「奏。薄着し過ぎ。」
換気の為と称して開け放った1人部屋の病室のドアを、後ろ手に閉めながら、先生が入って来た。
「ってゆーか、窓まで開けてるし。ほら、体温を測るぞ。」
窓を閉めながら先生が振り返る。今日は天気が良くて、温かな陽の光が当たっている。綺麗な色の髪の毛。
「もうそろそろ、先生が来る頃だって思ってました。」
「当たり前だろ、検診の時間なんだから。」
「家康先生…私、梅の花を見に行ってたんです。」
「うん。敷地のそこら辺中に咲いてるからな。」
言葉を交わしながら、ベッドに腰掛けた私の脇に挟んだ体温計が、ピピっと鳴った。
「今年は、桜は、いつ咲くのかなぁって…」
「桜は3月の半ばを過ぎたら咲くだろ。」
そう言って、先生はポケットから聴診器を取り出す。
帯を緩めようとした私の手を、家康先生が取って、先に帯を緩めた。
(私のことなんか、きっと、何とも思っていないんだ…)
そう思うのに、鼓動がはやくなってしまう
パジャマの白い一重の袷を少し開かれて、冷たい聴診器が押し当てられ…
(あれ? あまりつめたくない…)
私の視線に気付いた家康先生がぽつりと言う、
「何。」
「あっあの…家康(様)先生…お花見一緒に行きたいです…」
さっき、体温測っている間に、聴診器、指で温めてくれたんだ
期待してもいいのかな、微かな望みを抱いてしまう。
「…うん、わかった。花見ね、いいけど。」
袷を元に戻して、帯を1度ふんわりと軽く結んで私の手に返してくれる。
(どうしよう…すっごくドキドキしてる。とまらない…)
「じゃ次は問診、昨日の便の回数は?」
ー…なんて思ったのは束の間で、私は思いっ切り変な声を出してしまった。
「…んなっ、…そ、そんなこと言いたくないです。」
「じゃあ、放屁の回数は?」
「…ほうひ、って何ですか?」
「おならのこと。」
私が絶句していると
たたみかけるように、
「あいき(ゲップの事)は?」
「………」
(意地悪…私の反応を見て楽しんでるんだ、すっごく意地悪!)
ふと家康様(先生)は、かけていた黒縁眼鏡を胸ポケットにしまう。
「そう睨むなよ。奏のことなら、何でも知りたい。」
えっ…っと口を開ける前に、軽く口を塞がれた。
ちゅっ。
家康様の唇で…


では殿目線でもう1度♪


自作の短篇~♪
(因みに"奏"は私の本アカです。)