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最終話「仮定→真実」

「ちょ、どうしたんだよ、泣くなよ」

ふっと彼は孝史を覗き、捨て犬のような目で、震えた声で、問う。

「・・・さっきの『淳』って誰だか知りたいですか」

お、おぅ。と少し自信なさげに、孝史が首を縦に振る。

その後、少しの間、部屋に静かな空間が流れた。

その中で裕史は口を開いた。

「俺とあなたの、お兄さんだそうです。」

事実のみを淡々と。しかし複雑な表情は隠しきれず。感情的になることは必至のようだ。

孝史はその事実をしばらく脳内で処理できず、間抜な面をしていた。

彼の脳内で、疑念が驚愕に変わったとき、何となくと思っていた仮定も真実に変わる。

(だから、初めて見たとき「似てる」って思ったのか・・・・)

そんなこと納得してる場合じゃないのに。

「浅野淳。浅野孝史。浅野裕史。俺達、3人兄弟だったんですって。

それで、年の離れた長男・淳は、両親が死ぬときにはもう上京してたらしい。

両親が死んだのは俺達が4、5歳の頃。・・・無差別殺人事件に巻き込まれたって」

「じゃあ、俺達今まで・・・・」

「何だか・・・・幸福なのか不幸なのか分からないですね・・・。」

ハハ、と笑いながら、裕史が下を向いて言った。彼の膝には、数滴の涙と思われる水玉ができていた。

「ごめんなさい・・・・お兄さん」

「・・・お兄さんなんて、呼ぶなよ・・・。」

「だって」

「やめろ!!

孝史の怒鳴り声に、ビクッと肩が上がる。

「たとえ本当の兄弟でも俺がお前を離さないからなっ・・・!(あっちの意味で)」

恥ずかしい。超恥ずかしい。直ぐに自分の顔が火照り始めるのが分かった。

熱くなりながらも、照れ隠しに、ぼふっと裕史の胴に突っ込んでみる。

「なっ、た、孝史さん!?」

裕史の顔も徐々に赤くなっているようだった。

「ずっと俺を傍に置いてくれよ、裕史・・・・。」

「も、もちろんです・・・!」

その後、2人は例的に同棲することとなった。

3人の過去に何があったのか・・・それはまた、別の物語である。

                               <終>

第4話「至近距離」

この整頓された部屋のどこからこんな悪趣味な物が出てきたかが分からない。しかしまぁ、こんな格好じゃあ、逃げようにも逃げられない。

「くそっ・・・・」

とりあえずカーペットの敷かれた床をごろごろ転げまわってはみたものの、何の解決策も見出せないまま、孝史の身体から変な体力だけが奪われていった。

 インターホンの正体は、封筒を1通持った郵便局のお兄さんだった。

「浅野淳様からです。サインをお願いします。」

伝票に、裕史の字で『浅野』のサイン。

(淳・・・・。)

「ありがとうございました。失礼します。」

バタン。そっけなく閉まるドアの前に立ち尽くす、一人の少年。

「淳・・・・会いたいよぉぉ・・・」

彼の心の中の本音が、いとも簡単に吐き出た。

 一方、何も出来ずもがいている孝史。

すると、1階からバタンとドアの閉まる音が聞こえてきた。

(やべぇ、裕史が来るっ)

そう思って、床に耳をあててみる。

『淳・・・・会いたいよぉぉ・・・』

裕史のそんな声が聞こえた。

誰だ、淳って・・・?あいつ家族いないんじゃ・・・・・?

