黒緋‐クロア‐の中はこうなってます。 -2ページ目

黒緋‐クロア‐の中はこうなってます。

ブログと、趣味の小説を書いていくと思います。

 精神力をかなり持っていかれた感覚があった。公園での会話を整理しながら、俺は久城真人を追う。

(久城真人が言っていた“未来の知り合い”は、久城一真本人のことだったのか? いや……)

 直前の出来事を思い返しながら考えてみると、必ずしもそうではないのかもしれない。

(あれが“俺”の可能性もあるのか?)

 自分が過去の世界にどのように干渉できるのか、俺はまだ知らない。《アンダンテ》と一緒に受け取った黒い正六角柱《グリッター・オブ・トワイライト‐黄昏か薄明の輝き‐》を使うイメージは皆無だ。

(そもそも、進藤勇気に見つかったらアウトなんじゃないか?)

 多少の会話は望めるのかもしれないが、結果としては消されているわけで……今はただただ魔力として存在するだけだから見つかりようがないが、身体にしたら一発で異変を感じさせてしまうように思う。

(俺が久城一真を演じ、未来に繋げる……)

 あくまで、そういう選択肢もあるという話だ。それをしない選択肢も、俺にはある。さて、どうしたものか。

(……久城真人はコンビニに寄って、その足で帰宅。久城一真は出てこなかったか……)

 家までの道のりで、久城一真が出てくることは無かった。どのタイミングで公園に入るように指示を出した? 事前に伝えてあったのか? 進藤勇気の気配も無い。久城一真はあの瞬間にだけ出てきて、あの数分で消されたのか?

(情報が足りない気がする……)

 会話から読み取れなかった情報もあるのだ。仕方ない……と、思う他ない。

 

 

その後、久城真人と進藤勇気をなるべく並列して見ているが、特に大きな動きは無かった。今城梨紅を見ながら終始にやけている今城幸太郎は予想通りだが、久城真人も似たようなものだった。流石ににやけてはいなかったが、オムツを変える時も、抱いている時も、愛おしさが伝わってくる。

(……ちゃんと、父親なんだよなぁ)

 久城一真の記憶に、父親のことはほとんど残っていない。それはそうだ、物心ついてから会っていなかったのだから。この男の16年を知っているのは、俺だけだ。

(記憶……)

 公園での会話から、進藤勇気は“記憶に干渉する力”を持っていることがわかる。これは、脅威だ。記憶を消す、記憶を植え付ける。久城一真によって、久城真人がやるべきことが示された。それだけで、あんな勢いで働けるものだろうか。少なからず、進藤勇気から何かされているとすれば、何だ……?

(進藤勇気“たち”だとして、そいつらの目的がわからない今、考えても仕方ないのかもしれない)

 俺は改めて、久城真人に視線を向ける。子の幸せ? 未来のため? 父親とは、そのためなら何でもできる……本当にそうなのか?

(わからん……俺も、父親になれば、わかるのかなぁ)

 そんなことをぼんやり考えながら、自分の意識が薄れるのを感じる。

(……何考えてんだ、俺は)

 不意に、意識がはっきりする。俺は慌てて《アンダンテ》を見ると、その灯は消えかけていた。

(いつ消えてもおかしくない……17年戻れるんじゃなかったのか!)

 自分が何処まで戻れるのか、《アンダンテ》の効果が切れた時、自分がどうなるのか。今まであまり触れてこなかった不安が、呼び覚まされる。

(少なくとも、あと数日……2人が産まれるまでは、もってくれ)

 俺は祈るように、《アンダンテ》の灯を見つめた。