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かつて『純喫茶』と呼ばれる店があった。

今やカフェ全盛であるが、純喫茶の全盛時代である70年~80年台ではカフェとは女性が酒を供する店であり、純喫茶とカフェでは純文学書とエロ本を比べるくらい言葉の響きに開きがあったものである。

今や純喫茶はイリオモテヤマネコ並みに絶滅危惧種である。

その純喫茶。

実は大阪には結構残っている。

『レトロ喫茶』

と呼ぶこともある。
しかしながら、平成の時代に作られた昭和風のエセ純喫茶では『マヅラ』の足元にも及ばない。

マヅラは1970年の昔から、この大阪駅前第一ビルに孤高のごとく存在し、風格をたたえ歴史を刻んでいる。

そう場所は大阪駅前。

おお一等地ではないか。

と思うのは他県民。

ああダイヤモンドシティか…

大阪の民ならばニヤニヤするはずだ。

大阪市の第三セクター、ハコモノ失敗ビルである。

しかしながら諸君。

このビル群は穴場なのだ。
思わず舌なめずりしたくなるような魔店がたくさあるのだ。

しかも安い。

ランチで500円はごくごく普通である。

さて『マヅラ』

第一ビルの地下一階に鎮座する。

200人は楽々入れる巨大店だ。
店の前にはシンボルであるジョニーウォーカーの販促人形が。
実にいかした奴だ。
自信に満ちたナイスな笑顔。
欧米人らしからぬ親しみやすい日本人体型。

実に70年代な看板。

マヅラ…

店名の由来が気になって仕方ない。

勇気を出して中に入る。

広い。

広い店内にボーイさんが直立不動で立っている。

半世紀近く使いこんだ椅子とテーブル。

半円形の椅子…

当時モダンの最先端で、一周まわってさらにカッコ良さを極めている。

巨大タコの吸盤のような天井。

気持ち悪…

ナイスな天体型の証明。

幾何学的模様の壁。

おそらくは70年大阪万博で我も我も月の石を見に行った。

『宇宙』

が時代の最先端だった。

そうだ宇宙。

内装は宇宙なのだ。

恐る恐る半円形の椅子にかける。

『…す、滑る…』

なんと宇宙な座り心地。

還暦をさらに一周ほど過ぎたウェイトレスさんがやってくる。

『ええと。ブレンドを…』

『ハイ、ホットですね』

そうだホット。

コーヒーはホットかアメリカン。

アイスコーヒーはレイコー。

由緒正しき大阪の純喫茶である。

コーヒー 250円。
きっと創業以来一度も価格変更していないに違いない。

ホンモノの昭和がそこにある。

しかもカップがキレイ!

程よく使い込んでなお、磨きこまれた艶がある。
汚れ、傷など微塵もない!

味は…

おお程よい酸味が…

思わず口をすぼめるほど酸味がある。

アメリカン。

昔、イタリアンエスプレッソなど影も形もないころ。

コーヒーはホットとアメリカン。冷コーにミルクコーヒーが主流だった。

全く時代にとらわれない味。

1970年で停止したままの味わいがそこにある!

ついでにウェイトレスさんも70年創業のころから働いているはずである!
〔悲しいかな。もう駄菓子屋のおばちゃんの風情がある〕

ミナミの純喫茶アメリカンともども、キタのマヅラも生き残っていって欲しいものである。