銀杏の黄の隙間から赤が覗いていた。葉を数枚退けてみると、赤蜻蛉の死骸があった。最近の朝の厳しい冷え込みに耐え切れなかったのだろう。少し看守尾的にはなったものの、数瞬後には銀杏の葉と共にゴミ袋の中へ掃き入れた。
 そのゴミ袋を玄関先の風除室に置き、暫くして外出しようとドアを開けた時、カサカサと乾いた音を聞いた。ビニール製のゴミ袋はねじれが戻る時や、風が当たって居る時に音がする時があるので、その時は全く気にせず外へ出た。
 用を足し終え、玄関先に戻った時、また乾いた音がしている。袋に耳を近づけると、カサカサいう音と共に、ぶんぶんと羽音のようなものが聞こえる気がした。ふと赤蜻蛉のことを思い出し、さては生きていたのかと袋の口を開いて穴を覗き見たが、袋の中にトンボの死骸はちゃんと入っており、他の虫が中から飛び出たこともない。おかしいなぁと思いながら袋の口を締め直し、家に上がった。
 暫くして友人が届け物に来た。風除室内で世間話をしていると、またゴミ袋がカサカサブンブンいっているようだ。扉は閉まっているので風が入ることはないし、袋がねじれた様子もない。友人は中に虫がいるんじゃないか、と云うので、ゴム袋を外に出し、口を開けて二人一緒に中を覗込んだ。中には件の赤蜻蛉の死骸がひとつ。ほかは銀杏の枯葉ばかりである。袋から何かが飛び出た形跡もない。おかしいなぁ、と二人。
 袋の口を閉じて又それを風除室内に戻した。しかし、それから、音は全くしなくなった。