日本時間の昨日夕方、国際司法裁判所が日本の実施している南氷洋での調査捕鯨について、国際捕鯨取締条約に違反しているとの判決を下し、国内の捕鯨関係者に波紋が広がっています
ツイッター上でも、様々な意見が飛び交っていますが、ここで多くの方が疑問に感じているであろう点を整理してみたいと思います

まずは、なぜ日本が商業捕鯨ではなく調査捕鯨を実施しているのかという疑問点
これには、商業捕鯨モラトリアムが大きく関係しています
IWCでなされたこの取り決めは、1985/86年シーズンから母船式捕鯨を、86年から沿岸捕鯨を一時中止(モラトリアム)というものです

当然、日本は異議を申し立てたのですが、後に撤回して受け入れることになります
この商業捕鯨モラトリアムを受け入れる段階で、アメリカ沿岸域における遠洋漁業との関連性が論じられることがありますが、真意の程が定かではないので、本稿では取り上げません

日本がこの商業捕鯨モラトリアムを受け入れたことで、IWCが管轄している鯨類については、商業捕鯨という形で捕獲することはできなくなります
そこで、1988/89年シーズンから調査捕鯨という形で、南氷洋における捕鯨を継続することになります

しかし、沿岸小型捕鯨が捕獲対象としているツチ鯨やゴンドウ鯨はIWCの管轄対象外であるため、地方自治体の規制の下、いま現在にいたるまで商業的な捕鯨として~が継続されています
これは、追い込み漁や突きん棒漁で捕獲される小型鯨類についても、同様の枠組みで行われています

この辺がものすごくややこしいのですが、沿岸小型捕鯨船が捕獲しているツチ鯨やゴンドウ鯨はIWCの規制対象外なので商業的に捕獲されています
これに対して、同じく沿岸小型捕鯨船が捕獲していても、鮎川と網走で毎年60頭ずつ捕獲されているミンク鯨はIWCの規制対象なので、調査捕鯨という形で捕獲されています

今回の判決で、違法との判断が下ったのは、南氷洋における調査捕鯨だけですので、北西太平洋と日本沿岸での調査捕鯨はこれまで通り継続することができますし、鯨を食べるという行為が司法の場で否定されたということではないと考えられます

続いては、マスコミの報道に対する疑問
ツイッター上でも、疑問を呈する声が挙がっていますが、どうもマスコミの報道には私も違和感を覚えてしまいます

今回の判決を受けて、食文化が絶たれるとの報道姿勢をとっているマスコミが目立ちますが、「文化を守るための調査なの」という疑問は当然のように湧いてきます

そもそも、昭和以降に始まった南氷洋の捕鯨を守ることが食文化を守ることにつながるとは思えません
欧米の捕鯨を専ら鯨油目的であったと非難する人が少なからずいますが、戦前に日本が行っていた南氷洋捕鯨も外貨の獲得を目的とし、鯨油の生産に邁進していたことを忘れてはなりません

鯨が全国的に食べられるようになったのだって、戦後の食糧難の時期からで、冷蔵・冷凍技術が未熟であったことも相まって、それまでは限られた地方の食べ物に過ぎませんでした
だからこそ、自称愛国者のような方は、声高に叫ばれる「捕鯨は日本の伝統文化」という常套文句を素直に受け入れるのではなく、一度大いに疑ってみて下さい

ところで、文化人類学者のキージングは、伝統には2つの種類があると主張しています

1つは、「伝統」と呼ばれるもので、国民国家が形成されていく段階で、ナショナリズムの高揚と共に生み出されるものです
もう1つは、地域社会における生きた慣習としての、カッコの付かない伝統です

私は、南氷洋の捕鯨が前者に、沿岸小型捕鯨や追い込み漁が後者にカテゴライズされると考えています
つまり、南氷洋の捕鯨を守ることと、太地や和田浦といった伝統的捕鯨地での鯨食文化を守ることは、まったく次元の異なることだといえます

南氷洋から撤退するのと引き換えに、商業捕鯨モラトリアムに異議を申し立て、EEZ内でミンク鯨を対象とした商業捕鯨を再開するのがベストな方策ではないでしょうか
ノルウェーは、ほぼ同様の手順に則って、商業捕鯨の再開にこぎつけています