これ、この事件に特化した「別冊宝島」を持っていた。
なかなか、よく調べ上げられた本で、旅館の名前を取材
で特定したり、損害賠償額を突き止めたりしてた。
だが、その本が、どっかいってしまって、レビューでき
ない状態になった。
隔靴掻痒の感は否めないが、人によって違う「旅館破壊
事件」を紐解いてみようと思う。
▽みんなで酒でも飲んで飯を一緒に食って心開こうや
1987年1月23日、熊本・水俣市体育館での試合後
の夜、市内の旅館で新日本とUWFの選手の親睦の飲み
会が開かれた。
音頭を取ったのは坂口だった。
「UWFが帰ってきて、1年くらい一緒にやっていたけ
ど、旅館も別、移動も、控室も、もちろん別、会場で顔
を合わせるだけで試合もずっとギクシャクしていたんよ。
それで、お客がガァーッと増えれば、うちの選手も我慢
したと思うよ。
だけど、前田たちが帰ってきても観客は全然増えなかっ
たしね。
それで試合だけガチガチして、彼らは『俺たちはプロレ
スに対応しません』みたいな固い壁があって、自分たち
のカラーを守るためにそうやらないといけないのは分か
るんだけど、星野(勘太郎)さんなんか怒ってよ、オレ
も頭に来たこともあった。
そういう選手間のムードが険悪だったから、水俣でオレ
が『一回、みんなで酒でも飲んで飯を一緒に食って心開
こうや』って音頭を取ってね。
一席設けたんよ。
それが、あんなことになってよ」
坂口が苦笑いしながら振り返った親睦の飲み会は、「あ
んなこと」という大騒動となった。
酔っぱらった両団体の選手が殴り合いのケンカに発展。
さらに、旅館の壁、便所などを破壊したのだ。
このケンカに至った容体は選手によって違うので、選手
ごとに振り返ってみようと思う。
▽武藤敬司の場合
騒動の引き金を引いたのは、武藤だった。
「正確には酔っぱらって覚えてないんだけど、オレが前
田さんに『あんたらのプロレス面白くねぇんだよ』って
言って口火を切ったと思う。
そしたら、前田さんが『じゃんけんで勝ったほうが一発
殴ろう』って言ってきて、それに乗ったら、オレは全部
負けて殴られるわけ。
酔っぱらっていたから分からなかったんだけど、前田さ
んは、全部後出しして殴っていたらしいんだよ。
それを高田さんが見ていて、前田さんに『ズルい』って
なって、高田さんが前田さんを羽交い絞めにして『武
藤、殴り返せ』って言って、思い切り殴ったよ。
その後、どういうわけかオレと前田さんと高田さんが素
っ裸になって、高田さんと一升瓶抱えて、旅館の前の道
路にあぐらかいて語り合ってた印象はあるよ(笑)。
道路の真ん中だったけど、通った車がオレらの姿を見て
逆に逃げて行ったからね(笑)」
▽坂口征二の場合
坂口の証言は少し異なる。
「まず最初に武藤が食事の席に少し遅れてきたんよ。そ
したら前田が『後輩のクセに遅れてきて、何してるん
だ』とか言ったんよ。
オレは武藤の横に座ってたから『まぁ、座れよ。飲め
よ』って言って、酒が入ったら、今度は武藤が前田に
『UWFが来てもお客が入らないじゃないですか』って
言ったんよ。
みんな思っていて誰も言わなかったのを、武藤が酒の力
を借りて言ったんだよね。
そこから始まったんよ。
武藤の言葉に前田が『ナニこの野郎』ってなってね。
オレは『まぁまぁ、やめろやめろ』って止めたけど、構
わず二人はド突き合いしていた。
そしたら、他の選手も暴れてよ、後藤(達俊)なんか便
所のドアを蹴って壊したとか、日本刀持って『猪木は
どこだぁ』と探したりしてた。
便所でゲロが詰まって水が下に漏れたとかあった。
猪木さんは、そそくさといなくなったよ」
