あるアパートに絵描きが住んでいました。その絵描きは絵描きになりたい絵描きだったので生活のために毎日仕事に行き、その合間に絵描きになるための絵をなんとか1枚完成させたいと思っていました。

 朝起きてシャワーを浴び、朝ごはんにパンを1枚食べて仕事場へ向かいます。全然好きではない仕事を終えて家に帰ってくる頃にはぐったりと疲れ切り、何をする気も起きません。絵描きのキャンバスはいつまで経っても真っ白なままでした。なんだかその真っ白なキャンバスが日に日に存在感を増していて絵描きはどんどん追い詰められるような感覚に陥りました。溜まったホコリのせいかもしれません。

 精神的にも追い詰められてきた絵描きは思い切って仕事を休みました。時間さえあればきっと描けると思ったからです。しかし、陽が傾き、夜になっても絵描きはとうとう筆を持つことさえ出来ませんでした。

 絵描きは今日も描けなかったというフラストレーションと明日の仕事への憂鬱を抱えたまま眠りました。

 そして翌朝、目が覚めても絵描きは全く嬉しくありませんでした。新しい朝を歓迎できるだけの気力も希望も絵描きにはありませんでした。

 

その週も、次の週も、何ヶ月か経ってもこんな毎日が続いたので絵描きはとうとうキャンバスを見ることもやめてしまいました。

 絵描きの心の奥に確かに残るほんのわずかな描きたいという願望も他の重苦しいものに押しつぶされて消えてしまいそうでした。その重たいものは絵描きが思う以上に深く、絵描きの心も身体も蝕んでいきました。

 絵を完成させたいという絵描きのたった一つの夢さえも今は重たいものとなって絵描きを苦しめ始めていたのです。

   

                                つづく