入院33日目
昨晩は22時に寝て、今朝は4時半に起きた。
隣の男性がまた歌ってうるさかったので、やめろと叫んで止めた。
さて、これで長いようで短い入院生活ともおさらば。
さすが精神科と言うか、変な人ばかりだった。
死にたいと毎日叫ぶじいさん、ぼけたばあさん、恋狂いの青年等、挙げたらキリがないくらいだ。
そんな中でも私が部屋にいたら心配したり声をかけてくれる人が何人もいた。
小説「ドグラ・マグラ」では、人類は全員キチガイだと書かれている。
精神科には俗世と比べて確かにやばい人間が多かったけれど、「ドグラ・マグラ」の主張は間違っていないように思う。
例えば私は泣き虫で落ち込みやすすぎるから入院。外の世界にだって涙もろい人はいるはず。
「ドグラ・マグラ」の地球丸ごと精神科病棟と言う言い分にもうなずける。
私もこれから外の世界へ行って……でも治療はまだこれからなのだ。
日光を浴びたり、運動したり、食事を摂ったりと、すべて面倒だが、常にそれらの行為は治療だったのだ。
それに留まらず、友人と会ったりゲームをしたり、買い物をしたりと、ある意味ではすべてが治療となる。
だから、入院は今日で終わりだけれど、生きるために何とか治療を続けたい所存である。
先ほども述べた「ドグラ・マグラ」は精神病棟の話だ。
読み始めたころは、まさか自分が入院することになるとは思っていなかったので、気ままに冒頭部分を読んでいた。
だが、入院以降は時代の違いはあれど、「隣の部屋からすすり泣く声が聞こえる」だとか、「延々と同じところを歩いている患者がいる」だとか、リアルな表現で親近感が湧いた。
ラストは色々な受け止め方があることは以前から知っていた。
確かにそうかもしれない、ややこしい内容だった。
だが私は、時計の音と音の間に見た夢であると思う。
1人の精神病患者がまどろみの中で白昼夢を見る。私にもあった光景だ。
さて、自分の部屋に帰ってきた。
とても落ち着く。
ここに帰るまでにはバスの中で寝過ごしたり、迷子になったりと様々なトラブルもあったが、それももうおしまい。
入院までも、入院からも色々なことがあった。
首を吊ったり髪を剃ったり。でも、その経験があったからこそ今の心の平穏が保たれているようにも思う。
とりあえず、退院後見た景色が入院前よりも色鮮やかに見えたから、今はこれで良いんだろう。