「そう、紅茶は左、ケーキは右だ」
ふう、と息をつく。鳳先輩の指導はこの部の誰よりも適格で優しさの中に厳しさを感じられた。
「よくできたね。今日はここまでかな」
ふと窓の外を見るとすっかり日は陰っており、いつ心配した母からの連絡が来てもおかしくなさそうであった。
「今日もご指導ありがとうございました」
「そこまで頭をさげると少し見苦しい。もう少し体を立てて。…そう、そのくらいが限度だ。」
細かいところまで指導してくださるその指先一つ一つに品の良さが出ている鳳先輩を見ていると、まだまだ少し緊張してしまう。
「改めてありがとうございます」
「いやいや。君の才能には参ったよ。普通生まれた時からの積み重ねで出てくる品というものが付け焼刃とはいえ少しずつ出てきている。これを1ヶ月でものに出来るとは物覚えがいいんだね」
「そう言っていただけると幸いです」
鳳先輩はハルっちに片付けを命じると私の荷物を取ってきてくれた。
「じゃあ、くれぐれも気をつけて」
「はい、失礼致します」
「なおちぃまたね。」
「ハルっちまた明日!」
「ハルヒ」
鏡夜はパタパタと片づけに勤しむハルヒを呼び止めた。
「五井嬢のことだがお前の目から見てからどうだ。クラスでの様子とか、ここでのレッスンの状況とか」
ハルヒはうーん、とややためらってから言葉を紡いだ。
「なおちぃって熱中すると飲み込みめちゃくちゃ早いんです。なおちぃのお母さんが結構のんびりした方なので、しっかりしなきゃっていう思いがもともと強い子っていうのもありますけど。中学校の頃は荒井と一緒に体育祭の実行委員とか、そういうの積極的にしてましたよ」
「ほお。だが、高校は第一志望じゃなかったようだが」
「あー、そのことですか…」
ハルヒは軽く頭を抱える。
この事、話しちゃっていいのかな…。
「まあ、合格間違いなし、と言われていた第一志望の受験当日にインフルエンザで40℃の発熱、這って試験会場まで行き最終科目まで受験したものの試験終了と同時に失神し、緊急入院。翌日に予定していた第2志望には受験にすら行けなかった、というのはすでに調べはついているが」
「…うわー。先輩のその情報収集能力、相変わらず怖いです」
そういうな。鳳グループの傘下にはいろんな会社があるだけだ。
ハルヒは軽くため息をつく。
「責任分担できるときはいいんですけどね。それ以外の時は根詰めすぎてバテちゃうまで頑張るのが、なおちぃなんです」
「じゃあ、そろそろ危険なんじゃない?」
そうひょっこり顔を出したのは、ハニー先輩だ。
「さっき帰る時ちょっとこめかみ抑えてたよ」
ハルヒは顔をしかめる。
「僕もバテないようにって思っていっつもお気に入りの焼き菓子用意してるんだけど、なおちゃん、食べないもんね、僕に遠慮してるみたいに」
「そりゃハニー先輩いっつもものすごい勢いで他のお菓子は食べてるじゃないですか。そりゃ遠慮もしたくなりますよ」
「しかしなかなかそれは重大な問題だな。」
と、話に入ってきたのは環であった。
「鏡夜、俺から見るとではあるが、さっきの言葉はやや控えめ過ぎないか?もっと褒めてもいいと思うが」
「B組C組程度の家柄との婚姻を想定してるならあれでもいいだろう。だが、A組クラスとなるとそうは行かない」
もっともお前はそういうところに敏感になる必要はないと思っているがな、と鏡夜はほうじ茶をすする。
「鏡夜先輩、それ本気で言ってる?」
そんな一言を発したのは光であった。
「僕と光から見ても、とりあえず基礎は十分だと思うけど?」
「品とかそういうのってやっぱり場数踏まなきゃ身につかないよ。現状彼女はおしとやかな女性って言うよりは明るく元気な女の子だもの。今、しなくちゃならないのって彼女の個性潰してでも必要なこと?」
「五井氏の足をひっぱることをしたくない、と言ったのは彼女だ。彼女の意向を無視するのがホスト部のやり方か」
ここまで言ってから、鏡夜はらしくない自分に戸惑った。なんで俺はここまで一人の女に熱くなってるんだ。
いつもどこかびくびくしていた最初の頃。だが、2週間もすればクラスでは打ち解けてきたのか少しリラックスしたような表情を見せる瞬間が増えた。その瞬間に目を奪われる自分がいるのもわかった。
「もうお客様として来てもらってもいいんじゃないか?」
環の一言に顔を上げる。
「もう少し特訓したほうが…」
「彼女を甘く見過ぎじゃないか?鏡夜」
特訓は、明日で終了だ。
その代わり、全員でおもてなしをしよう。
それが環の提案で、多数決により決定された。
鏡夜はどこかでショックを受けている自分を隠しきれていなかった。
