乗車日:2019/11/08
乗車路線:近鉄南大阪・吉野線
乗車区間:大阪阿部野橋14:10発→吉野15:26着
乗車列車:青の交響曲
乗車車両:16200系SY01編成(1号車3番A席)
座席種別:デラックスシート
昨年(19年)の11月のことになりますが、近鉄の誇る観光特急「青の交響曲(シンフォニー)」号に乗車する機会がありました
この日は、ちょいとした用事があって、当時住んでいた大津市から和歌山市へ出かけていたのですが、予定よりも早く昼過ぎまでに用事を切り上げることができました
なので、せっかく和歌山市まで来たので、このまま素直に大津市まで帰るのはなんだかもったいないと思ったわけです
「青の交響曲」は、近鉄が吉野特急の活性化を狙って、16年9月に満を持して送り出した観光特急で、車両点検のために運休する水曜日(※)を除いて1日2往復が運行されています
この列車もずっと前から1度乗りたいと思っていたのですが、なにぶん吉野特急ということもあって、登場から3年以上が経っているいるにもかかわらず、これまで乗車する機会には恵まれませんでした
なにぶん天王寺(阿部野橋)については、帰省やUターンの際にいつも素通りするばかりで、ほとんど駅の外に出たことがありません
さらには大津市から吉野特急の始発駅である大阪阿部野橋駅があまりにも遠いことから、この日がまたとない好機なので吉野特急でプチ旅行を楽しむことにしました
なお、この「青の交響曲」という列車名ですが、正式名称は「青のシンフォニー」となっており、駅や車内の案内放送でも”こうきょうきょく”と発音されることはありません
ということで、この記事でも列車名は「青のシンフォニー」と表記することにします
和歌山駅からJRの「くろしお」に揺られ、お昼下がりの天王寺駅に到着しました
駅名こそ違えど、JR天王寺駅=近鉄阿部野橋駅というのは関西人なら暗黙の了解なので、特に乗り換えで迷うことはありません
「青のシンフォニー」の特急券は先ほどネット予約で購入済みですし、乗車券についてはICカードが使用できるので、券売機の前に並ぶ必要もなくスムースに駅構内へ向かいます
紙のきっぷを購入したり、改札機に入鋏したりするのに比べると、味気ないと言ってしまえばそれまでですが、これも時代の進歩なのかもしれません
同じく近鉄の上本町駅(地上ホーム)や南海難波駅、それに阪急梅田駅のように、この阿部野橋駅も頭端式のホームがずらりと並んでおり、始発駅らしい風格が感じられます
その中で、特急列車については一番南側にある6番のりばを使用しています
この年(19年)の9月には運行開始から3周年を迎えていますが、相変わらず乗車率は堅調に推移しているようで、復路(吉野→阿部野橋)については、「青のシンフォニー」の特急券が確保できませんでした
仕方ないので、帰りは「さくらライナー」のDXシートにしましたが、とりあえず往路分が確保できただけでも良しとしましょう
ホーム上で待つことしばし十数分…
「青のシンフォニー」が5・6番のりばに颯爽と入線してきました
14時10分の発車までしばらく時間があったので、エクステリアを観察していきます
どうしても、通勤電車(6200系)からの改造という出自の故、全体的に角ばったフォルムとなっており、残念ながら「しまかぜ」ほどのオーラは感じられません
それでも車体側面や先頭部分など随所に配置されたロゴが旅への期待を高めてくれます
ちなみに、この金色っぽく見えるロゴマークですが、かなり彩度はかなり控えめになっており、下品どころか上品に見えてしまうのが近鉄のデザインの妙といえます
それでは、車内清掃が終わったので、車内へと向かいます
この時は、吉野行きの列車で最後尾となる1号車の3番A席がアサインされました
さきほど、「しまかぜ」と比べると外装にはオーラがないと書きましたが、内装についてはおおよそ通勤電車からの改造であるとは思えないほど質感が高く、近鉄らしい気品溢れる落ち着きのある設えとなっています
ここに元々ロングシートが並んでいたことを想像することは難しいです
ちなみに、この「青のシンフォニー」はすべての座席が横3列配置のデラックスシート(以下、DXシート)となっており、JRに例えると全車グリーン車と同じ扱いになっています
そのため、この列車に乗車する場合は520円の特急料金に加えて、210円の特別車両料金が必要となりますが、グリーン料金と比較すると随分良心的な価格設定です
