ある日、遍参(禅僧が各地の師を訪れ、修行してまわること)の僧が柳屋の店に来て、店先に並べてある品物をあれこれ見、一つの毛抜きを手に取って
「この毛抜きは、食う(くう)ものか」
と聞いてきたので、柳屋は腹を立てたが、相手が禅僧であるし、かねてから自らも禅学を学んでいることから
「その毛抜きは本来、空(くう)」
と答えた。
するとさすがに禅僧は即座に
「空ならばたゞ紅(くれない)のはな毛抜き柳がみせは見取りなりけり」
(何ものでもないというならただでくれないか、鼻毛抜き。柳屋は見とってください)
と、一首の狂歌を詠んで、その毛抜きを持ち去ったとか。
※ 「一切空(くう)」は、万物はすべて実有でないという意。禅宗でさかんに使われる語。
※「空ならば」の歌は、「柳は緑、花は紅」を踏まえたもの。
