PSO2 小説執筆部

PSO2 小説執筆部

黒歴史しか残らない。
ただ心の中の中2心を満たしたいだけ。

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冬凪は妙な胸騒ぎを感じた。
先日部屋にいたあのアニマという娘に何かあったのではないかと思った。

「かえでー、そろそろ寝なさいよー」
「...あっ、はーい!」

物思いに耽っていると姉から声がかかった。
そろそろ寝なくちゃ。

「...?」

ベッドに入ろうとした時、かすかにだが叫び声が聞こえた気がした。
冬凪はベランダに出て隣の家の屋根に飛び乗った。

「失礼しますよ〜...っと」

そうして叫び声のしたと思わしき方にいつも愛用している、狙撃仕様にしてあるアサルトライフルのスコープを向ける。

「あっ!」

遠くのビルの屋上にはアニマが憤怒の表情で下を見ていた。

「アニマ!」

彼女の声は届くはずもなく、アニマは下へ飛び降りていった。

「行かなきゃ...!」

冬凪は一瞬光をまとわせたかと思うと次の瞬間にはいつも戦闘の時に着るバトルドレスに着替えていた。

「お姉ちゃん、ちょっと行ってくるね」


ーー


一方、肝心の姉はというと...


「ぐぬぬぬ...」
「さあ、どっちかな?」

目の前にいる、不敵な笑みを浮かべた男をどう張り倒してやろうかと一生懸命考えていた。

「あんた覚えてなさいよ...!」

今バカ夫婦2人がやっているのは脱衣ババ抜き。
ただのババ抜きに飽きたきゃっこが「楽しそう」という軽い理由で始めたのがきっかけだった。

「そもそも君は顔に出やすいんだよ」

そうやって涼しい顔をしているリモルドであるが、彼の今の格好は下着のシャツとパンツだけというなかなか危ないものであった。
一方きゃっこはというと、

「もう負けたら後がないのよ...っ!こっちは!!」

無い胸を片腕で必死に隠し、涙を浮かべながらリモルドの持っている2枚のカードのうち一枚を取る。

が。

「いよっしゃああああ!」
「くっ...」

見事にジョーカーを引き当ててしまった。

「さあ!今度は僕の番だ!」
「引いてみなさいよこのエロガッパ」

妹が頑張っていることはつゆも知らない姉であった。


ーー


先程アニマが飛び込んだであろう路地にやってきた冬凪は、まずあたりから漂う血の匂いに顔をしかめる。

「うっ...」

昔、道具として「教育」されていた時に人の凄惨な死体や臭いは慣れているので吐くことはないが気持ちの良いものではない。

「......ちろんきみ......えるよ........ょうきゅうげ......」

誰かが話しているのが聞こえる。
自分も今嗅いでいるような血を撒き散らした死体になるかもしれないと思うと足がすくむが、それよりもアニマが無事であるか確かめたいという気持ちが彼女を突き動かす。

「誰かいるの!?」

そういって入り口に駆け寄る。

「誰かいるなら返事......アニマっ!?」

中は辺り一帯血の海になっており、ところどころ人間の臓器のようなものが散らばっていた。
白い石みたいなのは骨の破片だろうか。
そんな中にアニマが横たわっていた。

流石にここまでの光景は見たことがない。
体の一部は原型をとどめている位なら慣れてはいたが、人としての原型を全くとどめていないのは予想外で数秒間体が固まってしまった。
しかしアニマから血だまりが広がっているのが目に入ると弾けるように彼女の所へ走っていった。

近づいてよく見ると、右腕が完全に無くなり、左腕は肘から先が無い。
腹部に貫通孔。出血は恐らくここからだろう。

「両腕が...それにお腹も...待ってて、今助けるから」

そう言うとアニマはこちらを睨みつけてきた。

「...騙す、つもりか...」

「...えっ?」

顔つきを見ると明らかに前会った時とは違う、冬凪を敵としてみている目をしていた。

「お前も...騙すんだろう?......あいつら、みたいに......」

あいつら、とは彼女をこのような姿にした人達のことだろう。

「違うよ!私はあなたを騙したりしない!」

アニマの顔がますます険しくなっていく。

「...黙れ、人間が......」
「あの日……からだ、全てが地獄に変わった!目の前の人間が、遠くの人間が!全て恐ろしく、憎たらしくなった!」

パニック状態になっているようだ。とりあえず落ち着かせないと失血死まっしぐらだ。

「奴らは私達から全てを奪った!だから今度は私が奪う番だ!喰らう者として!復讐者として!」

そこで冬凪は気付く。
初めて会った時、どこか赤の他人では無いと感じたことを。

(私と同じだ...)