▽藤原喜明の場合
UWFにいた藤原の記憶は、また少し違う。
「あれはプロレスラーのコミュニケーションでケンカじ
ぁないんだよ。
まず、始めに前田が武藤に言ったんだよ。
『おいオレを殴ってみろ』って。
そしたら武藤が『先輩を殴れませんよ』って言いながら
後ろに下がってから走っていって、バカーンって殴った
んだよ。
そしたら、下にビール瓶だとか転がっているからステー
ンって前田がぶっ倒れて、むっくり起き上がって『へ
ッヘッヘ…やるじゃねぇか』って言ってパカーンって武
藤を殴り返したんだよ。
その後もお互いに何発か殴っていたよ」
▽船木誠勝の場合
当時、新日本の若手選手だった船木誠勝の証言も微妙に
違った。
「まず、武藤さんが『あんたらのやっているのは、プロ
レスじゃないんだよ』って言いました。
そしたら、前田さんが『お前、海外から帰ってきたから
って、いい気になるんじゃねえぞ』と怒って、ボコボコ
に殴った。
ボクはそれを見たから、誰かに止めてもらおうと思って
藤原さんを呼んだんです。
そしたら、藤原さんが『しょうがねぇな』って言って、
前田さんをボコボコに殴ったんです。
その時、高田さんが武藤さんを『こっちに来い』って言
って、前田さんから引き離すために裏に連れていった。
武藤さんがいなくなった後に坂口さんが怒って、寝ころ
がって『来い』って前田さんに言いました。
前田さんは、何もできずに上から坂口さんを見ているだ
けでしたね。
そのとき、猪木さんと藤波さんは別の部屋に移っていま
した。
最後に坂口さんが前田さんと武藤さんを呼んでお互いに
一発ずつ殴らせて和解したんです。
途中で前田さんは泣いていましたよ。
その後、前田さん、高田さん、武藤さんは外に出て話を
していましたけど、武藤さんとなぜか、ボクが坂口さん
に大浴場に連れていかれて、湯船に投げられました。
皆さんは酔っぱらっていたので、記憶が曖昧だと思いま
すけど、ボクは今でもハッキリと覚えています」
▽前田日明の場合
お互いの感情が爆発した旅館破壊事件も、前田は武藤の
記憶を全面否定した。
「自分がきっかけを作ったとか言ってるらしいが、そん
な力も発言力も新人の武藤には無い。
ホラもいい加減にしろといいたい。
あれは、山本小鉄さんが猪木さんに働きかけてやった宴
会で、武藤は関係ない。
それで、武藤が酔っぱらって絡んできたから、本当にチ
ヤホヤされて、特待生扱いだったから、何か遊んでやろ
ると思っただけですよ」
▽900万円の請求書
全員が泥酔していたため、証言に違いはあるが、前田と
武藤の殴り合いから大騒動に発展したことは共通してお
り、発端はやはり二人だったことは間違いないようだ。
確実に言えることは、プロレスラーが大暴れし、旅館の
いたる所が破壊されたことだった。
坂口は、翌朝出発したときの旅館の従業員の表情が、今
でも忘れられないという。
「オレたちが来たときは『いらっしゃませ、いらっし
ゃいませ』って旅館の人も歓待してくれたけど、明くる
日、バスで帰るときはみんな寂しそうに見送っていたよ。
支配人から抗議は来なかったけど、壊したところを修理
する請求書は会社に届いたよね」
武藤は請求書を坂口に見せられたという。
「確か、900万じゃなかったかなぁ。
巡業中のバスの中で坂口さんに請求書を見せられてね。
坂口さん、それを見て『思ったより安いな』って言って
たもんね(笑)」
今となっては笑い話でもあり伝説ともいえる「旅館破壊
事件」だが、当時、武藤が「UWF」にどれほど鬱積し
た思いを抱えていたかを象徴する出来事だったといえる。