色々と紹介したい部分があるのですが、先に恒例の座席チェックを済ませておきましょう
「青のシンフォニー」はDXシートだけの設定で、「しまかぜ」のように個室が設置されているわけでありませんが、座席の配置はバラエティに富んでいます
通常の座席に加えて、ツイン席(2人用)とサロン席(3~4人用)と呼ばれるセミコンパートメントが設置されているので、順を追ってご紹介します
まずは通常のDXシートから見てみましょう
「青のシンフォニー」では、向かい合わせになったツイン席とサロン席が約半数を占めているため、このタイプの座席は1,3号車を合わせても30席しかありません
モスグリーンを基調にした重厚感に溢れる座席は、程よいクッション性でふんわりと体を包み込んでくれるかなり上質な出来栄えです
同じく近鉄の「アーバンライナー」や「さくらライナー」のDXシートは、1列ずつ完全に独立した構造になっていることから、座席のサイズは「青のシンフォニー」の方が明らかに恵まれています
写真を見てもらえば分かるように、座席のリクライニング角度が少々控えめになっていますが、乗車時間が短いことを考えると、特段の問題は感じられません
付帯設備として、インアームテーブルと背面テーブルは設置されていますが、残念ながらフットレストは設置されていません
同じく路線を走る「さくらライナー」であれば、普通席でも設置されているのですが、この列車の場合は座席配置が変則的なこともあって、そこまで手が回らなかったようですね
もちろん、シートカバーは専用品が用意されているほか、背面テーブルにも「青のシンフォニー」のロゴが入っている気合の入れようには驚かされます
ちなみに、この座席のテーブルやアームレストには鉄道車両では前例のない竹が用いられており、
こうした近鉄のチャレンジ精神は大いに称賛されるべきかと思われます
こちらは2人用のツイン席で、吉野行きの場合は進行方向左側になります
当たり前かもしれませんが、利用するにあたっては2名で予約することが条件となっており、お一人様での利用には対応していません
4人用のサロン席は、吉野行きの場合で進行方向右側に設置されており、こちらは3人でも追加料金不要で利用することができます
4人用ということもあって、かなり大型のテーブルが設置されているため、窓側の人は少々出入りに難儀しそうです
ちなみに、このツイン席とサロン席はリクライニング機構が省略されており、その代わりバックレストが少し倒れた状態で固定されています
また、大型テーブルが設置されていることから、アームレスト内のテーブルも省略されています
ところで、昨今のレストラン列車では、主にJR東日本を中心に2名以上の申し込みが必須となっている列車も少なくありません
そうしたなか、「青のシンフォニー」ではお一人様利用に対する需要に応えるべく、1,3号車の運転席に面した部分に”ぼっち席”が設置されています
車端部にポツンと設置されているとはいえ、この”ぼっち席”にもきちんとしたテーブルと瀟洒な卓上照明が設けられており、雰囲気は悪くはありません
そして、座席を斜めに配置することによって、車窓にも配慮されており、近鉄の”優しさ”がひしひしと伝わってきます
ただこの車両はさくらライナーの違って前面展望は一切不可能な構造なので、この席に座るとおのずと目の前は壁になります
これを「落ち着いている」と捉えるか、それとも「圧迫感がある」と捉えるかは利用客にとって意見が分かれそうです
この他にも、前後にパーテーションが設置された車イス対応区画が1号車にあったのですが、写真を撮り忘れてしまいました
こうして車内を観察していると、通勤電車からの改造ながら、眺望性に難のある座席は存在せず、車窓もサービスの1つとして捉える近鉄のこだわりが垣間見えます
車体の構造上、どうしても無理なところは、ツイン席やサロン席といったセミコンパートメントにして乗り越えるアイデアには感服させられます
改造車でありながら客席からの眺望性をきちんと満たしつつ、グループ客にも配慮する一石二鳥の座席配置が、この列車最大の特徴といえます
なお、改造車という出自故に、この列車には喫煙ルームが設置されておらず、近鉄特急で初めて車内が全面的に禁煙となりました
ちなみに、ツイン席とサロン席はネット予約不可のため、近鉄のWebサイトから予約できる座席は1,3号車を合わせてもわずかに32席しかありません