そう思った冬凪は何も言わずにただ彼女を抱きしめる。

「...私だって、一度...全部奪われたんだよ」
「...そう、なのか......?」
「うん。けどね、お姉ちゃんに会って...少しずつ、少しずつ取り戻してるんだ」
「......でも、私は...」
「アニマだって取り戻せる筈だよ。私が出来たんだから…………ね?」

話していると不思議と冬凪は落ち着いた。アニマも呼吸が穏やかになった。
それと同時に彼女は眠そうな顔になった。

「そう、か......やっぱり...優しいなぁお前」
「アニマっ!しっかり!」
「お前には...敵わない、かもな......」

そう言ってアニマの体から力が抜ける。




「アニマ!」

とりあえず手当てしなければ。出血は少なくなったが止まってはいない。
幸い止血剤は持ってきていたので両腕の出血を止める。
ただ、腹部はどうしようもない。

「やるしかない...よね」

意を決した冬凪は袖から小さなお札を取り出し、アニマの腹部に置く。するとすぐにお札は血で赤く染まった。

冬凪は静かに目を閉じ、お札の上に手をかざして小さく何かを呟く。

するとお札が淡く光りながら燃え尽き、アニマの傷が跡形もなく塞がった。

「っはぁっ!......はぁっ......」

どさりとその場に座り込む冬凪。
これはきゃっこや冬凪が小さい頃よく行っていた神社で使われている呪術の1つで、お札はフォトンを媒介にして失われた体の一部を再生する媒体である。
ただ必要なフォトンの量が多く、普段戦闘で使用するフォトンに加えてアークスの体を守るためにあるフォトンまで使用するのが玉に瑕。

「とりあえず、家に...連れて行こう...」

ただ、アニマには腕がないので肩を貸す形では連れて行けない。
あるとすれば......




一方、きゃっこの家ではバカ夫婦の決着がつき、そのまま夜戦にもつれ込んでいた。

と、

ガチャ...

玄関の鍵が開く音がしたので2人は一瞬で我に帰り、直ちに服を着て武器を構えた。
この間わずか4秒。
そして素早く玄関の前に躍り出るきゃっこ。

「残念だったわねこの強と...あれ?」
「どうしたんだい?...あれ?」

遅れてやってきたリモルドも目の前の光景に絶句する。

そこには、

「えへへ...」

苦笑いする血塗れの冬凪と、お姫様抱っこの形で気を失っているアニマがいた。




「全く、どこか行くなら一言言ってよね」
「えっ、あっ、ごめんなさい...」

てっきりとんでもなく怒られると思っていた冬凪は予想外の軽さに少し戸惑った。

「リモルド、あの娘の様子はどう?」

部屋から出てきたリモルドにきゃっこは声をかける。

「両腕はじきに治ると思うよ。...あと、腹部にも傷があったっぽいけど跡形もなく塞がってるね」
「...楓、お札使ったの?」
「うん...」
「...それほどあなたにとって大切なのね、あの娘は」
「...いいかい?」

リモルドがきゃっこを遮るように話す。

「なによ?」
「彼女は......」

彼は少し言い淀んだ。

「なに?」
「彼女は、喰らう者だ」

3人の間に沈黙が流れる。

「ま、そんなこったろうと思ってたわ」
「...え?」
「おや、お姉ちゃんを誰だと思ってるのかな?」

きゃっこが思いっきりドヤ顔をする。

「私は情報部の人間よ?最近喰らう者を喰らう女がいるって情報位来てるわよ」
「でもあかねーちゃん喰らう者憎んでるんじゃ...」
「憎む?もし憎んでるんだったら...」

と、いきなりリモルドの股間を蹴り上げる。

「ぴぎぃっ!?」
「こんなやつとっくに殺してるわよ」
「...うん、あかねーちゃんが喰らう者を憎んでることがよくわかったよ」
「え!?なんで!?私べつに憎いって思ってないって!」
「ぐうぅぅぅ...」
「リモルド完全に伸びちゃってるよ?」
「...やりすぎたかな」


ーー


アニマが目をさますと、すぐ傍らに冬凪がベッドに突っ伏して寝ていた。
体を確かめると、両腕は何事もなかったかのようにあり、腹部の穴も消えていた。
体だけを見れば昨日のことなど何もなかったようだ。
しかし彼女はあのことを思い出したままだった。

