厳冬の寒さ厳しき折、賢明なる読者諸氏におかれては如何お過ごしの事で御座いましょうや。


新年明けの元日夕刻、能登半島一帯に不意を衝くように強襲した巨大地震。

更に翌日には、羽田空港内にて航空機同士の衝突炎上事故が発生した。


本来ならば元日より賢明なる読者諸氏に新年の御挨拶をと思っていた刹那、相次いでもたらされた悲報に、新年を祝う挨拶の言葉を失ってしまった。


その後も、幾度となく今回の天災について何か書こうと胸中で意を決するのだが、悲痛な出来事を前に筆が進まず、この度は一ヶ月の遅延と相成ってしまった事を読者諸氏には心から御詫び申し上げたい。



さて、本題に入る前にまず、この場を借りて今回の能登半島大震災により被災された被災者各位に心よりのお見舞いを申し上げたい。


更に、不幸にも未曾有の震災ならびに航空機事故の犠牲となられた御霊に対し、深い哀悼の誠を捧げると共に、御霊諸柱の御冥福と慰霊を心から御祈りしたく思う。



今回の大震災は、元日の夕刻という象徴的な日に発生した。


「元日」とは、古来より日本においては大変重要な節目の日とされてきた。


それは単に元日が一年の始まりの日であるというだけの理由ではない。


年始めを恙無く迎える事で昨年までの古い魂とは一度訣別をし、また新たに穢れなき魂となって再出発を遂げる。


その様な仏教における輪廻転生の概念に近い感覚を古くから日本人は精神性の面で持っていたからだろう。


初詣参拝の伝統慣習も、初詣によって古き魂の御祓を行う事で、俗世の穢れを祓い落とした真更な魂で今後一年間を健やかに過ごすとの意味が有るのではないかと小生は考えている。


さて、今回の震災はその様な我々にとっても特別な日に突如として発生した。


その大地を激しく突き揺らす天災の威力の凄まじさ、揺れが鎮まった後に人々の眼前に広がる無惨なまでに破壊された街の風景、その何もかもが、想像を絶する筆舌に尽くしがたいものである。


ここまでの破壊と犠牲を北陸の風光明媚な地にもたらした運命の不条理には、遣り場のない義憤さえ覚える。


小生が大変に懸念しているのは、被災地で生まれた幼い子供達が地元に対する愛郷心を失ってしまうのではないかとの強い危機感である。


今回被災した幼い子供達にとって、自身が被災した町や地区は間違いなく彼らの生まれ故郷である。


しかし、物心が就き、愛する故郷の土地で色々な経験や思い出作りが出来ない内に他郷の地へと転居する事態となってしまえば、その子供達は地元の愛郷心を育まれる事なく、転居した他郷の地で思い出を重ねて育つ事になる。


小学生、中学生と歳を重ねて行く過程で愛郷心の思いは他郷の地へと根付く事になる。


すると、彼らの本来の故郷は、既に彼らの中では愛しの故郷ではなくなり、単なる本籍上の出生地という淡い感覚しか持てなくなるはずである。


その段階にまでなってしまうと、いざ故郷の復興が完了したから帰還すると親や親族が提案をしたからと言っても、恐らく彼らにとってはそれは故郷への帰郷ではなくて、馴染みの薄い土地へ転居するのだという感覚となり、中には帰還を頑なに拒む子も出始める可能性がある。


それは親達からすれば単なる復興までの間の仮住まいの地も、そこで様々な体験や思い出を重ねた子供には、そこが自分にとって愛する故郷になってしまっている可能性もあるだろう。


そうなれば、親達の中には帰還を諦め新天地での生活を続ける決断を下す家庭も出てくる事は想像に難くない。


結果として帰還世帯の減少は更なる過疎化の原因となり、人口減少だけではなく元々居た若者の離郷を増加させる要因ともなる。


その様な最悪のシナリオを未然に阻止する為にも一日でも早い復興と町の中心核となる商業地区の優先復興や地場産業の再建が急務となる。


商業も産業も無い町に、つまり仕事も雇用も商業需要も失われた町に戻ろうという住民はかなり稀な事例であり、一人でも多く地域住民を引き留めて故郷へ帰還したいとの思いを消失させない為にも、まずは何よりも優先すべきは雇用の復活と教育機関の再開である。


特に幼少期を迎えた子供達に愛郷心を根付かせてやる為にも、避難離郷が何年にも渡り長期化する事態だけは、何とかして避けなければならない。


子供達こそ故郷を次世代へと受け継いでくれる大切な存在であるからして、彼らの愛郷心を失わせる事態だけは回避しなくてはなるまい。


単に町を元に戻すだけでは、本当の意味においての復興完了とは言えないのではなかろうか。


次の時代を担うはずの子供達が、いつか大人になった時に、懐かしい思い出が一杯詰まったこの故郷が自分は大好きだ。だから故郷でいつまでも生き続いて行きたい。と、心からそう思ってくれる場所を彼らから奪わない為にも、一日も早い復興と帰還が上手く行く事を切に願うばかりである。