『夜明けのコーヒー』という企画に参加した。
ツイッター上で、リツイートで流れてきた、知らない人の企画だ。知らない僕が参加しても大丈夫だろうか? 不安な気持ちをよそに、ふたりほど知ってる人間が参加表明してくれたから、だから。
小説11人、漫画2人の、カップルによる夜明けのコーヒーというテーマで一時創作を……というやつ。
僕は読むのが遅い。
いや、読み始めれば早い。そういう意味の遅いんだ。だから、皆への感想、こんなに遅くなった。メンゴ。全員の作品が公開されたのは2月1日だというのに。以下、サイトの掲載順。読みながらの感想。
『without Apology』 島原ふぶき
なかなか好きとか愛してる等といった言葉を吐きかけてくれないツレナイ恋人。
おそらく、朝イチコーヒーというテーマが出てきた瞬間にそう決まったものと感じる。そこから甘い囁きとか味が甘いとかのダブルミーニングで日常をお洒落に飾っていく難しい工程を経たのも感じる。これは手練の仕業ですね……間違いない。
百合でもBLでも、ワイは「具体的な行為」が隠れている作品を好むばい。だので、「愛し合った朝も」のようにサラッと流されたあたり胸キュンである。このあと、ふたりでデートどこに行ったんだろう? ワイは横浜あたりをお勧めしたい。この年季の入った関係のおふたりが、中華街でご飯食べてランドマークで買い物をして、ちょっと足を伸ばして八景島でイルカを観るのも良い。日が暮れたら山下公園で観覧車を観ながら寄り添うんだ。あ〜、その光景を後ろから眺めていたいばいね〜。
うん、ここのカップルはとうぶん安泰だろうな。
『花』 カツサンド
読みやすさと安定性の真髄。
人並みよりちょっとは読書するワイだけど、実は読み始めるまでの時間が長い。読みたくて買ってきた一冊を目の前に置いて、たった一文字目を視界にするまで数日逡巡するなんてザラ。それがどうだい、このスラッと読めちゃう感じは? (本人の弁の通り)誰にでも読んでもらうために、敢えて平易で誤解しにくい気取らない言葉を選び、そのうえで全体をお洒落にまとめている。この軽やかなセンスはきっと万人受けする。
そしてなにより、他の人たちも言っていた通りで、「一晩」に限らず四季を巡らせて5杯飲ませるなんて発想、他の誰が思いつくだろう? この柔らか脳がとてもうらやましい。
四季を通じてただただ幸せな情景が続くのが、ともすると「起伏は?」と思う人もいるだろうか? いや、ただただ幸せにじゃれあうカップルを眺めて、ただただニヤニヤするだけで読者も幸せな気持ちになる。
『偏食とコーヒー』 陽本明也
おお、雰囲気の洒落た部屋だ。スマートの中でちょっぴりワイルドにステ振っただろう外見が目に浮かぶ。きっと演じるのはアゴにちょっぴり剃り残した竹野内豊あたりだな。バンド活動の情景やたら詳しいばいねー(そして正確。実際アマチュアバンドの打ち上げなんてあんな感じ)。やってる人かしら?