出来れば忘れていたい記憶。
あの日自分は全てを奪われた。

「......」

そっと冬凪の頭を撫でる。

「私にも...取り戻せるかな...」
「んぅ......」

と、冬凪が目を覚ました。
眠そうな目を擦り、目の前のアニマをじっと見る。

「......」
「......」
「......アニマっ!」

冬凪の顔がパッと明るくなり、目に涙が浮かぶ。

「おう」
「よかった...よかったよぉ...」
「まぁ、その...ありがぐふぉっ!?」

冬凪がアニマに思いっきり抱きつく。

「あのまま目を覚まさないんじゃ無いかって...不安で...」
「......全く泣き虫だなお前は。私があれくらいで死ぬわけ無いだろう?」
「死にそうだったもんっ!」

冬凪の気迫に思わずたじろぐアニマ。

「友達が死にかけてたんだから心配になるよ!」

『友達』。
仲間を亡くしてからずっと1人だったアニマには利用できる者こそいたものの、友達は1人もいなかった。

「...ニハハハハッ!友達か!」
「そうだよ...改めてよろしくね、アニマ」
「......ああ、よろしく、冬な...」

グウウウゥゥゥゥゥ...

言い終わる前に2人のお腹が盛大に鳴った。

「......何か食べたいね」
「そうだな...何日くらい寝てたんだ?私は」
「えっと...4日かな」
「ふむ、そりゃあ腹が減るな」
「お姉ちゃんに頼んで作ってもらうね」

そう言って冬凪は部屋をあとにする。

1人残されたアニマは「友達」という言葉を今一度噛み締めていた。




「...で」
「ほらアニマ、口開けて?」
「私はもう完治しているのだが?」

ご飯を持ってきた冬凪は何を思ったのかアニマに昔ながらの「あーん」をさせようとしていた。

「えーいいじゃん!」
「そこまで私は年老いてない。自分で食う」

そう言うとスプーンをもぎ取り、自分で食べ始めた。

「もう、こんなことしてもらえることなんて滅多にないんだよ?」
「...別に構わん」
「そっか...」

しょげる冬凪。

「...どうしてそこまで世話を焼いてくれるんだ?出会ったばかりだというのに」
「それは...なんていうか...」
「...やっぱり騙すために」
「違うよ!...お姉ちゃんになった気分だったから......」
「...へ?」

斜め上どころかはるか頭上をいく回答に思考が停止するアニマ。

「私妹でさ、いつも私の事気にかけてくれてるお姉ちゃんがいるんだけど...私いっつも助けてもらってばっかりだったから......私が手助けできるって思っちゃって...」
「...その姉は幸せ者だな」
「...へ?」
「こんなに人を思いやれる妹を持てたのだからな」

ぼっ、と音が出るような勢いで顔が赤くなる冬凪。

「もう!やめてよ!」
「では私は全力で頼らせてもらおう」
「...うん、いいよ」


ーー


「ところでこれをつくったのはお前の姉か?」

アニマはおかゆを指して言う。

「ううん、それを作ったのはリモルドだよ」
「リモルド?」
「うん、お姉ちゃんの夫」
「ふぅん...」

ベッドから降りるアニマ。

「礼を言ってこなくてはな」




ガチャ、と冬凪の部屋のドアが開いて先日の娘が顔を出した。
バカ夫婦2人はそれに気づく。

「あら、おはよう」
「ああ、妹には世話になった」

そしてアニマはリモルドの方を向く。

「お前がリモルドか?」
「そうだよ」

リモルドがそう言うとアニマはつかつかと目の前まで歩いて来る。

「ふんふん...お前面白い匂いがするな!少し齧らせろ!」
「あっ、ダメだよアニマ!」

冬凪が止めに入る。
そしてアニマに耳打ちする。

「お姉ちゃんリモルドに何かあったらすっごい怖いから」
「ほう...」

そうして2人がきゃっこの様子を伺うと、

とくに何事もないようにアニマを見ていた。

「...あれ?」
「なんだ冬凪。普通じゃないか」
「お姉ちゃん、怒ってない?」
「今のどこに怒るところがあったのよ」

まぁでも、と言葉を続ける。

「あんた喰らう者を喰らうんでしょ?」
「そうだ」
「こいつを喰おうとは思わなかったの?」
「...確かに今腹は減ってる。だが喰おうとは思わん。齧らせてくれればそれでいい」
「ふぅん...あ、あとあんた追われてる身じゃないの?」
「まぁ喰らう者からは嫌われてるな」
「じゃ、ほとぼりが冷めるまでうちにいなさい」
「いいのか?」
「冬凪がそうして欲しそうだからね」

