も送ってきた




「ママ、今、どこ?」

「早く来て」

「どうしたの?何してるの?」




運転中なので返信出来ずにいると、今度は電話が来た



私の携帯が鳴りっぱなしなので、みんなは少しおかしいと感じていた様子だった



それでも何とか誤魔化して、みんなを駅まで送ってから、慌てて病室に戻った




お友だちを送って来たのだと言うと、そうだったのかという顔をしたK




ついさっきちゃんと言ったのにもう忘れてしまったのか




何だか空恐ろしくなった




Kが私の知らないところに連れていかれてしまうようで怖かった




神さまお願い




Kを連れていかないで




どうかKを守って下さい




心の中で必死に願っていた



もう心が爆発しそうだった