こんな惨めな状態にされてからも、何故か孝史の中には変な嫉妬心が芽生え始めていた。

でも、裕史の手で施されたこの束縛があるうちは、何となくその心も抑えられる気がする。

肉に食い込むほどきついこの束縛も、そう考えると気持ちよくさえ感じる。

「・・・裕史。」

どことなく心細くなり、目を瞑ってそう呟くと。

「何ですか?孝史さん」

さっきまで1階で知らない他人の名を呼んでいたあの裕史が、今は俺の目の前に立っている。

何かの緊張から開放された気分だ。

「寂しくなっちゃいました?」

「そっ、そんなんじゃ・・・」

なんだか変な気分だ。ほっとする。心の緊縛がぱぁっと融けていくような。

「・・・ごめんなさい。その束縛、今解きますね。あの時の俺、正気じゃなかったみたいで」

「嫌だ」

「へ・・・・・?」

どこかを向いて、きっぱり否定した孝史を、裕史はさぞびっくりした顔で見つめた。

そりゃびっくりするよな。

「お願いだ、この束縛を解かないで・・・」

これを言うのは、顔から火が出るほど恥ずかしかった。しかし、そうでもして請わないと、さっき手を離したように簡単に離してしまいそうだから。

あぁ・・・・もう何を言っても俺は受け側になってしまうんだろうな・・・。

「わかりました、解きませんよ」

そう言うと、裕史が寝た状態の孝史のそばに胡坐をかく。

せめてあなたの眼を見せてください、と目隠しは解かれたが、

その言葉を聴いて、その態度を見て、相当ほっとした。

しかし一回気がそうなると、自分の暴走が止められなくなってしまう。

俺の悪いクセである。

「なぁ、」

ほら、もう俺の嫉妬心の暴走は止められない。

「さっき言ってた、淳って誰?」

裕史は少し動揺した。まさか独り言を聞かれていたとは思わなかったのだ。

彼は何も喋ることなく、孝史の両肩をがっしり掴んだ。

かと思うと、孝史に「何すんだよ」と言う時間も与えないまま、孝史の口を自らの唇によって制す。

「・・・んっ!?」

自分が何をされているのか気付いた頃には、時すでに遅し。

いつのまにか、寝た体勢の孝史の上に裕史が乗っていた。

裕史のその行動には、どう反応したらいいのか分からない。

唇を伝い、裕史の熱が感じられる。彼の鼓動、匂い、肌の触れた音。その全てが孝史の脳内に流し込まれる。欲情を抑えきれなくなるほどの至近距離。この幸せすぎる時が永遠に続けばいいのに。

「んん・・・」

欲の昂揚を止められず、それが声となって外に吐き出る。しかし孝史の欲望はどこからか止め処無く溢れてくる。・・・もしかしたら、裕史もそんなことを想っているのだろうか?

ふと、目の前の裕史の顔を見てみる。

火照った頬、色っぽい眼、それ以上は見えない。

もうどうにでもなってしまって構わない。

心から、そう思った。

「・・・っはぁ・・・」

頭がクラクラしてきたとき、上に乗っていた裕史の顔が上がった。

「あ、もぉ、孝史さ、・・・孝史、さん・・・・もう、俺・・・・・・」

コマ切れで裕史の言葉が伝わってくる。

彼は、泣いていた。

第3話「ホモってお前じゃねぇか」

「あなたが・・・・好きです。」

・・・・・・・。

・・・・・・・・・・え?

「・・・いつも図書館で机に突っ伏す孝史さんが、無防備で素敵ですごく可愛くて・・・。

 それで、いつも放課後に図書館行って眺めていたんですけど、何かもう、我慢できなくて。」

正座の状態の裕史が顔を赤く染めて言う。目線はどこなのか分からない。

だが、とりあえず嬉しい。

好きと言われて嬉しく思わない奴は恐らく居ないだろう。

でも。しかし。

なんだぁ、ホモってお前じゃねぇかーとか、あはは~ありがとよぉ☆とか、

俺は、どう返すべきなんだ・・・・?

「・・・っと、あの・・・・・」

言葉に躓き、目線をそらす。すると、

「可愛いなぁ・・・。あぁ、これでお前は・・・・」

突然裕史がくく、と笑い始めた。

「 俺のもの。 」

声を荒げてそう言う裕史。

孝史はそれに圧倒され、固まってしまった。同時に、どう対応したらいいのかという自己流のマニュアルが頭からすっぽり抜けた。

「ひ、裕史?」

俺の声が震えているというのが確実に分かった。

だが、直せない。

逃げようにも、裕史が入口側にいて、孝史は壁側に追い込まれているので出られない。

裕史は口だけ笑ったまま、目は本気で、ゆっくりと孝史を壁に追い込んでいく。

「はわわわわわ・・・・」

孝史はもう完全なパニック状態だった。「一生のお願い」がもし本当に叶うなら、使い時は今だろう。誰でもいいからこの状況を助けてくれる人はいないだろうか?いや、助けて下さい。

