「同じプロダクトなのに、、、」
私はスクリーンのその数字に愕然として呟いた。。。
「ていうか、オレら同じチームだろ!!」
吐き捨てるような先輩の言葉が真夜中のトレーディングフロアにひびく。
時はリーマンショックの直前、2008年の夏。
私は、non flow derivative チームに下っ端トレーダーとして所属していた。
チームの事を簡単に説明すると、non flow derivative というのは、いわゆるマーケットで活発に取引されている金融商品ではなく、高度な数学を用いてデリバティブ商品を作り出すチームであった。いわゆるロケットサイエンティスト達が活躍していた分野である。
CDOやサブプライムと言ったクレジット商品以外のほぼ全ての複合商品を扱うチームであり、2007年までの金融バブルの中では デスク1つで200億の利益を出す看板チーム だった。
ところが、2008年になり状況は一変した。
金融バブルが崩壊したのだ。
すでにもう一つの稼ぎ頭だったCDOのチームは1500億以上の損失という壊滅的な大打撃を受け、ロンドンでは大リストラが始まっていた。ニューヨークでも大赤字でボロボロになったポジションの後処理に四苦八苦している状態。東京のクレジットデスクもエクイティデスクも莫大に膨らんだポジションの後始末ですでに数百億の損失が出ていたのだ。
東京でも人員の淘汰は時間の問題と言われており、ピリピリを通り越して意気消沈していた。
幸い、我々のデスクはサブプライム商品を扱うデスクではなく、為替と金利のデリバティブデスクだったため、痛手は比較的に軽微であった。むしろデスクには
「東京支社の人間をひとりでも救うために俺らがもっと稼がなければ!!」
という使命感が残っていた。
マーケターの先輩は毎日のように企業を訪問して回っては、見込み案件を取ってきて、我々トレーダーと一緒に最良の取引のタイミングをずっと待っていた。毎日毎日、お客さんに情報を提供し、マーケットが歪むたびに資料を作り直し、何回も商品を作り直した。毎日激しく動くマーケットの中で、巨大なポジションをコントロールしながら。
朝8時に出社して、夜1時くらいまでなんてのはザラだった。NYマーケットに入っても仕事が終わらず、夜5時までという日が何日も続いた。少しでも会社の収益を前に進めるためだった。
あと5億収益を上げられれば、もうひとり多く守れるんだ。。。
遠すぎる収益目標を見過ぎると心が折れそうになるから、手前だけを見て少しずつ収益を積み重ねていった。むろん、我々のデスクとて苦戦を強いられていたのだ、5億だって容易な金ではない。でも、会社のみんなを支えているという気概で歯をくいしばって働いていた。
でも、悲しいかな。東京で働いている大部分の人間はすでに自分の保身しか見えてなかった。。。。
「同じプロダクトなのに、、、」
先輩と一緒にデータを見つけた私はスクリーンのその数字に愕然として呟いた。。。
「ていうか、同じチームだろ!!」
吐き捨てるような先輩の言葉が真夜中のトレーディングフロアにひびく。
ジンノウチの案件とアイダ先輩の案件、まったく同じ商品であるのに、与えられていた収益割当が3倍も違ったのだ。つまり、アイダ先輩の案件で抑えた収益分配を、ジンノウチに付け替えている。
言い換えると、ジンノウチは自分の部下のアイダ先輩の収益を横取りしていたのだ。もちろん、これにはトレーディングデスクにも協力者が必要で、その協力者が私のボスだった。ボスとボスが手を握ってひとりの部下の収益を奪う。そんなモラルハザードを夜中に見つけてしまったのだ。
我々はチームで仕事をしているとは言え、やはり外資系。収益の数字は個人にも割り当てがあり、その数字はボーナスの対象となるだけでなく、いざ人員削減の際には自分のクビを守る大きな盾となる。
外資系金融マンにとって命綱とも言える数字、、、これを奪うことはその人を殺すことを意味するのだ。
(汚ねえ。。。)
やりようのない怒りに、自分の横にあったゴミ箱をボコボコに蹴っとばした。
壊れてしまったので、ボスのと交換した。
その後も、社内では特定の権力者達の所に次々と収益が寄せられていく。それは徐々にエスカレートし、手段を選ばなくなってくる。
田村先輩は収益15億にもなる大型案件が順調に進んでいた。
古巣の三菱時代からの彼のお客であった。
ところが、案件クローズ目前にして彼は銀行への出向が決まった。飛ばしである。
そして、その案件を引き継いで2週間後にクローズさせたのは、彼を飛ばした上司ジンノウチだった。
(オレはこいつらを守るために働いてるのかな)
激高というよりも、呆れた。
その日、久しぶりに早く家に帰った。
すでに、私の使命感は行き場を失った。
同じチームですら、殺し合いが行われているのだ。部署やチームが違ったらなおさらである。
次第に堰を切ったように会社内のモラルは低下していく。
営業は同僚の案件を奪うために情報漏えいのデマを流すようになった。トレーダーは他デスクの収益を奪うために無理矢理自分を通してトレードさせるように政治力を展開した。管理職達は、大きな案件を自分だけで抱えるようにし、部下にも関わらせず情報の秘匿をもって自分を守ろうとした。
沈みゆく船の中で少しでも高いとこに行こうと、なりふり構わず生き残りにかかっていたのだ。
まもなく
「リーマン破綻」
事態はさらに悪化する。
(続く)









































































