スポーツ大会の写真を仕事で撮影するようになって、小学生や中学生のスポーツマンと接することが増えた。そんな子供たちはコーチや監督等に礼儀も教育されていることが多いので、営利目的で試合会場にいるカメラマンの私にも清々しい挨拶をしてくれて実に気分がいい。こちらも、出来るだけいい写真を撮ってやろうという気持ちになってくる。
そんな子供たちを観察していると、コーチや監督の言うことを押し並べて素直に聞いている。体育会系の特徴なのかもしれないが、否定するということはない。急成長する時期には、素直であることが成功の最大の条件であるようにも思えてきた。
土・日・祝日のうち1~2日はそんなスポーツ大会の撮影をし、もう1日は某ホテルの専属カメラマンとして挙式・披露宴のスナップ撮影をしている。(ちなみに、KYアートとして仕事を受注したのではなく、個人として就活をし、履歴書も書いて、委託カメラマンとして雇われたのである)。
もう2カ月近くになるが、やっとメインのカメラマンとして撮影できるようになった。12年以上の経験があるのにと思われるかもしれないが、その12年はN社での経験である。今度のS社は、N社とはあらゆる点で異なっている。資本主義と社会主義ほどの違いがあると言っても過言ではない。
N社の社長は趣味を仕事にした人で、いわゆる大学の写真学科や写真専門学校で基本を学んだ人ではない。その分、自由な発想でブライダルスナップのパイオニアとして古典的な婚礼写真業界に一石を投じることができた。
一方、S社の方は婚礼写真業界の王道を行くタイプで、そこの社員は全て業界に通用する有名な写真専門学校卒である。ホテルの写真室で業績を上げ、全国各地のホテルに写真室を展開している。ホテルの写真室は高額なテナント料を支払っているだけに、ホテル内の他の部門と同等の扱いを受ける。
私がかつて所属したN社では披露宴の進行の邪魔にならないようにピリピリして撮影していたが、S社では写真室のカメラマンがブライダルスナップを撮るのであるから、仕切りたいだけ仕切ることが出来る。さらに、使用するカメラも決められている。Cメーカーのフルサイズボディで、レンズも純正の最高級品で、ストロボも最高機種である。
それらを全て2台づつ揃えるとなると100万円でも足りないが、そこの委託カメラマンはすべてS社所有の機材を使用する。その辺は、社員のスタジオカメラマンがスタジオ機材を使用するのと同じ感覚である。重い機材を持って出勤する必要がないので私としては楽である。それに、自分でも驚くほどのきれいな仕上がりとなる。機材が高級だとこんなにも写りが違うのかと驚いた。(いずれお金が貯まれば、この機材を購入し、KYアートでの撮影も同品質を提供したいと思っている。その折にはKYアートのホームページで告知します。)
しかし、戸惑ったこともある。それは、スナップ撮影であるにも関わらず、カメラボディもストロボも全てマニュアル設定で撮影するという点だった。N社ではボディは絞り優先を基本とし、被写体が動いている時はシャッタースピード優先にし、被写体の状況でどうしてもまずい時にマニュアル設定にする程度だった。ストロボは常にオート(TTL)にし、金屏風の前や、被写体が白っぽい、または黒っぽいなどの時に補正する程度だった。そのように、ある程度はカメラに頼ることによって、スナップ撮影の本来の意義である「一瞬の機会を逃さない撮影」をしてきた。
ところが、S社ではそれらが全て否定されたので、Cメーカーの機材に慣れることに加えて、全てをマニュアルで撮ることに慣れるためにも時間を要した。2カ月近くもメインで撮影出来なかったのはそのためである。その分、多くのことを学ぶことが出来た。初心に帰って、S社の婚礼スタジオカメラマンにいろいろ教えてもらい、なんだか、写真専門学校の実地教育授業を受けているような感覚であった。
先日、その色に染まりかけた私は、P社から請け負ったスポーツ大会の試合中のスナップ写真までもマニュアル設定で撮影した。その数日後、P社の担当者から注意された。「スナップをマニュアル設定で撮影すると、適正露出になっているかどうかを常にカメラマンが注意していないといけません。そんなことに気を回すくらいなら、絞り優先にして画角とシャッターチャンスに意識を集中させてください!」と。
私は、この言葉で目が覚めた。この担当者は、厳しい写真業界で30年以上も成長を重ねてきたP社の課長である。写真のことを知りつくしたプロ中のプロである。この2カ月近く戸惑いつづけた婚礼スタジオカメラマンのマニュアル呪縛から解放された気分だった。
たしかに、被写体の状況によってはマニュアル設定で撮影することは絶対に必要である。しかし、なにもかもマニュアル設定で撮ることで、本来のスナップ撮影の役割を果たすことができなくなる。撮影経験のない式場や披露宴会場、被写体の状況がめまぐるしく変化する場合などには、全てがマニュアル設定では適正露出になっているかどうかをチェックしている間に、その瞬間は過ぎ去ってしまい、一瞬の機会を捉えることはできない。
案の定、婚礼スタジオカメラマンの支配下にあるS社のカメラマンは、私なら撮っているなと思える多くのシーンを撮影していなかった。S社では撮影した画像を削除することが禁止されているため、カメラマンは露出調整の失敗を恐れて撮影しないのである。S社のカメラマンは、婚礼スタジオカメラマンとしてはプロである。しかし、スナップカメラマンとしてはプロではなかった。お金を頂く以上、お客が本当に求めているニーズに応えることができなければプロではない。ニーズとはお金を支払う側によって決まるものである。素人には見分けがつかないような、プロに認められる完璧な適正露出で撮影された写真だけを提供することではない。それは、ただのマスターベーションである。スタジオの中や、ホテル内の限られた宴会場や限られた挙式場でしか通用しない井の中の蛙である。そんな井の中で撮ったものを、これが真のプロの作品だと、自己満足に浸って客に押し付けるようなもので、どことなく官僚主義的でもある。
次回のS社での撮影では支配者である婚礼スタジオカメラマンに叱られることを覚悟で、以前と同じ撮り方である「絞り優先」を中心に撮影し、多くの一瞬一瞬のシャッターチャンスを逃さないようにしようと思っている。今までの12年間に培ってきた経験を生かし、ブライダルスナップのプロとは何かを意識しながら撮影に臨もうと考えている。
だからといって、S社から学んだことも生かすつもりである。ストロボの使い方や、露出の正確さは、婚礼スタジオカメラマンならではの見習うべき技術である。
N社もP社もS社も、それぞれに悪いところはある。そんな点を指摘し、時には否定することも必要である。しかし、全てを否定してしまうと、それまでである。もう、その会社からは何も学べない。学ぶところがないのではなく、全否定した本人自身の心に学ぶ余地がなくなるだけなのである。全否定とは、その人自身の成長を阻害する心の魔物なのである。