ふう、と息をつく。鳳先輩の指導はこの部の誰よりも適格で優しさの中に厳しさを感じられた。
「よくできたね。今日はここまでかな」
ふと窓の外を見るとすっかり日は陰っており、いつ心配した母からの連絡が来てもおかしくなさそうであった。
「今日もご指導ありがとうございました」
「そこまで頭をさげると少し見苦しい。もう少し体を立てて。…そう、そのくらいが限度だ。」
細かいところまで指導してくださるその指先一つ一つに品の良さが出ている鳳先輩を見ていると、まだまだ少し緊張してしまう。
「改めてありがとうございます」
「いやいや。君の才能には参ったよ。普通生まれた時からの積み重ねで出てくる品というものが付け焼刃とはいえ少しずつ出てきている。これを1ヶ月でものに出来るとは物覚えがいいんだね」
「そう言っていただけると幸いです」
鳳先輩はハルっちに片付けを命じると私の荷物を取ってきてくれた。
「じゃあ、くれぐれも気をつけて」
「はい、失礼致します」
「なおちぃまたね。」
「ハルっちまた明日!」
「ハルヒ」
鏡夜はパタパタと片づけに勤しむハルヒを呼び止めた。
「五井嬢のことだがお前の目から見てからどうだ。クラスでの様子とか、ここでのレッスンの状況とか」
ハルヒはうーん、とややためらってから言葉を紡いだ。
「なおちぃって熱中すると飲み込みめちゃくちゃ早いんです。なおちぃのお母さんが結構のんびりした方なので、しっかりしなきゃっていう思いがもともと強い子っていうのもありますけど。中学校の頃は荒井と一緒に体育祭の実行委員とか、そういうの積極的にしてましたよ」
「ほお。だが、高校は第一志望じゃなかったようだが」
「あー、そのことですか…」
ハルヒは軽く頭を抱える。
この事、話しちゃっていいのかな…。
「まあ、合格間違いなし、と言われていた第一志望の受験当日にインフルエンザで40℃の発熱、這って試験会場まで行き最終科目まで受験したものの試験終了と同時に失神し、緊急入院。翌日に予定していた第2志望には受験にすら行けなかった、というのはすでに調べはついているが」
「…うわー。先輩のその情報収集能力、相変わらず怖いです」
そういうな。鳳グループの傘下にはいろんな会社があるだけだ。
ハルヒは軽くため息をつく。
「責任分担できるときはいいんですけどね。それ以外の時は根詰めすぎてバテちゃうまで頑張るのが、なおちぃなんです」
「じゃあ、そろそろ危険なんじゃない?」
そうひょっこり顔を出したのは、ハニー先輩だ。
「さっき帰る時ちょっとこめかみ抑えてたよ」
ハルヒは顔をしかめる。
「僕もバテないようにって思っていっつもお気に入りの焼き菓子用意してるんだけど、なおちゃん、食べないもんね、僕に遠慮してるみたいに」
「そりゃハニー先輩いっつもものすごい勢いで他のお菓子は食べてるじゃないですか。そりゃ遠慮もしたくなりますよ」
「しかしなかなかそれは重大な問題だな。」
と、話に入ってきたのは環であった。
「鏡夜、俺から見るとではあるが、さっきの言葉はやや控えめ過ぎないか?もっと褒めてもいいと思うが」
「B組C組程度の家柄との婚姻を想定してるならあれでもいいだろう。だが、A組クラスとなるとそうは行かない」
もっともお前はそういうところに敏感になる必要はないと思っているがな、と鏡夜はほうじ茶をすする。
「鏡夜先輩、それ本気で言ってる?」
そんな一言を発したのは光であった。
「僕と光から見ても、とりあえず基礎は十分だと思うけど?」
「品とかそういうのってやっぱり場数踏まなきゃ身につかないよ。現状彼女はおしとやかな女性って言うよりは明るく元気な女の子だもの。今、しなくちゃならないのって彼女の個性潰してでも必要なこと?」
「五井氏の足をひっぱることをしたくない、と言ったのは彼女だ。彼女の意向を無視するのがホスト部のやり方か」
ここまで言ってから、鏡夜はらしくない自分に戸惑った。なんで俺はここまで一人の女に熱くなってるんだ。
いつもどこかびくびくしていた最初の頃。だが、2週間もすればクラスでは打ち解けてきたのか少しリラックスしたような表情を見せる瞬間が増えた。その瞬間に目を奪われる自分がいるのもわかった。
「もうお客様として来てもらってもいいんじゃないか?」
環の一言に顔を上げる。
「もう少し特訓したほうが…」
「彼女を甘く見過ぎじゃないか?鏡夜」
特訓は、明日で終了だ。
その代わり、全員でおもてなしをしよう。
それが環の提案で、多数決により決定された。
鏡夜はどこかでショックを受けている自分を隠しきれていなかった。