冬凪が座っている方からガタッと音がする。

「ち、違うもん!」
「ニハッ!ちょうどどうしようか考えていたところだ!甘えさせてもらおう!」
「よかったね冬凪」
「ああもう!お姉ちゃん嫌い!」

そういって冬凪は自分の部屋に引っ込んでしまった。


ーー数日後。


夜、ふと目が覚めた冬凪は隣で寝ているはずのアニマがいないことに気づいた。
その意味をすぐに察した冬凪はいつものバトルドレスに着替えてベランダに出る。
すると遠くに佇む人影が見えた。

この前と同じような予感がした。

「アニマっ!」


ーー


冬凪が着いた時、まだ決着はついていなかった。
だが、まるで肉食獣同士が互いの肉を狙って殺しあっているような光景を前に、彼女は固まってしまった。

「その肉を食わせろぉぉぉ!」
「ニハハハハハッ!脇が留守だぞ!」

アニマは冬凪が両手でやっと持てるであろう大きさの剣を片手で悠々とふるっている。
と、相手の男が使っていたダガーの剣先が地面に刺さる。

「...ちっ」
「その腕、頂くぞ?」

一瞬で間合いを詰めたアニマは男の右腕を掴み、食い千切る。
食い千切られた所から血がとめどなく吹き出し、それまで戦っていた埠頭のコンクリで出来た地面を赤黒く染めていった。

「ぎゃあぁぁあぁああああっ!?」
「ふむ、なかなかの味だな...では反対側も貰うとしよう」

もはや戦う意思が見られない男はなす術もなく左腕を食い千切られる。

「あ、あぁ...うあぁぁああ...」
「んむ...美味いぞお前!...だが泣き叫ぶのはうるさいな」

と、男が唐突に静かになった。

「お、喰われる気になったか?」

「ぅぅぅううううあああああああっっっ!」

男の体が黒い何かへと変化していく。
男は食いちぎられた痛みより、自分の体の中で起こっていた変化に対して叫んでいたのかもしれない。
みるみるうちに全身が黒い物質になり、その場に溜まったが、今度はそれが液体のように辺りを蠢き、新しい「何か」を構成している。

それにはアニマも有効な手段が取れずにいた。

それは体長3mはあろうかという巨大な龍の形になった。

「こいつ...龍族でも喰らってたのか...うっ!?」

龍はその長い体で素早くアニマを締め上げ、上半身に食らいつこうとする。

そんな中、辺りに乾いた音が響き渡る。

直後に龍の頭が地面に伏し、その体が塵となって消滅した。

アニマは音のした方を見て、呟く。

「冬凪...」

冬凪は持っていたライフルをそっと収めた。

「...見てたのか、喰っている所を」
「...うん」
「......恐ろしかっただろう?だが......私はこうしないとなかなか空腹を満たせん...やはりこんなバケモノと友達は嫌だろう?」
「...」

冬凪は何も言わず、アニマの目の前に立つ。
アニマは泣いていた。

「そんなことないよ」
 
そう言って冬凪はそっとアニマを抱きしめる。

「アニマは何しててもアニマだから」

その言葉にアニマは堪えきれなくなった。

「...ほんと、お前には敵わないなぁ」


ーー


「...で、これはどういうことだ?」

こっそり冬凪の部屋に戻ってきた2人はきゃっこに気づかれないようにシャワーを浴びて来た。
が、いつの間にかアニマはひらっひらのネグリジェを着ていた。
...あれ、いつの間に着たんだろう。
そんなアニマの姿を見た冬凪はベッドにぶっ倒れていた。

「あぁ、やっぱりアニマが着ると可愛いなぁ...」 
「いや待て」

冬凪がどういう人物なのかわからなくなった。

「さっきまで着ていた服はどうしたんだ?」
「洗ってるよー」
「...」

特に服へのこだわりがないアニマではあるが、なぜかこれは気恥ずかしかった。

「いい、全裸で寝る」

そう言って脱ぎだす。

「あっ駄目だよ!風邪ひくよ?」
「風邪など寝てれば治る」
「っていうか可愛いんだから脱がなくてもいいじゃん!」
「断る」
「...ええいこのっ!」
「む...どうやってぬ...うわわっ!」

