中日新聞

http://www.chunichi.co.jp/article/politics/news/CK2009022602000144.html


4月の名古屋市長選は、迷走した各党の候補者選びがほぼ決着し、


自民・公明が支持する候補と、民主、共産の推薦候補による3つどもえの争いとなる構図が固まった。


総選挙の行方も占う市長選は、28年ぶりに相乗りが崩れ、市政の与党同士が正面からぶつかる戦いに。


有権者の政治不信や政党離れが強まる中、


3人とも政党色を前面に出さない“市民派”の看板を掲げて激戦に挑む。 (名古屋市長選取材班)


 1月29日。地元が推す弁護士の伊藤邦彦(55)か、一歩も引かない衆院議員の河村たかし(60)か、


どちらを候補に選ぶか託された民主党の代表小沢一郎は、党本部に河村を呼び、ただした。


「皆はあなたが最後にあきらめると思っている。党の推薦がなくても本当に出馬するのか」


 「党首に対し、失礼なので…」とためらう河村。小沢に「いいから」とうながされ、言い切った。


「党が伊藤氏を推薦したとしても、私は出ます。今度やめたら、自殺しないといけません」


 「そうか、あなたも2回目だからな」。やや表情を緩めた小沢は地元を丁寧に回るよう促し、


決定的な言葉を口にした。「最後はおれが仲介するから」


   □  □


 河村が意を決したのは昨年のクリスマス。党の実力者を自宅に訪ねて切り出した。


「腹を固めた。応援してもらえないか」


 民主党は当時、別の候補擁立に動いていた。党の動きに反しての「出馬」とは「離党」を意味していた。


 4年前の市長選。いったん出馬表明しながら党や家族の支持が得られず、


わずか2カ月余で断念。3選を目指した松原武久との激戦を期待した有権者を失望させた。


 「市民に対する心苦しさが、いまだに焼き付いている。今回は絶対に引かない。


二度と上を向いて、名古屋を歩けなくなる」


 この実力者は小さくうなずき、「まだ早い。もう少し情勢を見ろ」とだけ告げた。


 地元議員らは「パフォーマンス先行」と河村に批判的で、


「市民税減税」などの政策も「実現できるか」と懐疑的。県連は伊藤の擁立で結束し、


党本部も一本化を調整できぬまま、混迷は1カ月以上も続くことに。


   □  □


 河村といえば“自転車街宣”。党や連合など組織に頼らず、


5期連続で自公候補らに圧勝してきた強さがある。


小沢らの脳裏には「5月にも」といわれる総選挙に河村をどう生かすか、があった。


 党本部には、1月下旬、民間会社に極秘に依頼して実施した世論調査の報告がある。


「(無所属の)河村か、民主の伊藤か」。市民1000人に電話で聞いた結果は3対1。圧倒的な差だった。


 小沢らが恐れたのは、河村が離党して「悲劇のヒーロー」になり民主が敗れること。


総選挙の前哨戦としては最悪のシナリオだ。


 党に頼らず出馬すると決意した河村が、候補者選びの中心になった。


政権奪取を狙う民主党といえども河村人気を無視できない。


今月24日、市議団と会談した小沢は「とにかく、総選挙には勝たなければならない」と語気を強めた。


 河村擁立に動いてきた党幹部からは早くも


「総選挙の時には河村さんを応援演説に使いたい」との本音も漏れる。


 (文中敬称略)


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 名古屋市長選にはほかに自民・公明が支持する見込みの細川昌彦中京大教授(54)、


共産推薦の太田義郎愛知県商工団体連合会長(65)が出馬表明している。