第二の人生のススメ 2 | お気楽ごくらく日記

お気楽ごくらく日記

白泉社の花とゆめ誌上において連載されている『スキップ・ビート』にハマったアラフォー女が、思いつくままに駄文を書き綴っています。



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「落ち着かれましたか?」

キョーコの前にコトリと湯呑茶碗を置くと、気づかわし気に蓮は訊ねた。

「はい・・・」

キョーコは鼻の頭を真っ赤にさせながらも、幾分か落ち着きを取り戻したようで、蓮は内心胸を撫で下ろした。
キョーコが蓮と街中の雑踏でぶつかった時、命を絶ってしまいそうな絶望的な顔をしていたので、蓮は心配していたのだ。

蓮の車で、蓮の勤める法律事務所まで移動したのだが、車中、ずっとキョーコは時折溢れ出そうになる涙をぐっと堪えるために両の手を握り締めていたのを蓮は気付いていた。

蓮の勤める法律事務所の一室に案内したとたん、それまで我慢に我慢を重ねていたのだろう。
蓮の胸の中でキョーコは号泣し、蓮はそんなキョーコが落ち着くようにとひたすら背中や頭を撫で続けた。

「見っともなく取り乱してしまい、本当に申し訳ございませんでした。」

縮こまりながら謝罪するキョーコを安心させようと、蓮は笑いかけた。

「いえ。大丈夫ですよ。こんな事があって、パニックにならない人間はいませんからね。
あなたのお母様とご婚約者様のご両親に連絡がつきました。皆様急いで、こちらにお見えになるとのことです。」

「あ・・・何から何まで申し訳ございません。」

ずっと頭をペコペコ下げるキョーコに蓮は違和感を覚えたが、それを口にする前に二人のいる部屋のドアがノックされた。

「どうぞ。」

「初めまして、この度、あなたの担当になります大原愛理です。」

入って来たのは、蓮と同い年ぐらいの綺麗な女性だった。

「初めまして、最上キョーコと申します。」

「え?最上?もしかして、最上先生のお嬢さん?」

「母をご存知なんですか?」

「ええ。大学時代に最上先生のいる事務所でバイトしていた事があったの。最上先生はいつでも冷静で、よく冷たいって誤解されがちだけど、そうじゃないのよね。
疑問に思った事や分からない事は質問すればとても丁寧に教えてくれて、とても勉強になったわ。
最上先生は私の憧れであり最も尊敬する法律家なの。」

家では仕事の事は口にしない母だけに、他人から自分の母の仕事ぶりを耳にするのはなんだかくすぐったい感じがした。

愛理が楽しそうにキョーコの母の事を語っていると、再びノックの音がした。
愛理が席を立ってドアを開けると、そこには急いでやって来たのだろう、汗だくになっているキョーコの母親の冴菜と松太郎の両親が立っていた。
三人とも、訳が分からないと言う表情をしている。

蓮と愛理が三人を椅子を勧めると、すぐに事務員がお茶を運んできた。

「今日、結婚式って、どういう事やの?」

松太郎の母親が言うと、蓮はキョーコに今日の事を話すように促した。

キョーコは、なるべく感情的にならない様に務めて冷静に一つ一つ言葉を選ぶようにしながら話したのだが、話が進むにつれて松太郎の両親の顔が青くなっていった。
”冷徹な女弁護士”の異名を取るキョーコの母親も流石に言葉を失くしたようで、呆然としていた。

キョーコが一通り話し終わると、松太郎の両親はいきなり土下座をした。

「この度はうちのアホ坊がエライ迷惑をかけて、堪忍え。キョーコちゃん。」

「謝って許される事じゃない事は分かってるが、うちのアホ倅がこんなドアホな事をするとは思いもよらなんだ。」

「女将さん、板長、お願いですから頭を上げて下さい。」

「そうです。不破さん。でないと、話し合いになりません。」

キョーコの母親もそう言うと、二人はようよう頭を上げた。

「どうぞ、席にお着き下さい。」

蓮の言葉にヨロヨロとしながらも、松太郎の両親は椅子に座った。

「結納まで済ましたのに、一向に結婚式の”け”の字もアホ坊の口から出てけえへんから、一体どうなってんのやろうって、うちの人と心配しとったんやけど・・・」

「いくら自分の子どもの事とは言え、もうええ大人のすることに口出しするんもなぁって話しとったんや。」

「・・・私も仕事の忙しさにかまかけて、ほとんどキョーコの話を聞いてやることが出来ませんでした。」

冴菜と松太郎の両親は反省しきりの顔で言った。

キョーコは疑問に思った事を松太郎の両親に訊いた。
式の日取りなどを両家の両親に伝えようとしたのだが、何故だか松太郎がそれを異様に嫌がり、自分の両親には自分の口から話す、と言う松太郎の言葉を信じて、松太郎にそれを任せっきりにしていたのだ。