もうこの際仏教だけといわずキリスト教とかでも・・・・・・

そのとき。

「ピンポーン」

運命は、神様は、俺を味方したようだ。

「ちっ・・・」

孝史がそっと胸を撫で下ろしたのも束の間、裕史は孝史の両腕を掴んだ。するとどこから出してきたのか、重量感のある本物臭い手錠が掛けられた。もちろん後ろで、だ。

終わったかと思うと次は足。足首を太い縄できつく縛られる。

ペット用と思われる赤く細い首輪は、さすがに少し緩く締めてくれた。

となると、次は・・・

そう、目隠しだ。黒い帯状の何かで俺の視界をゆっくりさらっていく。

「本当は猿轡も付けたいところですが、それじゃあ貴方のその声が聞けなくなってしまいますから。」

あっさりそんな事を言ってみせる。

「じっとしていてくださいね」

そう俺の耳元で囁くと、さっさと部屋から出て行ってしまった。

第2話「ホモじゃねぇ」

彼の力は強く、きつく握られた右手をぶんぶん振り回してもびくともしない。

2人は、夕日で染まった歩道をすたすたと軽快(?)に歩いていた。

「ちょ・・・お前後輩のクセに・・・・っ!先輩を敬うような扱いはできねーのかぁぁ!!」

いくら文句を叫ぼうと、裕史はその手を緩めなかった。

なんかもう血管が詰まりそうだ・・・・。

「もう、今は先輩とか関係ないですから。黙ってください」

えぇぇぇぇ・・・・・・。

関係ないってことはないだろうよ・・・・。

 学校から飛び出して早20分。どれだけの距離を歩いたのだろう。

じわじわと汗ばんでくる右手と、それをぎりぎりと握る裕史の右手。何故か悪い気はしなかった。

そりゃ、男同士で手を握りながら歩くなんて相当恥ずかしい行為だが、次第に手を離したいという気持ちが薄れていった。

――このまま裕史と手を繋いでいたい。

  こいつの温もりを感じていたい・・・。

思考回路がそんな答えばかりを求めてくる。ついに俺は馬鹿になったらしい。

「着きました」

それを合図に裕史の手は離され、あっさりと俺の手が宙に浮いた。

そしてゆっくり俺の元へ帰ってくる。

何故だろう、そんな当たり前の事実が辛く感じてしまうのは。

「どうしたんですか、そんなに眉間にしわを寄せて・・・。」

漆黒の眼が俺の眉間あたりを見つめる。

そんなに酷い顔をしていたのか、俺。

「何でもねぇよ。で?初対面のお前の家で何をするんだ?やらしいことじゃねぇだろーなぁ?」

「・・・え、えぇ・・・?」

しまった。何言っちゃってるんだ俺・・・。

いや、そんな気は更々なかったのだが・・・。

「孝史さんってホモなんですか!?」

くすりと笑われた。紳士的な笑顔は、年下には見えない。

「ちっ・・・・違ぇよッ!!だってホラ、俺ら思春期じゃん?」

苦しい言い訳。多分今の俺の顔はますます大変なことになっていると思う。

「さぁ入りましょう。大丈夫です、親はいませんから・・・・」

いない・・・?まさか、

「ふふ、俺が赤ん坊の頃に銀行強盗に殺されたらしいんです。あはは、2人共ね・・・

馬鹿ですよね、銀行に親2人でなんて行かないでしょう。嘘の下手な人は苦手です」

まさかとは思ったが、どうやら違ったらしい。

「らしい」としか言えないのが、何か矛盾しているような気がして、嫌だ。

 俺は裕史の家に堂々と上がり、2階の裕史の部屋(と思われる所)へ入った。

中はきちんと整理整頓されており、TV、ベッド、机の他に、俺も持ってるコミックスやJ-POP系のCDが陳列されている。壁に貼ってあるグラビアアイドルのポスターは、今流行りの「ほしかわつらら」や「紺野ゆう」のものだ。意外にも参考書などは皆無で、いかにも学生という感じだった。

とりあえず座ってください、と促されるまま、俺はテーブルを挟んで裕史の対側に座った。

「で、あなたをここに呼んだ訳は・・・」

ワクワクというのか、ドキドキというのか、心臓が歓んでいる。

第1話「俺に似てる奴」

放課後の図書館。


本を片手に机に突っ伏す孝史(たかし)の前で、誰かが立ち止まった。

もちろん孝史は突っ伏しているのでその人間の姿は見えない。

が、何だろう、懐かしい雰囲気が漂っている気がした。

「・・・・すみません」

「・・・んん?」

孝史が目を机からその人間に移すと、同い年くらいの男子が立っていた。

黒く長めの髪、漆黒の瞳、長身で若干垂れ目だ。半袖のYシャツの上から黒いベストを着ている。

・・・・・なんか、俺に似てねぇ・・・?

「あの、孝史さん・・・・ですか?」

男は俺の名前を知っていた。

「あぁ、そうだけど・・・」

「俺、孝史さんの1年年下の裕史って言います」

「?・・・あぁ、そう。」

何が楽しくて俺は後輩の話し相手になっているんだ。

そう思った。でもそれより頭を過ぎっているのは、こいつが俺の容姿に若干似ているということ。

・・・・何だこいつ?

 孝史には親というものが存在しない。

自分が1歳のときに両親共々階段から転落死したらしい。と、育ての親である叔母に聞いた。

全く信用していない話だが、なにしろそれ以外の噂や証拠が一切無いものだから、どうもできないで今日に至るのだ。

 『孝史!お願い、この子を助けてあげて!!』

『お前しか居ないんだ!後は全て頼んだぞ!』

『『ごめんなさい・・・・・ッ』』

たまにこんな夢を見る。

映像はいつもぼやけていて誰が言っているのかは分からない。

自分は何を助けるべきなのか?

自分は何を任されたのか?

・・・・さっぱり、分からない。

「孝史さん・・・・ちょっと俺の家まで来てくれませんか?」

「・・・・はぁ?」

急展開。