脱ごうとして身構えてないというのもあるが、とても鮮やかな動きでアニマはベッドに投げられた。
そこに冬凪が覆いかぶさる。

「えへへ...」
「ふ、冬凪...目が怖いぞ...?」
「言うこと聞けない娘には...おしおきっ!」

そう言うとネグリジェの上から、脇の下を指でつーっと撫でる。

「ひぐっ!?」

アニマの体が大きく跳ねる。

「ふふふ...脇弱いんだー?」
「ひっ...」

初めてアニマが冬凪を怖いと思った瞬間である。

「アニマちゃぁん...」
「は、はひっ!?」
「いいこと、し...よ......」

と、唐突にアニマの上で寝てしまった。

「た...助かった...のか...?」

これ以上されていたらと思うと身震いする。
また起きられると困るのでそっと冬凪をどかそうとする。

が、腕でがっしりとホールドされていて動かない。

「...」

どうしたものかと考えているうちにアニマも睡魔によって夢の世界へと旅立っていった。




アニマが起きると、既に冬凪は部屋にいなかった。
代わりにベッドの側に洗濯された服が綺麗にたたまれて置かれていた。

着替えてリビングへと向かうと既に朝食の準備ができており、3人が既に席についていた。

「あ、おはようアニマ!」
「お、おはよう...」

昨夜のことが忘れられないアニマはおっかなびっくりの返事をする。

「ほら、早く座って!」
「ああ...」

アニマが座ると、3人一斉に「「「いただきます」」」と言って食べ始めた。
それにつられるように「い、いただきます...」と言ってアニマも食べ始める。

と、きゃっこが口を開く。

「ねぇアニマ」
「ん、なんだ?」
「あんたは喰らう者を喰らわないと空腹なわけ?」
「あぁ...別にあいつらを喰わなくても腹は満たせるぞ。ただかなりの量食べるがな」
「そうなのね」
「奴らは結構美味いからな...たまにまずい奴もいるが」
「じゃ、今日は冬凪と2人で食べ歩きしてきな」
「奴らをか?」
「ご飯のほうよ」
「ふむ、分かった。あ、卵焼きおかわりだ!」
「おかわりとか用意してないんだけど...」


ーー


きゃっこの家からそう遠くないところに大きなモールがある。
2人はそこを訪れていた。

「うわあこれ3人家族が半月生活できるくらいのお金...」
「冬凪!いくぞ!あっちだ!」
「全く気にしてないよこの子...」

普段から無銭飲食常習犯なので、堂々と食べられるのは嬉しいようだ。




お昼下がりになる頃には持ってきていたお金が半分を切ろうとしていた。
今は喫茶店で(主に冬凪が)休憩している。

「すごい食欲...」
「言っただろう?かなり食べると」
「それは聞いたけどさ...」

ふぅ、と頬杖をつく冬凪。

「お、これ美味しそうだぞ冬凪っ!」

フロアガイドを見ていたアニマが立ち上がる。

「分かったよ、行こう」


ーー


「まさかほとんど使い切るとはねぇ...」

きゃっこは渋い顔をしていた。

「ごめんあかねーちゃん...私がちゃんと止めてれば...」
「いや止める必要はなかったけど...参ったなぁ、このペースだと先にうちの財政が破綻しかねない」
「でも喰らう者を襲わせるのも...」

そう言って冬凪はちらりとリモルドを見る。
リモルドは首をすくめて、

「僕は昔の仲間より今の家族の方が大切だから特に何も言わないよ」
「まぁあんたはそう言うと思ってたわ」

きゃっこはため息をつく。

「ま、ほとぼりが冷めるまではアークスにお金出してもらいますか」
「もしダメだったら?」
「決まってるでしょ」

「「「ウニョリーに払ってもらう」」」


ーー


きゃっこが情報部の上司に「丁寧に」お願いしたところ当面の間アニマの食費は出してくれることになった。
その代わり居場所を逐次知らせることを義務付けられた。
もちろん面倒くさいので大体家にいるとしか言ってないが。

「リモルド!お腹すいたぞ!」
「あぁ、はいはい」
「リモルドお腹すいた!」
「お姉ちゃん...」

まるで娘が3人いるみたいでリモルドは微笑ましかった。
そのうちの1人はこの間我慢できなかったのか自分に噛み付いてきたが。

「冬凪っ!」
「うん?」
「今日も出かけるぞ!」
「...うんっ!」

「まるでカップルみたいだわ」

仲良く出かけていく2人を見送りながらきゃっこは呟いた。