夫が口をきいてくれなくなり

1ヶ月程たった頃。


家族で出かけた。

子ども達と以前より約束していた日だった。


夫は口をきいてくれなくなったあたりから結婚指輪を外していた。

息子と手を繋いでいる指輪の無い夫の手を

私は後ろから見ていた。


猛暑の中

血の気が引くような

現実離れしたような

激しい虚しさの中

私は変わらず指輪をはめた手で娘と手を繋いでいた。




子ども達に対しては

笑顔をむけているけれど

どこか寂しそうで元気が無く

でも父親として誠意を持って接していた。




一通り遊んだ後に

昼食を食べるためにお店に入った。




普段行かないようなおしゃれなお店。




スマホで写真を撮る夫。




その時

夫は

子ども達しか映らない方向からのみ写真を撮っていた。


妻である私が夫の写真に写っていない。


子どものすぐ隣にいるのに。


気にしないフリをしていたけれど

目眩がするような絶望感だった。




子ども達に向ける笑顔と同じ笑顔、

もしかしたらそれ以上の笑顔を向けてくれていた夫。



子どもが産まれてからも

変わらぬ優しさを向けてくれていた夫。



夫が撮影した今までの写真やビデオには私がたくさん写っていた。




そんな夫が

別人のような表情で

私をカメラ越しにさえ見たくなかったのであろうあの日。




今は

穏やかな時間を取り戻したけれど

あの日の絶望感を思い出すと苦しくなる。




人の気持ちは永遠では無いのだ。


優しさに感謝を忘れ不平不満だけ撒き散らしていては

相手の気持ちは離れていく。




自分で自分を良くする努力が必要。




日常に追われて疲れて大切な事が頭から無くなりそうな時は

あの日の絶望を思い出す。




私には必要な時間だったのだと。