そもそも編成定員が65人と少ない上に、ツアーなどで団体利用が入ると3号車が貸切となるため、これが「青のシンフォニー」のチケット入手難に拍車をかけていることは間違いなさそうです
そうなると、ネット予約できるのは1号車のわずかに13席のみとなるため、自ずとこの列車のチケットは争奪戦の様相を呈することになります
逆に、いま乗っている便がそうであるように、団体客の利用さえなければ、割と容易に座席は確保できるようです
ちなみに、復路も「青のシンフォニー」に乗ろうと思ったのですが、案の定行楽帰りのツアー客に3号車が占拠されており、座席を確保することはできませんでした
ずっと自席で寛いでいたいところですが、お腹も空いてきたことですし、2号車にあるカフェカーで昼食にしたいと思います
ということで、2号車にあるカフェカーへとやって来ました
編成定員が65人であるのに対して、カフェカーの座席は18人分用意されているので、時間帯にもよると思いますが、「しまかぜ」ほどは混雑していませんでした
注文した料理が運ばれてくるまでの間、ぼんやりと車窓を眺めていて思ったのですが、この車両の側窓は上下方向がかなり小さくなっています
最初は、改造車なので車体の構造上致し方なく側窓を小さくしているのかと思ったのですが、落ち着いて飲食が楽しめるように、わざとこのサイズ高さ(約40cm)にしているそうです
設計を担当した全日本コンサルタントの技術者によると、座席に座っている時だけ車窓が眺められるようにしたかったとのことです
ただ、この列車の性格を考えると、眺望性を考えて側窓はもう少し大きくした方がよかったように思えてなりません
程なくして、注文しておいた大和肉鶏カレーが自席に届きました
「青のシンフォニー」では乗車時間が短いことから、カフェカーで提供されるのはスイーツやアルコール類がメインで、「しまかぜ」にあるような軽食メニューはこれまで用意されていませんでした
それが、運行開始3周年を機に、この大和肉鶏カレーが新たにメニューへ加わりました
1100円なので普通のお店で食べるよりもずいぶん値段の張る印象を受けますが、お腹も空いてることですしせっかく乗車したので注文してみました
残念ながら食レポは得意ではないのですが、専門店と比べても何ら遜色ない味わいで、流れゆく車窓と共に暖かい食事が頂けると考えれば、値段も気になりません
しかし、「しまかぜ」で提供されている松阪牛カレーと比べてしまうとこちらは鶏なので、どうしてもお肉のコクや旨みは劣ります
これにあと300円を払えば、「しまかぜ」の松阪牛カレーが食べることができると考えると、ちょっぴり複雑な気分になりますが、味が悪いわけではないので、細かいことはさほど気になりません
それよりも、私が気になったのはカレーの盛り付けられた容器です
上質な大人旅をコンセプトにしている観光列車でありながら、容器がまるでホカ弁屋のようなプラスチックのもので、これには思わず興ざめしてしまいました
これは他の観光列車やレストラン列車にも言えることですが、非日常感の演出が肝となるこうした列車で使い捨ての容器を使っているようでは失格だと思うわけです
私が乗車した日は、なにやら近鉄のお偉いさんが乗り込んで、現場のアテンダントさんに指導していたようですが、根本的な部分で改善すべきことがあるのではないでしょうか
おしぼりやコースターまで専用品を使い、料理がきちんとした食器で提供されている「しまかぜ」と比べると、もう少し頑張って欲しいところです
ところで、カレーにはミネラルウォーターのペットボトルが1本付いてくるのですが、「しまかぜ」が市販品だったのに対して、こちらはラベルに青の協奏曲のイラストが印刷されたオリジナル品で、いい乗車記念になります
それにしても、ごろごろ水というネーミングは、飲んだらお腹の調子が悪くなりそうです
洞窟の奥から小石がごろごろと転がるような音をたてながら水が湧出していたことからこの名前が付けられたそうです
なお、カレーを注文しなくても1本250円で購入できるので、乗車記念にはもってこいですね
食欲も満たされたことで、自席でデザートの吉野梨ジェラートをまったり食べながら残りの時間を楽しむことにします
ほんのりお酒が効いたジェラートの中には、吉野特産の梨の果肉がたっぷり入っていて、かなり食べ応えがありました