男が奔放(?)な女の子の真意を理解できないでいる。ただ、恋愛慣れした成人男性なりの落ち着きを持っているので本人は気にしていない様子、読者(ワイ)だけがヤキモキする。「おい大丈夫か、この手の女はそんなに押し付けたら消えるぞ」と。
……おおスゲェ、彼ったら押し付けるわけではなくサラッと彼女を懐に抱きとめたわけか。なるほどこんなナチュラルに彼女のための行動を嫌味無くできるなら、そりゃあ上手くいくよなあ。ハッピーエンドに至る道筋の説得力は十分。納得のラストばいね〜。
『黎明』 稲月瑠
抜群に前向きな性格のワイは、ドラマでも小説でも、気弱で内省的な男が主人公のとき大抵苛々する(男限定)。苛々しながら声を荒げて応援する。相手の意見を聞かずにうじうじと悩み続ける男に乱暴な言葉で激励を始めたら、既にワイはその作品にハマッている状態だ。ドラマなら必ず来週も観るし、観てまた声を荒げるんだ。
当お作品の小太郎にも、さっさと自分から話を振ってしまえと真剣に思わされるほどのめり込んだ。のめり込まされた。作者すげえテクだな。とにかくワイは我がことのように彼の悩みを案じた。(けっこー最初の段階で、この手の女の子は案外……とヒロインの真意には予測がついていたので)お前の悩みは勘違いだから早う彼女に話を聞きにいけよグズ、等と背中を押しながら読んでいた。気持ち的には既に小太郎はワイの友達、親友と言っていい。
だから、ラストにワイの親友の生活が明るくなったことをとても嬉しく思う。
『カメレオンコーヒー』 桐崎連雀
遠藤周作みたいな重みのある出だし。作者に迷いも照れも無い状態だと確信する(けっこーな大御所プロ作家の作品でも、行間に作者の照れを感じ取ってしまうことが稀にある、あれがワイあんまり好きではなくてね)。一本の道をブレることなく書き上げた芯の太さに感心しきり。
他の皆様にも、このラストは一見して寂しいもののように見えるだろうか?
いや、この夫婦は最期におだやかに笑いあう機会をもった。記憶を曖昧にさせながらも夫の好みを再現してみせたあの奥さんなら、さいごに笑いあえたことで(肉体的な苦しみはともかく)幸せな気持ちで死んでいったはずだと断言する。そのことにこの旦那が気付く日は、きっとくる。一般的には妻に死なれた男というのは気が抜けてしまって、すぐ後を追うような早さで死ぬというけど、「後を追う」みたいな悲しい死に方はしないだろう。
たぶんにこの旦那もおだやかに死ぬ。
『減らないコーヒー』 陽香
おっと、逆にこちらのご夫婦は悲しさの演出が秀逸ばいね〜。ラストの「おはよう」5連撃が実に重い。こちらの奥様は態度とは裏腹に、ふと気が抜けた瞬間に後を追ってしまいそう(積極的に死ぬというのではなく、例えば駅のホームで突き飛ばされた時に抵抗が弱い、的な)。
等身大の言葉遣いで主人公を読者に憑依させるとはたまげたなあ。
それにしても彼女、(表面だけ)強い女だな。ワイはこういう強い女に弱くてねぇ(強いて無理に元気を出しているかのようにも受け取れる、そのか細さを放っておけないぞ)。彼女自身は強く「あの人はここにいる」と断言しているし、裏付けるような現象もあるのだけど、やっぱり強がってるよねえ? ぜひとも旦那さんには安心して成仏してもら……そういうのは野暮か。
『砂糖は二匙』 Rew
なんて、端正な文だろう? 完璧だ。ワイの心は完全に奪われた。
読者を妨げない、けれど十分に必要な量のちょうど良い修飾。巧みつつも回りくどくならない、分かりやすく誤解しようのない主目。全ての小説家がお手本にしたい文。どんなに人気の大御所作家だって、どんなに独特の文体が売りの作家だって、癖のあるファンたちから支持されるプロ作家だって、全員が定期的にこの作品を読んで自身を調整したらいい。
内容のほう(アイデア的な部分)もまた十三作品の中で一頭離れた印象(大丈夫か? まだ残り読む前なのに)だ。Webのほんの1ページで、ワイはまさに邯鄲の夢を経験した。終わり方も実にお洒落。
ワイが出版社辞めずにいたなら、この作品いっこひっさげて、すぐにでも文芸誌への異動願いを出してたところだ。繰り返す。完全に心奪われたばい。
ところでレントの声は鳥海浩輔(愛島セシル版)だな。
『野うさぎとハイヒール』 壇ゆり
ああ、なんと。こちらも凄い。連続だ。相当に修練を積んで、文章から一切の無駄を省きつつ、そのうえで表現を弄って遊んでいやがる。心折れそう。
同じくお手本推奨したい作品なれど、こちらは表現に遊びがあるぶん人間の臭味があるばいねー。登場キャラクターが現実に壁一枚隔てた隣の部屋に座っていて、道路を歩いていて、すれ違うタクシーに乗っているような錯覚がある。
それにしても、この痩せた彼……出来る喃。出来るておる喃。 このシナリオなら、うまくキャスティングすれば昭和時代みたいに日本中のほとんど全員が同じチャンネルを観るような、そんなヒットドラマができそうだ。日本中の女の子たちが彼に恋するな。男たちは真似するね絶対。
「もう、苦いコーヒーは飲まなくてもいいんだと、言ってあげたい」流行語ノミネート確実な。
『二人の朝の始まりは』 明街黄緑
明るい!