「あの、ショーちゃんはなんと言ってたんですか?式の話を私が伝えようか?って言った時に、ショーちゃんには自分で親には話すからお前は何も言うなって言われたんですけど。」

「うちらは、アホ坊から結婚は来年やって聞いてたんやけど。普通は結納済ませたら、もっと早くに式をやるもんやって、言うたんやけどな。お金が足りんからもうちょっと待ってくれって言われたんよ。」

「え?お金がない?お金はちゃんと貯めてたんですけど。それに、ちゃんと予算内で収まるようにプランナーさんとも相談して色々準備してたんです。」

もっとも、それは全てキョーコが一人で手配したのだが。

キョーコが招待客などの相談をすると松太郎はいかにも面倒臭そうに、勝手に一人でやれと丸投げされたのだけれど。

「しょ、松太郎さんに言っても、全部私の思うようにやれって言われて・・・」

キョーコの言葉に松太郎の両親のみならず、冴菜までもが顔を顰めた。
女性が主導で準備をする事は多くても、男性が全くのノータッチと言う事はあり得ないのだ。

「あんの腐れ外道が!!」

地の底を這うような声に驚いて振り向くと、松太郎の母親がおどろおどろしい空気を纏っていた。

四人のやり取りを聞いていて、蓮はおもむろに口を開いた。

「おそらく、最上さんのご婚約者様は最上様と結婚する気は全くなかったのでしょうね。」

「結納まで済ませてるのにですか?」

松太郎の母親の言葉に、蓮は頷いた。

「ええ。これは私の推測でしかないのですが、もう結納までしてしまったら後がないから、なるべく先延ばしにしようと悪あがきをしてるんじゃないでしょうか。」

「そんな、結婚する気ないんやったら、もっと早うにうちらに言わんのや。」

キョーコも全くの同感だった。
松太郎とキョーコは幼馴染で、いつ頃から二人の結婚話が出て来たのかはもう忘れてしまったが、それでも、結婚をやめたいと申し出るチャンスはいくらでもあったろうに。
なまじ、キョーコにとって、松太郎は幼い頃から白馬の王子様だったので、今日の仕打ちはひどく堪えている。

「最上さん、一つお聞きしたいのですが、あなた方のウェディングプランナーはどなたです?」

蓮が訊くと、キョーコは持っていたバッグから一枚の名刺を取り出した。

「アカトキホテルの安芸祥子さんです。」

「今の所、証拠も根拠も何もありませんが、おそらくはそのウェデイングプランナーと今日の事を共謀したのではないでしょうか。」

蓮の言葉に松太郎の母親の顔は完全に般若化した。

「弁護士さん。お尋ねしますが、この場合、キョーコちゃんがうちのアホ坊に慰謝料を請求することはできますわな?」

「ええ。出来ますよ。ただし、今のところは全く証拠がございませんので、それを手に入れる必要がありますが。もしご希望であれば、当事務所で懇意にしている興信所に依頼する事もできますが。」

「では、その興信所の手配もお願いします。」

「え?お母さん?でももうお金が…」

興信所も相当お金がかかるらしいと噂を聞いたことのあるキョーコが恐る恐る冴菜に聞くと、冴菜はきっぱりと言い切った。

「今のままでは、あなたは前に進むこともどうする事もできないでしょう?お金の事は心配しなくて大丈夫よ。私が出すから。仕事仕事で、ろくにあなたに接する事が今まで出来なかったから、せめてもの罪滅ぼしにこれ位させて頂戴。」

「弁護士さん、キョーコちゃんはどのぐらい慰謝料を請求できますのや?」

「請求だけなら、いくらでも出来ますよ。後は互いの相談になってきますが。」

「そう。キョーコちゃん、あのアホ坊にお灸をすえるためにも、とことんふっかけてやってや。」

松太郎の両親の心強い声援に(?)戸惑いながらも、キョーコは頷いたのだった。

《つづく》

書きたい所まで行かなんだyo。
あと、2chから仕入れた情報を基に書いてますので、実際は違うよ~と思っても、そこはスルーして下さいまし。