抱き締めていたグンソクが俯いた。


「マスター…充電したい……」


何故か瞳も虚ろで俺が支えてないとグンソクはソファに倒れこんでしまいそうだった。

機能が低下している…?

人工知能が感じた悲しみがグンソクのカラダに影響を及ぼしているとしか思えなかった。
ここまで人間に近づけたグンソクを作れたかと思うと博士の頭脳と技術に舌を巻いた。

俺の手に負えないかもしれない…

このまま悲しみにくれたグンソクを放置していたら、また機能を停止してしまうかもしれない。漠然とした不安が心に広がった。


グンソクが充電している間に軽く夕飯を済ませた。グンソクの料理じゃないと味気ない。もはやグンソク無しでは生活が成り立たなくなっていると自覚した。
食べ終わるとすぐさま風呂に入り充電し終わったグンソクを起こした。


「寒いだろ?ベッドで寝よう。」


「あっ…マスター…ご飯はどうした?」


グンソクが聞いてきた。


「適当に済ませたから気にするな。」


俺が言うとグンソクがしょんぽりと俯いた。


「…俺って…役立たずだ……」


「…ん?」



グンソクの小さい呟きは聞こえなかった。聞き返した俺に軽く首を横に振って答えずに薄く笑ったグンソクは俺について寝室に来た。


「ほら」


ベッドに入り布団をめくっても、グンソクは毛布に包まり立ったまま動かない。


「どうした?」


「…俺……迷惑ばかり掛けてる…
マスターは男なのに…俺を抱いて眠るなんていやだよね…?」


一瞬ギクリとした。むしろ逆なのにと思ったがあの子の身代わりにグンソクを引き取ったと知れたらグンソクが傷ついてしまう。


「…そんなことはない。」


やましい気持ちを押し隠すように、なかば強引にグンソクの手を引いた。
グンソクが俺の胸に倒れこんで来た。その隙を逃さずに腕の中に閉じ込めた。


「まだまだ寒いからな。
湯たんぽ代わりにお前を抱いているんだ。
気にするな。」


抱き締める腕に力を込めた。初めはあの子の身代わりだったグンソクが、俺の中でいつしかなくてはならない存在になっていた。
グンソクは俺の言葉には答えず、黙って抱かれていた。






翌朝、肌寒さを覚え目を覚ますと腕の中に居たはずのグンソクが居なくなっていた。


「…グンソク?」


リビングの方に声をかけても返事はない。
慌てて跳び起き、家中を探したが何処にもグンソクは居なかった。


「こんな朝早くに何処に行ったんだ…」


独り言が口から溢れた。急いて仕方ない気持ちを落ち着けグンソクが行きそうな所を考えた。
直ぐにあの女子大生の顔が頭に浮かんだ。
俺はパソコンを立ち上げ、保存しておいたグンソクのGPSのデータを見た。
直ぐに女子大生の暮らすマンションの場所が知れた。
俺は手早く身支度を整えて家を飛び出した。



マンションの前まで来てみたものの困ってしまった。名前すらわからないので、彼女の部屋がわからない。ましてや見ず知らずの俺が訪ねて行ってもいたずらに警戒されるだけだろう。

とりあえず俺は車を近くのパーキングに停めると、マンションの向かいにあるカフェで彼女が出てくるのを待つことにした。

店内に入りコーヒーをオーダーした。コーヒーが出されるまで何とは無しに店内を見渡
すと店の奥の席に彼女が居るのが見えた。こちらに背を向けて座っている男と一緒に楽しそうにモーニングセットを食べていた。

あの子だ…。

背を向けて座っていたのはあの子だった。
コーヒーを受け取り、二人からは見えない席にとりあえず座り、どうしたものかと思案した。

グンソクは彼女の所には来なかったのか?

グンソクに会っていないなら彼女に聞いても仕方ないことだ。
そうは思ってもカフェから動けずにいた。
二人を気にしながらも俺は声をかけるタイミングを見つけられずに、俺は悶々とした時間を過ごした。