いいねいいね、自分自身がこれから会社に行く直前……例えばほら、月曜の朝になんとか時間を作ってこの作品を読む。そんなに長くはないから、トイレで読もうか? ワイは徒歩通勤なんだけど、電車通勤通学の人なら(都内なら)3駅ぶんくらい? よーし! 今日もやぁーるゾー! ッて気分にさー、なるよねー。
これはスッキリしていて気が重くならなくて良い。ワイ、娯楽なら頭を使わせない作品ほど偉いと評価する。幸せなカップルの、幸せで事件の起きない日常の、今日もこれから何があるんだろうかと希望を持たせる終わり方。ベネ。
さて、今日はどこに行こうか。(今、在社内20時半だけど)
『寒空の下の小さなぬくもり』 虹風
おお、おお……ワイは恐ろしい。 このふたりには死相が浮かんでおる。
どの規模の戦いを続けているのだろうか? このふたりの様子から察するに、かなり劣勢にある勢力のメンバーだな。それも、覇権の政府軍を相手にしたほんの数百名もいないレジスタンスッてところか。しかもキルレシオは1対10とかだな。 なけなしのコーヒーなんだろ? 補給もままならない戦況のなか、せっかくだから贅沢しようッて言って、べこべこにへこんだアルミカップやヒビの入った陶製マグでやっとこさコーヒー入れたんだろ? それでホッとしていたら、夜明け前に一瞬だけふたりで眺めた朝日、それが大切な思い出になっちゃうんだろ? ワイ(勝手な)想像だけで泣いちゃうよぉー。
『君の知らない朝』 柊かえる
洒落た絵ですなあ。昔だったら『ネムキ』あたりで人気連載していそうな全体の雰囲気ばい。
でさー、あのさー、部屋の隅々に転がってるアイテムがいちいちたまらなく可愛いな!
小さいオイルヒーター、居間で寝ている(?)水木しげるめいた丸いクッション、ダイニングのラジオ……などなど……せっかく見た目良く生まれたんだから、彼よ、部屋少し片づける癖つけような?
ところでこの男の背景、予測が確かなら、ワイとほぼ被る。
市場に用事のある営みしてないし、早起きでもないけど。目の前の女に助けられた過去がある部分な。そりゃダメだよ、絶対に言っちゃあダメだ。「前の女のこと忘れられないでいる」のと同じ風に受け取る子いるもんな。あ、ワイは忘れていくクチだけど。
この彼女は気丈に振舞う女の子なんだろうけど、知ったら心にチクッと一刺しはあるから。だから、言っちゃあなんねえよ。
『フィルター越しの温度』 駒坂柚子日
これはまたお洒落メガネ……はよその子か。
この睫毛の表現よ! いつの頃からかふわふわした雰囲気の女の子キャラクターにこの強烈に訴求力のある表現が用いられてるけど、ワイのような素人にはなにがどうなってるのか全然把握できないんだよねえ。まあいいや。
こんなフワフワした子が家で待ってるなら、ワイなんか心配で心配で、残業なんざ人に押し付けて帰るけどねえ(21時になりそうなところ)。そんでね、そんでね、彼みたいに悩んだりせず、ストレートに言うんだ。好きとか愛してるとか。どんな事情がふたりにあるのだとしても、悩みを表に出さないことが解決じゃあないんだよッて、そう言ってあげたい。