ドラマ、バラエティ番組、新製品らしい洗剤のCM。
チョンさんが手にしたテレビのリモコンでザッピングしている音を聞きながら、僕は夕食作りに勤しんでいる。
初めての夜を一緒に過ごしてから、週末になると連絡を取るようになったのだけど、会うのはもっぱら僕のアパートでだった。
お互いが取引先の担当者なのだから、周りに悟られないように電話やメールでやりとりするのは容易い。
男同士で身体を繋ぐようになってから、はや2ヶ月が経つ。
僕が誘えばチョンさんは必ず「行く」と返事をくれるので、週末になるとこうして僕が夕食を作り、一緒に食べた後はベッドになだれ込むという、最早お決まりのパターンになっていた。
チョンさんがどんな反応をするのか知りたいがために、電話やメールでベッドでのナニをからかったりしているけど、メインは僕の家に来るかどうかの返事だ。
2ヶ月間も「来る?」「行く」のやりとりが続いているのだから、もう何も言わなくても金曜の晩になれば来てもおかしくないと思うのに。
何週か前の金曜日に連絡しないで家に帰って夕食の準備をしていたけど・・・全然来なかった。
チョンさんの方から「行ってもいいか?」と確認の連絡も来ない。
痺れを切らしてスマホを手に取り番号を押し、1コールで出るチョンさんに前置き無しに来ないのかと聞くと「行っていいのか?じゃあ、行く」と返事してくる。
僕が誘わない限り自らの意思では会わないというスタンスなのか、今更何を遠慮しているのか・・・それとも僕を焦らして煽っているのか。
そのつもりでいたなら作戦は成功したと言っていい。
誘惑者にそぐわない、ほわほわした笑顔でやって来たチョンさんをすぐさま抱きしめてソファーに押し倒し、自分で作った食事よりもはるかに美味しそうな白い身体を思う存分に味わった。
覚えているのは・・・驚いて目を白黒させるチョンさんが次第に表情を蕩けさせ、眉根を寄せて快楽を感受するさまだ。
それ以降、チョンさんに必ず連絡を入れる事を怠らないようにしている。
「さぁ、出来ましたよ。盛り付けるから手伝って下さい」
「うわっ!このパスタ美味そう~!サラダにスープも!すごいなぁ」
「クリームチーズパスタ、好きだって言ってたでしょ?」
「うん、好き。シムさんて本当に料理が上手いよなぁ」
「まあ好きですね、料理。さ、沢山食べて下さい」
口いっぱいに頬張って食べるチョンさんが可愛い。
クリクリした目で僕を見るのも。
にっこりと微笑むのも、全てが可愛い。
僕と変わらない身長と体格で同性で。
一緒に過ごすごとに、少しずつ大きくなっていくこの気持ちは、何処から来るのだろう。
「ワインもありますよ。飲みますか?」
「飲もうかなー。でも酔っちゃうしな」
「酔ったチョンさんもイイですね。是非見たい」
「・・・なんかやだな。酔わせてどうするんだ」
「分かっているクセにー」
酔ってもいないのに、うっすらと頬を染めて唇を尖らせる。
この後の事を考えて敏感に反応しているのだろう。
「今晩、泊まる準備はして来ました?」
「うん・・・して来たよ」
「多く持って来た?・・・下着」
「バーカ!」
白くて滑らかな肌がじわじわと熱くなって、撫でる手のひらにしっとりと吸い付く。
この格好良くて綺麗な人が僕にしがみつき、朱を刷いたみたいに染めた目元を、僕からの視線を避けるように顔を背ける。
ふっくらした唇の隙間から紅い舌をちらりと覗かせて、突き入れるほどに漏れる甘やかな声。
それすらも僕のものにしたくて、唇で塞いで奪い取って。
一緒に昇りつめて熱を吐き出して。
ひとつになるかと思う程に重なり合って眠るのに。
朝になると、もう一つの確認事項が出来るのが、どうしてなのか分からない。
チョンさんが起き上がって、隣にあった温もりが無くなって僕にも目が覚めた。
「あ、起こしちゃったか?」
「・・・また帰るつもりですか・・・?」
「うん」
「今日は土曜ですよ?もう一日ここにいてもいいじゃないですか・・・折角下着も持って来たのに」
「あはは!バーカ!でも、いいのか・・・?」
これですよ。
お互いに身体の奥まで、そこの熱さまで知った仲だというのに、このアッサリ感は何なのだろう。
いいのか?って、何に遠慮しているんだか。
「いいに決まっていますよ。一緒にどこか行きましょうか?チョンさんは休日にどこに行っていました?」
「そうだな・・・友達の店、が多いかな」
「ははあ・・・場所はどこ?」
「駅の裏側にあるんだ。最近リニューアルしたビルがあるだろ?入口は分かりずらいけど、地下にある店で・・・」
何となくピンときた。
駅の裏側は飲み屋が多い。
僕と違って酒に強くないチョンさんが、休日を使ってまで行く友人の店。
「でも、やっぱり僕は・・・チョンさんともっとこうしていたいですね」
「あっ!ちょっと押し倒すな!」
「スーツを着ていないチョンさんに、チャンミンって呼んでもらいたいし、あ・・・まだ柔らかいですね、ここ・・・入りそう・・・」
「っあ、朝っぱらから・・・もう・・・!」
僕がチョンさんの初めての男じゃないことは聞かなくてもわかっている。
理解はしていても、僕より先にチョンさんの全てを知っている奴がいるのは悔しいし妬ける。
知りたいと思うのは悪いことじゃない。
この時の僕は、自分の独占欲に苦笑していて、根本的な気持ちに気づかないでいた。
そろそろラストが近いです
もう少しお付き合い下さいませ~!