「青のシンフォニー」では、各座席に車内販売メニューが設置されています
乗車時間が短いこともあって、「しまかぜ」と比べると軽食メニューはそれほど充実していませんが、その代わりにアルコール類やおつまみはかなり充実しています
「上質な大人旅」をテーマに掲げている列車なだけあって、ファミリー層よりも中高年層に訴求する商品構成となっています
終点の吉野が近付くにつれてトンネルが増えるのですが、そうなるとこの車両の凝ったライティングが本領を発揮します
周囲が暗くなると、天井のスポットライトと窓際の間接照明が織り成す洒落た感じがぐっと増してくるので、照明(空間配色)の完成度だけを見れば、純然たる新車である「しまかぜ」にも負けてはいません
このアングルから車内を撮影すると、ボックス席が多いことと、それに照明の配置も相まって食堂車のようにも見えますね
「しまかぜ」が明るい雰囲気のリゾート特急なのに対して、こちらは上品な大人の観光特急といった感じで、これが通勤電車からの改造車だというのですから、改めて近鉄の技術力には感服させられます
洗面所やトイレは種車には設置されていなかったことから、今回の改造に際して1号車に新設されました
大多数の利用客には関係のないことですが、洗面所の照明はLEDに代わって光源に有機ELが採用されています
これまでの写真で、近鉄の「青のシンフォニー」に対する熱意は十分に伝わったと思いますが、この列車はトイレに対するこだわりも尋常ではありません
ご覧のように、トイレの壁面はまるで壁画のようで、古代遺跡を彷彿とさせるかのような美しい群青色を纏っています
列車名を考えて、この色が選ばれたことは想像に難くありませんが、ドアを開けた瞬間に感動するトイレはなかなかありませんよ
ウォシュレットを始めとして、おむつ交換台やベビーチェア、それにフィッティングボードまで抜かりなくきちんと設置されている点には感心させられます
ラウンジカーの車端部にはライブラリーコーナーが設けられており、奈良・吉野エリアに関連した書籍を利用客が自由に閲覧できるようになっています
向かい側にはきちんとベンチも置かれていますが、揺れの大きな車端部での読書は目が疲れそうですね
デッキの照明は吉野駅の照明をモチーフにしているみたいですが、実はこの時は知らなかったので、せっかく吉野駅に降りたのに写真を撮り損ねてしまいました
大阪阿部野橋から1時間16分の乗車を終えて、終点の吉野に到着しました
終点まで乗車しても物足なりないので、できれば帰りも乗りたかったのですが、きっぷが確保できなかったので、こればかりは仕方ありません
もしかしたら、居心地が良すぎて時間が短く感じてしまうのが、この列車の一番の欠点ではないでしょうか?
運賃とは別に必要な追加料金はわずかに730円であり、お値段以上の満足感が得られるあたり近鉄は本当に商売が上手いです
なにかにつけて合理化が叫ばれる昨今にあって、定員わずか65名の座席車2両にカフェカー1両という編成は、かなり贅沢に感じられます
裏を返せば、「青のシンフォニー」が空間を贅沢に使っている証左に他ならず、騒々しい団体客さえいなければ、日常の喧騒を離れ静寂に包まれた車内でスイーツ片手に旅を楽しむことができます
なお、「しまかぜ」とは異なり一般特急車のスジを置き換えているので、よそ行きの行楽客以外にも意外と一般客の利用も多いです
平日昼間だと1時間に1本しかない吉野特急のスジに入っているので、往路に乗車した時は橿原神宮前での降車を中心に短距離利用が多数見受けられました
ただでさえ少ない一般席の混雑に拍車をかけているようなので、行楽客とバッティングする利用客をどのように捌くのかが今後の課題になりそうです
以上、「青のシンフォニー」に乗車した時の感想を長々と書いてしまいましたが、一言で言うと「しまかぜ」のように積極的に何度もリピートしたい気分になる素敵な車両でした
帰りに乗車する「さくらライナー」の発車まで時間があったので、駅の外へ出てみました
一般的な観光客の場合、こうして駅の外へ出るのが定石といえますが、鉄ちゃんの場合はお目当ての列車に乗るだけ乗って、何もせずに引き返すということが往々にしてあります
せっかく吉野まで来たので、金峯山寺くらいは行きたかったのですが、さすがに日没が迫っている時間帯だったので断念しました
次回、「さくらライナー」デラックスシート乗車記につづく…
※桜シーズンなど繁忙期は例外があります