中日新聞

http://www.chunichi.co.jp/article/politics/news/CK2009022802000156.html


不況の冷たい風が吹き抜ける師走の名古屋。


大手電機メーカーを派遣切りに遭った北区の男性(33)は1枚のビラを受け取った。


契約期間中の1月初めに解雇すると通告され、会社の寮も2月中の退去を迫られていた。


 ビラには「契約期間中の解雇は違法。相談は共産党へ」とある。


気がつけば、共産などの推薦で市長選に出馬する


愛知県商工団体連合会長の太田義郎(65)陣営が開いた集会の輪の中にいた。


 政治とは無縁で、これまで投票に行ったことはない。だが、自ら体験した派遣切りを生み出したのは政治。


「参加しないと、好き勝手にされてしまう」。今度の市長選は投票してみようと思う。


   □  □ 


 太田は、このような労働者の相談が特に増えてきたと感じる。


高まる雇用不安を背景に、共産党は全国で勢いを伸ばしている。


党中央委によると、ここ数カ月、若者を中心に毎月2000人近くが入党、


低迷していた機関紙の読者数も右肩上がりに増えている。


 その中で太田はあえて党を前面に出さず、市民派として戦う。


「女房と2人でずっと米屋をやり、勝手口から庶民の暮らしを見てきた。


庶民の苦しみが分かるのは私だけ」との自負がある。


 「共産党の推薦は受けていない」。


1月3日、朝刊を読んだ太田は驚いて本紙に抗議電話をかけてきた。


太田について「共産党などの推薦を得て出馬を表明している」と報じていたからだ。


 実際は、昨年12月16日に共産党が推薦状を出していた。


太田にしてみれば、自分は労働団体や女性団体などでつくる「革新市政の会」の候補であり、


党はその会の1つにすぎない。党から推薦を受けていたことすら知らなかったのだ。


 本山政雄市政(1973-85年)では与党の一角を担った共産党。


その後の市長選は相乗り候補に対し惨敗が続いたが、


消費税が導入された直後の89年は現職に8万票差まで迫った。


太田は「論戦に入れば支持を得られる自信はある」と腕をぶする。


   □  □


 だが、いち早く出馬を表明した太田に対し、他党はなかなか候補を決められなかった。


 自公民を与党とする市議会の運営は、常に最大会派の民主を先頭に立て、他党は後追い。


自民市議団の幹部は「候補者は民主に決めてもらう」「うちは半歩遅れてついていく」と言ってはばからなかった。


 28年間続いた相乗りに慣れ、政党としての目標や戦い方、候補の選び方すら忘れてしまったかのようだ。


 格差の拡大や派遣切り…。名古屋の「元気」は色あせ、有権者は今こそ真剣な政策論争を求めている。


市民派を自称する候補予定者たちのビジョンと、政党の存在意義が問われる選挙戦が始まる。 (文中敬称略)